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伝わる・揺さぶる! 文章を書く

個人がブログを書き始めた頃、あるいは私が新人で働き始めた頃、ある知人からお薦めされて購入した。

出版社のページから発売日をみると2001年11月15日とある。オンライン書店やECサイトで本書を検索すると、まだ新品を購入できる。約20年前に書かれた本が未だに流通しているということがどのぐらいすごいことなのか、私には想像がつかない。本書に書かれている内容がこれだけの時間を経ても劣化していないことの証左と言えるのではないだろうか。

私が本書を初めて読んだのは2005年。過去に購入した古い本は、転職や引っ越しなどの機会にまとめて処分したり電子化したりして大半が残っていない。しかし、本書は私にとっての文章を書くことの原点であり、拠り所でもあるのでずっと持ち続けていた。何かの機会でふらっと読み返すときもあったし、文章の書き方の本で他人へお薦めするときはいつも本書を紹介していた。

おとなの小論文教室。

著者の山田ズーニー氏は、ほぼ日刊イトイ新聞で「おとなの小論文教室。」というコーナーを連載している。過去のアーカイブをみると、2000年5月17日から毎週の連載を続けている。なんとこの連載も20年以上続いている!いまも継続中だ。

本稿の執筆時点での最新記事は Lesson1012 になる。

記念すべき1000回目のエッセイが次になる。本書を執筆したときの背景についても書かれていて、私も本書の内容から受けたことを想いながら氏のエッセイを読んでいてこみ上げるものがある。

初めての本、
『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』は、
7ヶ月間、私の仕事人生全部を懸けて書いた。
これ以上、一滴も出ない、まさに自己ベストだ。

本の最後に、

「あなたには書く力がある。」

と書いたとき、
生まれて一度も味わったことのない
深い感動がこみあげてきて、涙があふれた。

自分の本当の想いが表現できた。
ただそれだけで、とてつもなく嬉しい。

「解放」

表現は閉ざされていた想いを解き放つ。
人を自由にする。

2005-2007年ぐらいにかけて、私は「おとな小論文教室。」を毎週水曜日、お昼休みに昼食を食べ終えた後、会社のパソコンを使って読んでいた。こっそりと言うほど隠していたわけではないが、当時はいまよりもインターネット上で業務に関係ないサイトを閲覧することはよくないという風潮があった。だから周りの同僚にあえて言うこともなかった。

「おとなの小論文教室。」のエッセイはいずれも素晴らしい。その中で私の意識の中にずっと残り続けて、なにか自分が自分ではないのではないかと、もやもやするときに読み返すエッセイを1つ紹介する。

Lesson 299  立脚点

自分はどこに立っているか?

目的を見失わないよう、傲慢にならないよう、欺瞞に陥らないよう。
なにかを為したときも為せなかったときも。
この問いは私にとって新しいことを始めるときの勇気を与えてくれた。

考えないという傷

閑話休題。本書は文章の書き方の実践書であると同時にそれだけにとどまらないなにかがある。おそらく「おとなの小論文教室。」のエッセイを読めばその空気をうかがえる。

プロローグの「考えないという傷」がすべてを要約した言葉として、この言葉もずっと私の意識の中に残り続けている。

何ごともあまり考えない、考えてないことにさえ気づかない人は、一見オメデタイ人のように思えるのだが、実は深く傷ついている。

書くことは考えることであるから、考えを整理しないと書くことができない。それでは考えろと言われて、なにをどう考えればよいのか。インターネットで検索してみつけたそれっぽい記事や文献をただコピペしているだけではないのか。

学ぶことは模倣から始まるので初期の段階ではそうだろう。しかし、学びを重ねるうちに自分なりの論点や意見が出てきて、それらを整理していくうちに自分の考えを明確にしていく。それはしんどい作業だし、うまくいかなくてまとまらないときもある。うまく構成できないときの苦しさ、もやっとしているけどまだ言語化できないという苦しさ、そういった感情を含めてうまく考えられないときの葛藤や逡巡は理解できる。

余談だが、考えられない人の典型的な行動がある。チャットなどである話題が出たときにインターネット上の記事の URL をただ共有するだけの人がいる。またはチームのチャンネルに先頭に FYI とだけ付けて URL を共有する。無言でこれを読めと強制しているようで感じが悪い。
いまメンバーで話題になっていることに対してあなたはどう考えているのか?その記事を読んであなたの意見はなになのか?賛成なのか?反対なのか?そういった URL を共有するだけの人たちをみかけるときに私は考えない傷を思い出すことがある。

レコードは傷が入っていると、何回も同じところを再生してしまう。同様に彼女の論理は同じところをクルクル回って一向に前へ進んでいない。考えない傷……、考えることを放棄して、その結果苦しんでいる

うまく考えられない人たちを指導するのは難しい。相手の価値観を否定したり、自分の意見を押し付けることでは解決しない。本書では具体的な考え方を指導することによってプロローグに登場する学生の文章を改善した例が紹介されている。

まとめ

時間をかけてややまとまった文章を書こうと決心して本書を読み返してみた。そして、いま思ったことをそのまま言語化した。これまでも何回か読み返している。

本書は文章の書き方の実践書であると同時に、考え方の方法論を説いている。そして、その考え方の根幹として、著者は自分の中にある想いをとても大事にしている。書き手の想いを引っ張り出すために具体的な方法を紹介している。

本稿ではその具体的な方法については言及しなかった。この記事を書こうと当初思ったときは、文章を書くための具体的な方法を自分でまとめ直そうと考えていた。実際、私の課題管理システムのメモには具体的な方法をまとめ直している。しかし、本書の紹介を書き始めたいまとなっては、なんか違うなと思ってそれらの説明を省いてしまった。したがって実践部分については本書を読んでもらいたい。

私は本書を何度も読んでいるから、本書を読み返す理由はおそらくこれなんだろう。文章を書こうとする書き手の想いを肯定して、自分が書くことの意義を問いつつ、書くことを後押しする言葉がエピローグにある。

あなたには書く力がある。


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