香港游記 3日目

※出てくる人名は全て仮名です。

 この日の朝食は菠蘿油(ボーローヨー)。

 これを食べたくて、西營盤の坂道を歩く。香港は坂道だらけだ。この辺は特に「坂道の街」と呼ばれるくらいには坂道だらけらしい。東京も坂道が多いところはあるけどアジアの都市って坂道がちなんだろうか。
 又の名をpineapple bao。でも別にパイナップルが入ってるでもなんでもない。ネーミングのそれは日本のメロンパンと一緒。でも、味はまたメロンパンとも違う。メロンパンほど甘くない。どっちかというとしょっぱい。何かをサンドして食べるのが一般的で、厚切りのバターを挟むのがメジャーっぽい。私が食べたのはスクランブルエッグを挟んだやつだったけど、これも美味しかった。
 ネットで検索すると、菠蘿油は「台湾メロンパン」という名で紹介されている。確かに台湾に広まったらしいけど、発祥は明らかに香港で、日本人には何でも「台湾」とつけとけば受けるみたいな日本人にも菠蘿油にも失礼なネーミングで腹がたつ。香港メロンパンだよばーか。しかも、本当に甘いメロンパンでバター挟んで売ってるらしく、その辺の再現度の雑さも腹がたつ。浅草にある「台湾メロンパン」屋さんはすでに「閉店」と書いてあって私は気味が良かった。ネットで調べた感じ、一昔前に流行らせようとして失敗した感じに溢れている。台湾だなんてテキトーなこと言うから…。

 その後、銅鑼湾に向かう。Bertさん曰く、香港の渋谷。ファッションブティックやショッピングモールが立ち並ぶストリートエリアという意味で、納得である。街をフラフラと歩きながら、ガイドブックに載ってた雑貨屋さんなんかを漁る。これは私の悪い癖なんだけど、ガイドブックに載っているのをみている時は、あれ欲しい、これ欲しいと思いを巡らせたりするのに、実際に商品を目の前にすると、値段のことを先に考えてしまって、ちょっと「高いな」と思ったら最後、その商品の輝きがどんどん薄れていく。で、帰国してから「買っておけば良かったのかなぁ」と手遅れになってから急に後ろ髪を引かれる。日本だったら、もう一回行って買うこともできるけど、国境を越えちゃってるからそんな簡単にあいつらは手に入らない。私はまだそんなにショッピング慣れしていないようだ。また今度香港を訪れる口実にするしかない。

 さて、そんなこんなでふらついていると、だんだんお昼の時間になってくる。今日のお昼は香港に行くなら絶対に行こうと決めていたお目当てのお店に行く。これ、とある特定の店を名指しできるのは優柔不断の私にしてみれば珍しい方である。
 そんな優柔不断の私が唯一行こうと渡航前から思っていた店。それはVivienne Westwood Cafeである。世界に香港と上海の二店舗しかない。ブティックは東京にあっても、Cafeはない。私のずっと前から好きなブランド。お財布がVivienneなだけどたくさん持ってるわけじゃないけど、ずっと好き。銅鑼湾のブティック街の中にある。
 お店に入るや否や、Vivienneのロゴに、特徴的なタータンチェックのあしらわれた食器に、大興奮だ。可愛い!
今夜はBertさんの息子さんLenさんと、Lenさんの彼女、Alissaさんの案内で旺角のストリートフードを食べる予定。昨日のBertさんのガイドで、バカみたいに食わされたので、多分今日もバカみたいに食わされるからランチは抑えめにしておきたい…。


 結局、チキンを挟んだパニーニのランチセットにした。スープとフレンチフライがついて、結構ボリューミー。抑えめとは。
 でも、やっぱりヴィジュアルがかわいいなぁ。うーん、これ絶対Vivienneフィルターかかってる。お値段も内容にしちゃめちゃんこに高い、高過ぎる。(約3800円)でも、絶対行くって決めてたんだもん。フレンチフライが美味しかったです。

 ランチを終えて、一階のブティックを物色。Vivienneを食って、もう心はVivienneになってしまっているため、ものすごく欲しい。Vivienneのオーブのネックレスが欲しい!が、悩む!せっかくなら今買いたいけど!
 でも、悩んでいる時間もそんなに無い。この後香港中文大学とのアポがある。ここは一旦写真を撮って、1日悩んで、明日買うかどうか決めよう。

