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たんぽぽの綿毛を飛ばして昔の自分と再会する

小さい頃、たんぽぽの綿毛に息を吹きかけて飛ばすのが好きだった。
田舎だったからたんぽぽがたくさん咲いていた。
綿毛を見つけては飛ばす私。
「飛んだー!」そう祖母に言って綿毛が飛んでいく方向にひたすら走った。

いつからだろう。
たんぽぽの綿毛を飛ばして遊ぶのを辞めたのは。
友達と鬼ごっこしたり、おままごとする方が楽しくなったから?
宿題をやらなきゃいけないから?
新しいドラマを見るので忙しかったから?
覚えていないけれど、たんぽぽの綿毛を飛ばすより楽しい事がたくさん見つかったからだろう。

あれから20年以上経って、自分で自由に使えるお金も持っているし、毎年定期的に会う友達もいる。大切な恋人もいる。
たんぽぽの綿毛を飛ばすより楽しい事をたくさんしてきたはずだった。

それなのに。
綿毛を飛ばして遊んでいた頃に戻りたい自分がいる。
大人になった私は情けなくてかっこ悪かった。
小さい頃の私にとって大人は、何でも出来て無敵の存在だった。
でも大人になっても何も変わっていなかった。
大人数の飲み会は苦手だし、仕事は続かない。
小さい事でくよくよ悩むのも変わっていなかった。


今の季節、たんぽぽの綿毛が道端にたくさんある。
たんぽぽの綿毛に興味を示す愛犬を見たら、私も綿毛を飛ばしたくなった。

綿毛に息を吹きかえる。
思いっきり息を吐いたのに全然飛ばない。
別の綿毛で試してみる。今度は飛んだけど風が吹いていないから遠くに飛ばなかった。
それでも綿毛がふわふわと浮かんでいる姿は綺麗だった。
小さい頃みたいにはしゃぎはしなかったけど、何だか懐かしい気持ちになった。

綿毛を飛ばした事で、小さい頃の自分と久しぶりに会った気がした。
「道端にはこんなに楽しい事がいっぱいあるんだよ!」昔の自分がそう言った。

綿毛を飛ばしたところで、大人数の飲み会が得意にならないし、仕事が続くわけでもないし、くよくよ悩まなくなるわけじゃない。
そんな自分でも綿毛を飛ばして楽しんでいる。
周りから見たらいい大人が何やってるんだって思うだろう。
それでもいい。
綿毛を飛ばしている間は昔の自分に戻れた気がした。
小さい頃の楽しかった思い出は、時に自分を救ってくれるのかもしれない。

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