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それはひどい酸素欠乏の春夜

折れ曲がった朽ちかけの灰色階段

その人は踊り場にぽつりといて
私はその上にぽつりといて

まばゆさや汚さや雑音の波の中で
そのしんと止まっているその人の形を
この上もなく近しいものと

すれ違ったら
その存在が私を刺しました。

もうその人を見ることはないだろう。




それは細雪の降りる晴天下

雑居ビルの外側についている階段

彼はみんなの中にいて
私もみんなの中にいて
はじけるように笑う彼の顔が
この上もなく良いものに見えて
それが欲しくなりました。

私は彼の下の名前しか知らない。
彼は私の下の名前しか知らない。


それは決して落ちてしまわない程の夕暮れ
せり出した階段からは背の低い街が見える

君はたった一人で空に顔を向けていて、
私はたった一人で空に向かった君の横顔を見ていて

「食う?」って君がこの掌に銀色の欠片を渡す
「うん」って私がチョコレートを口に入れる

そして
君と私はやっと会うことができました。

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