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『シートン動物記で学ぶ英文法』まえがき全文と刊行記念イベント

 本日、『シートン動物記で学ぶ英文法』(アスク出版)が刊行されます。『ヘミングウェイで学ぶ英文法』や『英文解釈のテオリア』などの倉林秀男先生との共著です。「オオカミ王ロボ」の全文にていねいな解説を加えたもので、わたし自身にとっても大変勉強になりました。翻訳学習者・語学学習者のどちらにもまちがいなく役立つ本です。ぜひご一読ください。
 この本の出版に至るいきさつや作業分担などについては、まえがきに記しました。以下がその全文です。

はじめに

 2021年のはじめごろ、アスク出版の森田修さんから、『~で学ぶ英文法』シリーズの新作を倉林秀男先生といっしょに書かないかとのお誘いを受けました。しかも倉林先生からのご指名とのことで、とてもうれしく感じ、すぐさまお引き受けしました。
『ヘミングウェイで学ぶ英文法』ではじまるこのシリーズは、文学作品を楽しみながら盤石の語学力をつけていくのに最適のテキストなので、それまでも折にふれて、多くの翻訳学習者・語学学習者に勧めていました。また、英文の微妙なニュアンスの読みとり方などで、自分自身も見落としていたことに気づかされることも少なくなく、『ヘミングウェイで学ぶ英文法2』『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』『オー・ヘンリーで学ぶ英文法』と、新作が出るたびにみずから数々のことを学ばせてもらっていたので、自分がかかわれるのは大変光栄であるとともに、身の引き締まる思いもありました(その後に出た『シャーロック・ホームズで学ぶ英文法』も、もちろん充実した読み応えがありました)。
 扱う作品もわたしが選んでよいとのことだったので、過去に自分が翻訳を手がけた作家をいろいろ検討してみたところ、このシリーズに入れるにはずいぶん異色かもしれないものの、アーネスト・トンプソン・シートンの名前が頭に浮かびました。作品の圧倒的なおもしろさと、英文の難易度の両面から考えて、最適ではないかと思ったのです。
 日本ではこれまで、シートン動物記はほとんどの場合、子供向けの読み物として紹介されてきましたが、シートンによる数多くの動物物語はもともと大人向けに書かれたものでした。それらは英文の歯応えも作品の読み応えも抜群で、大人が本気で向き合ってちょうどよいどころか、難解な比喩やちょっとまわりくどいユーモア、説明を最小限に切りつめた文体や息の長い一文など、一筋縄ではいかない箇所がたくさんあります。わたしは以前、角川つばさ文庫で小学校中学年以上向けに3冊(短編12作)を訳しましたが、そのときには、子供向けにどう噛み砕くかで苦労したのはもちろん、そもそも原文が何を言っているのかに自信が持てないような個所も散見されました。過去のシートン訳者はみなかなり苦労してきたはずです。
 そんなわけで、つぎはシートンを扱ってはどうかと提案したところ、しばらくしてOKが出て、シートンの全作中で最も人気の高い「オオカミ王ロボ」が長さでも英文難易度でも(そしてもちろん、おもしろさでも)最適の題材だとわかり、それを選ぶことになりました。抜粋ではなく、1作の全文を読みきる達成感を味わってもらうのが、このシリーズの特徴です。
 執筆にあたっては、朝日カルチャーセンターでわたしが担当している文芸翻訳クラスや、このために特別に立ちあげたオンライン勉強会で、数十人の翻訳学習者に全文を訳してもらい、どんなところで誤読や読み落としが多くなるかを見ながら、自分の原稿を書き進め、一方で勉強会の要約を倉林先生と森田さんにお見せして参考にしていただくという形をとりました。わたしがおもに担当したのは、各 Scene のはじめに載せた訳文と、終わりの「翻訳のポイント」と column ですが、語注や「ここに気をつけて読もう」でも、多くの箇所にこの勉強会の内容が反映されています。当初の予想とはまったくちがう箇所を弱点とする人が多いことが判明するなど、実りある勉強会だったと思います。参加してくれたみなさんに、この場を借りてお礼を申しあげます。
 この本の精読を終えたみなさんが、つぎは「オオカミ王ロボ」以外のシートン作品を、原書であれ訳書であれ、手にとってくださるようであれば、紹介者として何よりの喜びです。まずはその前に、名作「オオカミ王ロボ」を隅々までじっくり読んで堪能してください。

 この本の刊行を記念して、11月11日(金)の19時から、ブックファースト新宿店で倉林先生といっしょに対談イベントをおこないます。会場とオンラインの両方で参加できます。そちらもぜひどうぞ。

11/11(金)『シートン動物記で学ぶ英文法』(アスク出版)刊行記念 越前敏弥さん×倉林秀男さんトークイベント

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