 というわけで、銅鑼湾を後にし、香港中文大学へ向かった。
 香港中文大学(CUHK)は、中心部の尖東(East Tsim Sa Tsui)駅から30分ほど。これは後日談だけど、この翌日に私は香港大学(HKU)にも行った。HKUとCUHKを比較する上で、一番ネックになってくるのは、個人的にアクセスだと思った。CUHKが中心部から30分かかり、しかも山一個まるまる大学みたいな感じで、大学自体がめちゃくちゃに広い。ここで生活することを考えると、まず大学を出る=山を降りるところですでに一苦労だ。それに比べて香港大学は香港島の中心部の中にある。中環まで3駅。10分とかからず、CUHKに比べて都会的な印象を受ける。だから、全体的な印象として、CUHKは田舎とまではいかないかもしれないが、やっぱり「山」で、HKUは「都会」だ。ここら辺の好みは分かれるところだろうが、私は都会っ子なので結局HKU派だなというのが最終的な結論である。ちなみに、私は普段大学まで1時間半かけて通っている。往復三時間。他の学生みたいに大学に遅く残ったりして、授業以外の活動やサークルで満足に参加できない。CUHKの都心から30分なんて、普段の私からすれば甘っちょろいようなものだが、留学となるとそうはいかない。というのも、私が今一人暮らしや寮生活をせずに、長時間通学に耐えているのは、親と実家暮らしを続ける代わりに、留学は絶対にさせてください、という金銭支援的な交換条件の元、今の生活を続けているからであった。だからこそ、せっかく留学するのなら、都心から近い方が良い。元々そう思っていたわけではないが、二つの大学を見学したあと、両者を比較する上で、アクセスが結構鍵になってきた。

 さて、話が逸れたが、香港中文大学は山であり、街である。実際、大学の構内に生活している一般人もいるらしい。
 大学駅(本当にこの名前だ)を出てすぐ、大学病院が見えて、学生カードをかざす大学の入り口がある。私は学生では無いので、Othersの方へ。パスポートをみせ、要件を伝えれば入れる。
 駅前には野菜や焼き芋の路上販売をしている人々がいた。ここは大学である。

 きちんとたどり着けるか心配で、かなり時間に余裕を持ってきてしまった。1時間くらい余裕があったので、適当にその辺をうろついてみる。待ち合わせ場所近くの書店に入る。
 大学書店、めちゃくちゃでかい。日本で見た本が中国語で書かれているのをみると、グローバル化を感じる。(?)
 それに比べてうちのICUは私が入ったタイミングで大学書店は潰れた。かつて高校生だった時に訪れた書店は今や跡形もない謎スペースになった。私は書店が好きだったので、悲しい。そして、書店がないとは学問の場にあるまじき事態ではあるまいか…。私は大学食堂やコンビニなんかより、書店が欲しい。
 こんなにおっきい書店があれば、学生はさぞかし満足であろう。向かいには、おしゃれなカフェがあった。うちのICUは名ばかりのカフェと名のついた、コンビニにも及ばないちっせぇ無人レジの謎店がある。

 時間はまだちょっと早いけれど、待ち合わせ場所を離れすぎて迷うのも嫌だったので、待ち合わせのi-centre(国際交流室的なオフィス)へ。
 今回、香港渡航前に事前にこちらから大学見学の問い合わせをしたのは、ここを含めて3校で、大学の方からしっかりした返信があったのは、実はこのCUHKのi-centreだけであった。他2校の国際交流室は、「大学はオープンになっているので、自由に自分で見学してください」、と返ってきた一方で、ここCUHKだけは「こちらでガイドの生徒を手配するので、ぜひいらしてください!」と丁寧に返ってきた。だから、CUHKを田舎呼ばわりする一方で、第一印象が一番良く、大学の人柄として優しさや親切心を感じるのはCUHKの方であった。その意味でも、田舎っぽいと言えるのかもしれない。
 時間はちょっと早かったけど、渡航前にメールでのやり取りをしてくれた
Jenniferさんが笑顔で迎えてくれた。
 ガイドの生徒さんが車でまだ時間があるから、それまで大学のパンフレットを使って、色々と説明してくれた。質問にも丁寧に答えてくれる。
 しばらくして、二人の学生さんが来た。一人はあゆみさん。ICUからCUHKに来ている日本人の留学生。もう一人はMiaさん。去年、CUHKからICUに留学していた香港人の学生。
 二人の案内で、CUHKの色々を周る。まず、有名だという池(Wei Yuan Lake)の上にかかる橋の上で記念撮影。そのあと、バスで大学の上の方へ。山だ。山を登っている。大学校内には無料バスが走っていて、学生カードが無くても乗り放題。すごい。ICUはやたら広いだけで移動が大変なので、ICUにもバスとか通ってて欲しい。

 山の頂上に来る。めっちゃ景色が綺麗だ。Victoria Peakからみた香港の景色はいかにも都会的だったけど、CUHKの頂上から見る香港は自然に溢れていて、都会と自然が共存しているのも香港の特徴だと思う。ここでも記念撮影。これはHKUにも共通することだが、大学内に観光地化しているスポットがある。ここもその一つらしい。

