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秋谷りんこさん著「ナースの卯月に視えるもの」(#創作大賞感想)

創作大賞2023にて、お仕事小説部門で別冊文藝春秋賞を受賞した秋谷りんこさん著「ナースの卯月に視えるもの」、読ませて頂きました。

「看護師の卯月うづき咲笑さえは死にゆく人の思い残したものが視える」

ナースの卯月に視えるもの」あらすじより

ファンタジーな、ちょっとライトノベルっぽいのかな、と思いきや、そうではありません。
主人公が向き合う、リアルな人間と命の物語、そしてミステリーが加わったお仕事エンターテインメントです。
(もしライトノベル風なら、note投稿時点で私は最後まで読まなかった)

秋谷さん自身が元看護士とのことで、医療関係の専門用語も出てきますが、読むのを阻害するほどではなく(←これ重要)、物語として必要最低限なので、さくさく読めます。

「視える」
「視えてしまう」

患者にとって医師や看護師は「1対1」ですが、医師や看護師たちにとっては「1対n」となります。
おそらく、医療というのは多少なりとも「心のスイッチ」を切って従事しなければ務まらない職業なのでしょう。
そうは言っても、「視えてしまう」んだから、何とかしてあげたいと思うのが人間のさが
病気は手術や薬で治せるかもしれませんが、心の方はそうはいきません。
でも、その「心」に寄り添い、癒し、救う……そんな卯月咲笑の葛藤、優しさ、人間臭さに心震えます。

読み終わったあと、「映像化したら、卯月咲笑役は誰かな…」なんて考えてしまいます。

マジで映像化希望です。

ちなみに、普段あまり読書をしないオカンに「これ、読んでみいや」と渡すと、帯の「創作大賞2023」の文字を見て、「ああ、あんた落ちたやつね」と。

そして、読み終えたオカンが言いました。

「面白かった。お前の、あのピアノの小説は、ピアノをやってる人には面白いんだろうが、私にはよく分からんかった」

きっとこれなんですよ。

「お仕事小説」は仕事のことを前面に出し、難解な専門用語を並べてドヤる小説ではありません。

物語になっていて、読者にとって面白いかどうか。

「お前の小説は、よく分からんかった」

これがリアルな「読者」のリアルな「感想」なんですよね。

私は最終選考に残りながらも受賞を逃し、かなり悔しい思いをしましたが、改稿された「ナースの卯月に視えるもの」を読み、今は

「ああ、一瞬だけ、この小説と同じ土俵に立ったんだな」

と、誇らしい気持ちです。

だってさ、やっぱり面白いんだもん。

それともう1つ。

私にとって、「ナースの卯月に視えるもの」の受賞には、非常に大きな意味があります。

それは投稿時の文字数。
「ナースの卯月に視えるもの」の投稿時の文字数は約25,000字。

規定数である「20,000字~」を超えているとはいえ、文庫本1冊の目安とされる8万から10万字には程遠いので、勝手ながら「受賞は無理ではないか」と思っていました。

しかし、見事に受賞し、出版。
内容と文字数のバランスさえ合っていれば、やはり内容で勝負できるということでしょう。

最高で6万字くらいしか書いたことがない私としては、とても勇気がもらえることです。

ちなみに、読んだのが雇入れ時健康診断の前日だったので、病院で医師や看護師さん、スタッフさんたちを見ながら

「この中に、卯月咲笑みたいな人がいるのでは…」

なんて思いながら、1人でそわそわしていました。

改めまして、秋谷りんこさん。
「ナースの卯月に視えるもの」の出版、おめでとうございます。

***

さて、創作大賞2024の応募が始まっていますね。

私は5月1日から飛び込んだ新しい職場と仕事にまだまだ慣れず、仕事と寝る時間とピアノを弾く時間で毎日が過ぎている感じです。
(ピアノは弾かせてよ…)

応募用の新作は途中で完全ストップ。

正直なところ、今年の応募自体、厳しいかなぁなんて弱気になっていましたが……「ナースの卯月に視えるもの」を読んで気が変わりました。

俺が書かずに、

誰が書く。

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