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フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?

はらさんがお奨めされていたので読んでみた。

読む前に私が想定していた内容とはちょっと違う主旨の本だった。私とは異なる生き方であるためにあまり理解できないところも多々あった。私はサラリーマンを20年近くやってきて、脱サラして1人会社 (マイクロ法人) を経営しているわけだが、会社勤めせずにフリーランスだけでやってきた人たちと比べると、異なる人生のステージがあることは容易に想像できる。

自由業者 (フリーランス) は憧れてなるものではありません。
なろうと思って計画的になれるものでもありません。
自由業者は「なるべくして、なってしまう」ものです。
「否応なく、そうならざるを得ない」ものなのです。
私自身、そう考えて生きてきました。

序章 フリーランスは自由という名の業である。

一方でフリーランスとは、なるべくして、なってしまうものという言葉に共感しているところもある。言い換えると、組織に馴染めない人間が一定数いるのだと説いている。組織には少なからず、嘘と欺瞞があり、人間関係や自己保身の煩わしさなどもある。そういったものに無縁のうちはよいが、会社の所属期間が長くなるに連れて無縁ではいられなくなる。

40歳を過ぎて転職は難しくなったけれど、いまの会社にずっといても50歳になったらリストラされるだろうと見通せたとき、私は自分で会社を作ろうと決めた。少なくとも自分の会社は自分の理想とする組織を体現させることに挑戦でき、自分をリストラすることはない。私が生きていく道はこれしかないように感じた。まさに著者が冒頭に言っていることのように、私には受け取れた。

自由業者には2種類あると思います。
自由業に「なる」人と、「ならざるを得ない」人です。
前者は会社員をやりながら余暇で作品を創り、
十分な経験を積んでフリーになる人。
後者は、さしたる経験も実績もなくフリーに「なってしまう」人。

序章 フリーランスは自由という名の業である。

著者の言う2種類のうちで言えば、私は前者に近いと言えるかもしれないし、経営/財務の経験はなく会社を運営する展望もまったくなかったのでその側面では後者ともみなせる。著者は後者に相当するという。

2021年の記事だが、ITフリーランス専門案件検索サービスの経営者が「20代/未経験」のフリーランス登録者が増え、厳しい現実に直面しているという記事があった。一般論として、当たり前の話しではあるが、経験も実績もないフリーランスを雇う会社は少ない。

著者も本書の中で経験も実績もなくても働けた背景の1つとして1980年代のバブル期という特殊な時代背景があったことをあげている。いまの IT 業界も他業種に比べれば圧倒的な売り手市場であることとやや似ているのかもしれない。未経験から IT フリーランスになることは不可能ではないが、現実的には相当に難関であることは覚悟しておく必要がある。

閑話休題。本書では、組織に馴染めない人も共感して読めるところはいくつかあるが、どちらかと言うと、普通のサラリーマンが当たり前にできることをできない (例えば、毎日9時に出社して18時まで働くとか) 人たちがフリーランスとして生きていくことに焦点を当てている。そして、そういった人たちは次のことを考えておく必要があると警鐘を鳴らしている。

私は、なんとなくなれてしまう自由業者は気楽な仕事、
と言いたいのではありません。その反対で、
こういう人は年とともに「壁」にぶつかる率が高いと言いたいのです
30歳・40歳・50歳の節目ごとに壁は襲ってきます。
10年経るごとに、壁は大きく、厚くなります。
それでも人間は生きていかねばなりません。

序章 フリーランスは自由という名の業である。

昨今は50歳から希望退職などを募る会社も多いのではないかと思う。サラリーマンであっても40歳・50歳というのは節目として意識することがあるように思える。

(追記)

  • はらさんの記事リンクを追加


フリーランス先駆者たちのインタビューから

本書は章ごとに著者の経験を語る章と、著者と同年代を生きてきたフリーランスの方々の経験を語るインタビューの章の2つから構成されている。

  • 第1章 自由業者フリーランス・40歳の壁。

  • 第2章 とみさわ昭仁 「好き」を貫く代償。

  • 第3章 杉森昌武 フリーランスとは自分で選択する生き方のこと。

  • 第4章 50歳の壁はさらに高い。

  • 第5章 田中圭一 サラリーマンとマンガ家を両立させる男。

  • 第6章 『電脳マヴォ』と私の未来。

  • 第7章 FROGMAN アニメ界の革命児が直面した「30歳の壁」。

  • 第8章 都築響一 還暦を迎えても奔放なフリー人生。

  • 第9章 フリーランスの上がりとしての創業社長。

私と著者とは生き方が異なるため、著者の考え方や行動には理解できないところも多々あり、著者の意見には賛同できないところもいくつかあった。しかし、インタビュー記事の中でのフリーランス先駆者の中には考え方の近い方もいた。本書に出てくるフリーランスは一般的な生き方とは異なるため、読者にとってあう・あわないというのが出てくるのは自然に思える。

