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温泉旅館・由縁 新宿の静けさ

都市への人の集中はこのまま進むのでしょうか。必ずしもオフィスに出社する必要がないと分かった私たちは、これからも当面は人混みを避け、ある程度の分散を志向するのではないでしょうか。結果として、東京には活気がなくなるのではなく、静けさが戻ってくると思いたいものです。

 静かな東京の街を歩くと思い出す場所。温泉旅館「由縁 新宿」が開業1周年を迎えられたそうだ。

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 銀座の「MUJI HOTEL」も手掛けたUDS社は、新宿の片隅に、いわゆるソーシャルホテルを旅館の解釈で体現している。他ではカフェが果たす半公半私の役割を、温泉とその隣のラウンジに担わせ、食事を含めた上質さで快適な滞在を演出するのだ。都心の夜景を望む露天風呂、ダイソンのドライヤー、朝食は副菜に二段のお重。ここには一切の妥協を感じさせない体験価値がある。

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 その特徴は陰翳だ。暗い夜をただ照らすのではなく、暗いことを美しいと讃えてみる。谷崎潤一郎が見出した日本古来の美意識は、引き算のデザインなどと一言では片付けられないほどに、あらゆるモノゴトに影響を与えている。衣食住の全てに行き届く影の使い方。その結果の一つに、静けさもあるような気がする。

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 立地や価格の面から、外国人観光客が集まりがちなソーシャルホテルにあって、由縁も例外なく中国語や英語が頻繁に交わされる。それでも決して騒がしく感じないのは、醸し出される雰囲気によるものだろう。静けさも日本文化のひとつ。そう思うと、今の東京も悪いものでもない。

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つながりと隔たりをテーマとした拙著『さよならセキュリティ』では、「11章 はやさと深さ ー経済的発展からの脱却」において、余地余白のデザインついて触れております。是非、お手にとっていただけますと幸いです。

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