 それで、大学内を歩きながら、寮や授業の開講されるキャンパス、食堂を見て回る。キャンパスなんて何個もあるし、食堂も図書館も複数ある。ここの食堂は安い、ここの食堂は美味しい、ここは高いけどイマイチ。それぞれの食堂に特色があって、学生それぞれに推し食堂があるらしい。規模感が違いすぎる。(だからこそキャンパス内の移動が大変そう)
 大学内の建物を見ながら、連絡橋の隅に花が手向けてあるところがあった。先月くらいに、学生がここで自殺をしたらしい。HKUでも自殺する生徒は一学期に一人くらいいるらしい。

 一通りCUHKを案内してもらったあと、私はLenさん達との待ち合わせ場所の尖沙咀に向かう。これまたまだ時間があったのだが、それ以上に、この段階で私の足は山を歩き続け、限界を迎えていた。どっかに座りたい。スタバにでも入って…。と思ったが、スタバもどこも満席。めっちゃ混んでる。なんとか見つけたショッピングモールのソファに座って、1時間ぐらいぼーっとしたり、家族と電話したりして過ごした。日本だと、一つのソファに一人座っていたら、他の人はあまり寄り付かないけれど、香港だと知らない人同士でソファに座っているのは、香港の茶餐廳に見られる相席文化だと思った。

 さて、時間になって、LenさんとAlissaさんに会う。
 LenさんもAlissaさんもお二人とも美人。Alissaさんは香港の有名な美術館で働く学芸員さん。次の特別展を間近に控え、今回歩きながら仕事のやり取りをずっとやっていて、忙しそうだった。しごできで美人で優しいめっちゃ優等生じゃん。

 予想通り、この後めちゃくちゃに食わされる食べさせていただく。
 女人街や金魚街など、香港のナイトマーケットを歩いて回る。私は安っぽい子供向けみたいな雑貨や、意味のわからないTシャツが好きなので、女人街に売ってるTシャツとか、雑貨とか、どれもこれも実は可愛いと思っていたのだけど、ここで偽物安物ばっかりに目を輝かせているのは、これからご飯を奢ってもらうお金持ちのお坊ちゃんを前にみっともないような気がして、「安物ばっか買うのもダサいですよねぇ」みたいな顔してツンと女人街を通り抜け、翌日もう一度、自分で物色しに行くのであった。

 それから、ローカルレベル高めのストリートフードをいただいていく。私の言うローカルレベルは英語の通じなさとほぼ同義である。地元の人間じゃないと注文も難しいよね、っていうこと。香港のストリートフードを売ってるおばちゃんは基本英語は通じず、しかもものすごい圧と勢いがある。はよ注文しい!!!みたいな。今気付いたところだが、香港のおじちゃんおばちゃんは関西のおじちゃんおばちゃんに似通っているところがある気がする。
魚蛋(フィッシュボール)、魚肉焼売、煎釀三寶(ピーマンとナスのすり身鋳込み)、臭豆腐、砂肝etc…
 Lenさんのお気に入りだというココナツジュースは確かに美味しかった。ミルキーな感じの味わい。香港のミルクティーもそうだが、香港のミルキー系のドリンクは、超濃厚。

 そいで、茶餐廳に入る。もうすでに朝食で何度かお世話になっている茶餐廳。茶餐廳も有名でね、なんて説明を受けるが、私はすでに茶餐廳のファンである。しかし、案内されなければ試さなかったであろう品々を食べることができたので、その辺は良かった。が、すでに私は腹いっぱい。せっかくなので詰め込んでいく。
インスタント麺2種類と、西多士(香港式フレンチトースト)を食べる。インスタント麺なんてどこでも食べれるとおもって食べていなかったのだが、店で食べるインスタント麺はなんか違う気がした。ちゃんと具材が入ってる。肉とザーサイが入っている。食べ応え抜群。それ以上に食べ応えがあるのが、西多士。フレンチトーストを揚げたやつの中に、ピーナツバターが入っている。カロリー爆弾。甘い。美味い。やばい。カロリー爆弾。甘い。

 最後にデザートを食べる。西多士はデザートじゃない。
 佳佳甜品。覚えてる。「地球の歩き方」に載ってた。めっちゃ混んでるし、絶対超有名店。でも、香港のローカル飲食店は基本的に回転率命なので順番が回ってくるのは早い。
 香港の伝統的な糖水という、デザートスープのお店。私は黒胡麻味のを頼む。色々種類があって迷ったけど、黒胡麻にハズレはない。実際、当たりだった。そういえば、日本には、あまりデザートスープという概念がない。スープといえばお食事系スープばかり。お汁粉があるか。でも、お汁粉ってあんこ味しかないじゃない。黒胡麻とか杏仁とかも食べたい。これこそ日本で流行るような気がするけどなぁ。台湾ばっかりじゃ無くてさ。

 この日歩いた歩数は3万歩を超えていた。たくさん食べたけど、今回の旅ではたくさん歩いて相殺できていると信じている。膨れた腹を抱えて、風呂に入るまでの余裕は残っていなかった。





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