悪癖

僕には今すぐ直したい悪癖がある。
発動条件が「中身が分からないおにぎりやパンを誰かが食べている」なので頻繁に癖が発動してとても厄介だ。

僕は、おにぎりやパンなどパッと見ただけでは何おにぎりか何パンか分からないものを見ると中身が病的に気になってしまうのだ。

なのでおにぎりはラベルが見えなかったらほぼ敵だしクリームパンやあんぱん、ジャムパンなども袋に何パンか書いてないとだいぶ敵だ。

この悪癖が散歩中だったり遊んでたりするときに発動してくれれば全く問題はないのだが、バイト中に発動すると本当に厄介だ。

僕がスーパーマーケットの駐車場の警備のバイトをしていたときのこと。

スーパーの道路の横断歩道付近に立ち、歩行者が駐車場を横断しそうになったら車を止めて歩行者を渡らせてあげるという警備をしていたのだが、あろうことか僕が車を止めている最中に僕がいる横断歩道からちょっと離れた位置で、スーパーの中に併設されてるパン屋さんで買ったであろうパンをおじさんが食べているのだ。

僕はおじさんを凝視せざるを得なかった。

おじさんはすごく優しい人で、「渡りませんよ」とジェスチャー付きで教えてくれた。

でも僕にはそんなことは関係なかった。

そのパンが何パンか、それだけしか気になっていなかった。

歩行者が渡り切ったのだろう、クラクションを鳴らされているのは分かっている。

「あともう少しでパンの中身が見える、それまで待ってくれ!」と心の中で祈っていたがその願いも届かず、車から1人の若めの女性がすごい剣幕で降りてきた。

そして大きい声で僕にこう言った。

「あの人渡らないって言ってますよね、早く車を通して下さい!」

ごもっともだった。

ぐうの音も出ない。

この怒りをおさめる方法は一つしかなかった。

そのごもっともな女性にこの悪癖について丁寧に説明をした。

怒りの表情はやがて「あ、この人会話できないタイプの人だな」という表情に変わった。

クレームが入ったのだろう、その日以来そのスーパーの警備を任されることは無かった。

おじさんが食べてたパンはクリームパンだった。

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