そこで浦沢さんはまず「戦略的に」受けを狙って『YAWARA!』を
ヒットさせ、圧倒的な実績を築き上げることで、「描きたい作品が描ける」
作家に自分を鍛え上げたと言えます。
これは誰もが考えますが、実現は至難の技です。
私はあそこまで商業作家としての戦略を立て、実行し、成功した作家を
見たことがありません。作家はつい「自分の描きたいものを描くんだ!」
と思いがちですが、プロ作家として成功するためには、
自分の苦手なものでも描かなければならないことがあるのです。
芸術家肌の作家と、プロ作家は違います。
浦沢さんは、ほんもののプロ作家だと私は思います。

第1章 自由業者フリーランス・40歳の壁。

浦沢直樹 さんの凄さを説明しているところが印象に残った。浦沢さんはもともとデビューして「MONSTAR」のような作品を描きたかったが、新人が描くには編集者の反応は芳しくなかったという。そこで苦手だったが、当時流行りの美少女ものを選び「YAWARA!」「HAPPY!」とヒットさせることで人気を盤石にした上で本当に描きたかった「MONSTAR」に取り組めたという。

IT 業界でもよくある話しの1つに、受託開発でお金を稼ぎつつ、その利益を投資して自社プロダクトまたは自社サービスを開発し、いつか受託開発を脱却したいと考える会社がたくさんある。しかし、その戦略で受託開発をやめられるほど成功している会社は本当に少ない。まさに誰でも考えるが、実現は至難と言える。

少なくとも私は、ブログを書き続けたことで、
40歳以降におちいっていたスランプから脱出することができました。

第4章 50歳の壁はさらに高い。

本稿を読んでいる読者の方々は日記やブログなどを書いているだろうか?

私は起業してから1年半ほど経ったときに失敗を経験してうまくいかない時期があった。具体的になにが悪いというわけでもないが、なにかこれまでの自分のやってきたことと違う違和感を感じていた。当時の自分の働き方や集中力に納得のいかない時期があった。スランプと呼べる時期だったかもしれない。それを見直すきっかけになったことを書いたものが次の記事である。

このときに行ったことは2つある。

  • 顧問をお願いして相談相手を設けたこと

  • 日記を毎日書き始めたこと

2021年9月から日記を書き始め、1年半ほど継続している。そして、いまの生活はスランプを脱して安定している。書くことも生活の質やお仕事の質をいくらか向上させていることは間違いないが、まだ具体的にそれがなんであるかを自分で言語化できていない。言語化するには、もう少し時間を要するだろう。

私にとっては、お金より、やりたいことがやりたいようにできるかが
大事で、それができなかったら、仕事をなげうってしまうのです。
その後、どうなるかなんておかまいなし。後悔もしません。

第4章 50歳の壁はさらに高い。

人それぞれ程度の問題はあるけれど、この内容に共感できる人とできない人で組織に馴染めるかどうかの分水嶺の1つになる気がする。

1人で仕事を完遂できればコスト削減できる

第7章の FROGMAN 氏という方のサクセスストーリーが痛快。インターネットの黎明期 (2000年頃) に動画配信サービスをやろうとして FLASH アニメで成功をおさめた実業家らしい。その経歴も破天荒にみえる。もともと映画業界で働いていて、映画業界の没落とともに半ば強制的にフリーランス (リストラ) となり、映画業界としての先行きは不透明だった。島根の山奥に移住し、インターネットに動画を配信する仕事なら島根でもできるだろうと考えたとのこと。2000年頃という時代背景を考えると素晴らしい先見性と言える。

「仕事を1人で完結できるようにすれば、通常のアニメ制作より、
 はるかにコストが下げられるんじゃないかと思ったんです。
 そこでアニメをやろうと決めました。」

第7章 FROGMAN アニメ界の革命児が直面した「30歳の壁」。

奥さんが妊娠して出産費用が必要となり、1人で仕事を完遂できればコスト削減できるというアイディアでアニメ制作を始めたという。実写は最低でも数人のスタッフを必要とするが、アニメなら1人でできるのではないか。なんとも無茶苦茶な考え方である。
実際に初期のインターネットの FLASH アニメを1人で作って人気を博して事業が軌道にのったらしい。FROGMAN 氏は絵もろくに描いたことがなく、アニメマニアでもなかった。また実写業界での経験を基に、普通のアニメ会社が作るようなアニメとは異なる作品を作り、アニメ落語・アニメ漫才というジャンルそのものを作ってしまったという。
きっかけは家賃を半年間滞納して出産費用を捻出するためという、ピンチをチャンスに変えた事例の1つとして、また製作委員会方式というアニメ業界の一般的なモデルとは異なる、スポンサーを募らない・クリエイターが権利を手放さないビジネスモデルを考案して実現してしまったというところもすごい。

