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亡くなった父が撮影した、家族写真の先にあったもの。お坊さんが読み解く映画『浅田家!』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

『浅田家!』 
中野量太監督 2020年日本作品

 

 東日本大震災犠牲者十三回忌の春に。

 主人公・浅田政志は、ユニークな家族写真を得意とする写真家です。自身の写真展の準備中に東日本大震災が発生。津波に襲われた中には、政志がかつて家族写真を撮った高原家が住む地域もありました。震災から1カ月後、高原家の消息を求めて当地の避難所を訪れた政志は、そこで被災写真洗浄返却活動と出会います。瓦礫の中から拾い集めたアルバムの写真を洗浄し、持ち主に返すのです。政志は活動に加わります。

 膨大な写真の中から、熱心に家族の写真を探す少女がいました。内海莉子。他の家族の写真は見つかったのに、父が写っている写真だけがどうしても見つからないというのです。その父は、内海家の中でただ一人、津波の犠牲になっていました。

 政志が撮った家族写真がとても魅力的なのを知った莉子は政志に、自分たちの家族写真を撮ってほしいと頼みます。ですが政志は依頼を受けることがどうしてもできません。莉子の父への思いが分かりすぎる分、父がいない家族写真を今撮っては、父の不在を際立たせるだけだと考えたのです。しかし……。

 ここから先はあえてネタバレします。お許しください。









 政志は撮影を引き受けます。父の写真が残っていなかった理由が分かったから。カメラを持っていたのが父だったからです。家族の写真があるところには、必ず父がいたのです。莉子の写真はまるまる、莉子への父のまなざしそのものだったのです。

 親鸞聖人の言葉と伝えられる「一人居て喜ばは二人と思うべし、二人居て喜ばは三人と思うべし、その一人は親鸞なり」を思い出しました。姿はなくても縁はあるのです。


松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。


本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。


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