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100年の孤独/放哉に想う〈Vol.12〉 肉体を苛めつくして訪れる

つくづく淋しい我が影よ動かして見る

尾崎放哉全句集より

南に面した窓のある4人部屋奥右側にわたしのベッドはありました。お天気のよい日は朝日が病室のカーテンをオレンジ色に染めました。
再発したがんを摘出したのち、わたしの臓腑は長い間、痛みがとれませんでした。結局1カ月ほど鎮痛剤を飲みつづけました。
痛みは辛いものです。辛い痛みはやがて、不安や恐怖などさまざまな影を心に落としました。院内はコロナの感染予防のため、家族との面会も制限されていました。
そんなとき、ふと『海も暮れきる』の一節が頭に浮かんできました。

(前略)島に来た頃、病状が最悪の状態になった折には酒を思う存分飲んだ上で海に身を投じ自ら命を断てばよい、などと考えていたが、それが甘い考えだったことも知った。咽喉も消化器も酒など受け入れることはなくなっているし、むろん海際まで行く体力はない。死は、想像していたよりもはるかに執拗で、肉体を苛めつくした上で訪れてくるものらしい。

『海も暮れきる』吉村  昭著  講談社文庫

放哉の気持ちが、ほんの少し分かったような気になったのでした。



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