会社を経営していると、次のアドバイスを受けることがある。経営者は本業に注力して、会社を運営するための事務手続きは行政書士へ、会計手続きは税理士へ、本業以外のことは他者に任せてしまった方がよい。一般論として正しいように聞こえる。しかし、私はすべての事務手続きや会計処理を士業の方々に任せず自分で行っている。その理由はコスト削減だ。そういった業務を士業の方々に依頼すると年間30万円前後の経費がかかる。
仮に利益率を10%で見積もると、30万円/年の経費を稼ぐには300万円/年の売上をあげる必要がある。経営者によって、30万円の経費を削減する方が簡単か、300万円の売上をあげる方が簡単か、大きく分かれるのだと思う。そして、私は前者になる。事務手続きに困ったら行政機関へ電話して確認したり、クラウドの会計システムを使っていて会計処理に困ることもほとんどない。この話しはまた別途書きたい。

第8章では都築響一氏というフリーランスが登場する。1956年生まれなので、私よりも二まわりほど年配の方にはなるが、現場主義な考え方や自分で道を切り開いてきたという自負に満ちていて共感できた。

編集者と作家を兼ねるこういう仕事スタイルをとる人を、
私は「編集家」と呼んでおり
、自分自身の肩書きにも使っています。
都築響一さんは、私の定義を完全に満たした「編集家」です。

第8章 都築響一 還暦を迎えても奔放なフリー人生。

都築氏は著者の壁についての考え方については真っ向から否定している。
壁は立ち止まって考える時期であると説いている。

僕は、過去に仕事が途絶えることもありましたが、
壁だとは思いませんでした。
仕事がない時期にこそ、はじめて自分にとって大切なもの、
必要でないものが見極められるんです。
そのときは大変でも、後になってみたら、
立ち止まって考える時期を持つことは大切かもしれません。

第8章 都築響一 還暦を迎えても奔放なフリー人生。

都築氏も1人でなんでもやってきたというタイプなので私と考え方が似ているように思えた。本書のインタビューがおもしろかったので別のインタビュー記事も読んでみた。都築氏のユニークさが伺える。

普遍、あるいは洗練について。インタビュー:都築響一

フリーランスの上がりとしての創業社長?

最後の章は著者の経験から、最終的には会社を作って経営しているらしい。電脳マヴォというオンラインの Web マンガのサイトを運営している。

企業の創業社長、とくにワンマン社長と呼ばれる人には、
発達障害だと思われる人が、たくさんいます。

第9章 フリーランスの上がりとしての創業社長。

著者の意見のうち、もっとも私が受け入れられない意見がこれだ。これは間違いなく偏見でしょう。そういう人もいくらかいるでしょうけれど、特殊な属性をもっている人が目立つだけで大多数は普通の人が創業していると私は思う。もちろん、私も統計をとったことがないので正否はわからない。

著者の意見として、発達障害の人たちは社員として普通に働くことは難しくても、社長ならできるから起業を考えてみましょうと促しているが、実際のところ、失敗する人の方が圧倒的に多いと推測される。

一方で著者の考え方を含有する上で言えるのは、経歴がよくない人が日本の社会で働く手段として起業があるというのは現実的なところかもしれない。同じ経歴の人でも転職には見向きもされない人が、法人を介在させることで第一印象が異なるといった話題が橘玲氏の次の書籍で言及されている。

法人が個人の経歴を隠蔽もしくはリセットしてくれる役割を担う。私自身、転職するときは必ず学歴と職歴を記した履歴書の提出を応募企業から強いられてきたが、法人として初めて取り引きするときは私の履歴書を求められたことは一度もない。

もちろん、重要なのは業務を遂行できる実務能力であることに違いはない。しかし、個人では足りなかった信用を法人が埋めてくれる可能性がある。ある種のセーフティネットのように機能して、その1つが発達障害の人たちにとっての働き方の1つになるのかもしれない。

いま起業が増えているのは、起業家を増やすことで雇用を増やすといった行政の支援であったり、個人がエンパワーメントされた必然であったり、IT 業界のようなサービス業では起業に資本を必要としないなど、複数の要因で昔よりもずっと起業しやすい。

所感

本書のまとめができないので落ちのない個人的な所感で最後を締め括る。私は普通のサラリーマンとして働いていて、このまま組織で働いていくのは難しいと実感したのが40歳の壁であったとみなせる。起業して50歳の壁がどういった形で訪れるのか、正直わからない。

本書の、私が共感を受けたフリーランスの人たちは、それぞれが自身の働き方や価値を信じて、ときにはユニークに、ときには泥臭くやってきて、なんとかなったと私からは読めた。人それぞれに大変な時期はあったと伺える。本書を読んでなにかやることが分かるということはなく、節目で壁が襲ってくる可能性が高いから、いまできることをがんばってやることが未来の壁を乗り越えることにつながるといったように、私からは読めた。

壁があってもなくても日々のやることは同じでありたい。


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