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悩んでいたら全然関係ない話をしてきた先輩

ちょうど10年くらい前のこの時期の話です。
オフィスには、この世の不幸を集めたような顔で悩むわたしがおりました。

悩みまくっていた

入社早々わたしは会社で最も激務の部署に配属され、その中でも最も激務の仕事を担当していました。
月の平均残業時間は140~150時間、多くて160時間~170時間。(今では36協定が重視されていますが当時の話です)
毎日深夜0時~1時まで残業、終電にかけこみ帰宅は2時。間に合わなければ自腹タクシー。そこから寝る準備をして睡眠時間は3-4時間。プライベートの時間はなく、土日のどちらかは仕事。仕事がない週末は土曜が来たら気を失うように寝て起きたら日曜の夕方、という毎日が続いていました。

仕事の難易度も高く、会社にとって前例のない仕事や大き目の非定型業務をリーダーとして任されており、周りは元投資銀行、元外資戦略コンサル…とハイスぺ中途社員ばかりのプレッシャーの高い環境でした。

その中でもわたしの精神を参らせたのは、不平等や、それをわかってくれる人のいない孤独感でした。

  • 別部署の同期は定時に帰ってプライベートも充実(対して自分はあまりにも忙しく恋人と別れたり友人から縁を切られたりしていた)

  • 同期は定型業務、自分はゼロイチ業務で業務の質も難易度も異なるが、高評価を連続で取得した同期と数年で大幅な基本給の差がついた

  • 業務の割り振りが不平等。同じ部署の人もほぼ定時に帰る/会食に行ってしまうため、特定の先輩と自分の2名だけが毎日深夜残業

  • 誰も監督しない状態で任される膨大な業務量(上司も先輩も朝から晩まで一日中会議しているため放置プレー)

  • 圧倒的な薄給

  • 会社の誰にも相談できない(自分と同じ立場の人がいない)

  • 親も会社の味方をしてくるため(上司が正しいに決まっているんだから黙って言うこと聞いて働きなさい系)もうどこにも味方がいない

この中でさらに、噂話で評価が下げられたり、不平等を上司に訴えたら「残業代は払っていますよね」と言われたり、毎日定時で帰る先輩に全員の前で叱られたりして、そんなに正論を言っていいならわたしも言いますよ!!!と言いたくなる気持ちを毎日押し殺して働いていました。

身体的な疲労だけでなく、おそらく心労的なものもあったのだと思います。常に耳元で大きな動悸の音がしており、当時は何年も耳が聞こえづらい状況でした。

オフィスに人陰が

そんなある日のこと、その日も自分ひとりで深夜残業と思っていたら、同じフロアに別部署の先輩が残っていました。23時くらいだったと思います。
その先輩は元外資戦略コンサルで仕事ができると社内でも有名であり、残業で一緒になったのはその日が初めてでした。
もう終わるから帰るという先輩に、思わずわたしは話しかけました。
最初は軽い仕事の話でしたが、そのうちわたしが一方的に悩みを話していました。

こんなに不公平なんです。今こんなに大変なんです。でもどうしたらいいかわからないんです。。。

愚痴が一段落つく頃には帰宅途中の電車の中でした。わたしは反対方向でしたが、なぜか先輩と同じ方向に乗って話を聞いてもらっていました。

それまで隣に座ってわたしの話を聞いていた先輩が、口を開きました。
「…俺、いまこんな仕事やっててさ~…」
そこから先輩が語る話は、今先輩のやっている仕事がどれだけ凄いか、意味があるか、どれだけ情熱を傾けているか、この仕事を終えると会社にどんな業績インパクトを与えるか、周りの人がいかに働きやすくなり喜ぶか…。

それは全て如何に先輩の仕事が面白いかという話であり、わたしへの励ましや諫めや助言などの内容ではありませんでした。少しなりとも自分へのフィードバック、あわよくば共感や同情の言葉がもらえると思っていたわたしは面喰いました。

でも、わたしはそのときはじめて、仕事で感動しました。

こんなにも前向きに仕事をしている人がいるんだ。
こんなにも圧倒的にポジティブに仕事をしている人がいるんだ!
仕事は情熱をかけてやっていいんだ!!と。

先輩が問いかけたこと

わたしは結局、まわりの人に言われるがまま働き、そのいろいろな人から言われる内容に矛盾があること、問題があることに文句を言っているだけだったのです。自分自身が他人を中心に据えて考えているのに、その他人に振り回されていることに文句を言っていたのです。
おそらく先輩のお話も、
「あなたが働くあなた自身の動機はどこにあるのか?」
というわたしへの問いかけだったのではないかと思います。

わたしはそのとき、先輩のスタンスと自分のスタンスの違いを思い知り、
滝に打たれたような衝撃を味わいました。
そしてその日以降、
「他人に文句を言うことは圧倒的に間違い」
「自分がどのように捉えるかがすべて」
「何か課題があるなら自分がその課題に取り組めばいいんだ」
と考えるようになりました。

その後も悩むたびにこの時の先輩のことを思い出し、常に課題を感じたことに取り組み続けた結果、結局10年以上同じ会社で働いています。

先輩は辞めていき、次の会社ではその後取締役になっていました。

これは会社を辞めてはいけないとか、辞めないのが正解とかそういう話ではありません。
辞めていたら、別の正解があっただろうし、結局自分が選んだ道が自分にとっての正解の道なのだと思います。

ただ、今でもあの夜に、あの先輩に話しかけてよかったと思います。
わたしに「働く意味」を、たった電車2駅の間に教えてくれました。











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