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趣味のデータ分析072_弱男 vs 弱女④_弱者男女は同じくらいいる。

069から、弱者女性――未婚の低所得女性が、弱者男性より多いのか少ないのか、という論点について分析を続けてきた。具体的には、まず命題としては下記の通り。

命題1:弱者女性の数>弱者男性の数
命題2-1:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」
命題2-2:「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」
命題2-3:「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」
命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)

そして071で、無職を含む性別配偶関係別の所得分布を並べ、低所得の定義を以下の通り整理した。

【A 無職含む中央値】
A-Ⅰ.男女全体、配偶関係全体の中央値
 (男女ともに299万円)
A-Ⅱ.男女別、配偶関係全体の中央値
 (男性436万円、女性185万円)
A-Ⅲ.男女別、配偶関係別の中央値
 (未婚男性298万円、未婚女性245万円)
【B 無職を含まない中央値】
B-Ⅰ.男女全体、配偶関係全体の中央値
 (男女ともに347万円)
B-Ⅱ.男女別、配偶関係全体の中央値
 (男性460万円、女性233万円)
B-Ⅲ.男女別、配偶関係別の中央値
 (未婚男性337万円、未婚女性273万円)

今回は、これら6種類の定義に基づき、弱者男性と弱者女性の数/割合について、結論を出したい。

命題の検証

まずは、各基準以下の所得の未婚者を、男女別に示そう。結果は図1のとおりとなった。これを踏まえ、命題1~2-2の検証を行う。
ただし、下記2点には留意が必要である。
・未婚者は男性がそもそも多い(このデータでは約300万人、071の補足も参照)。
・命題によって参考とすべき基準も異なる。

図1:未婚者の基準以下人数と割合(2022年)
(所得データあり有業者-学生+無職(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

命題1 弱者女性の数>弱者男性の数

グラフ上は、棒グラフ部分を見ることになる。絶対数でいえば、全ての基準で、弱者男性>弱者女性となった。この命題の検証に最も適当と考えられるA-I、B-Iの基準ベースでは、差は大きくないし、そもそも未婚者に男性が多いことを考えると、有意性が高いとはいえないが、少なくともこの命題は「真ではない」とは言えるだろう(実態は、同じくらい)。

命題2-1:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」

グラフ上は、緑の丸マーカーとグレーの四角マーカーの比較である。こちらも僅差ではあるが、全て男性の方が上回っている。特にA-II、B-II基準では、比較的大きな差がある。以上を踏まえると、この命題は「偽」と結論づけてよい。ただし、他の基準では「真ではない」という程度にしておく。

命題2-2:「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」

グラフ上は、紫の丸マーカーと橙の四角マーカーの比較である。定義的に、A-IIIかB-IIIの基準となるが、前者は、基準の作成法からどちらも50%で同一、後者も若干男性の方が高いが、ほぼ同じ水準である。よって、これは「真ではない」としておく。

命題2-3:「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」

これについては、図2が結果を示す図となる。049070でも示したとおり、そもそも男性は既婚者等のほうが所得が高く、女性はその逆なのだから当然だが、低所得者をユニバースにした場合、すべての基準で、未婚が占める割合は男性が圧倒的に多い(70%弱)。
というわけで、この命題は明らかに「偽」である。

図2:基準以下所得の人数とうち未婚者の割合(2022年)
(所得データあり有業者ー学生+無職(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)

この命題は、基準以下所得の未婚者をユニバースにした場合、その所得の平均や中央値が男女別にどうなっているか、という問題である。自分で設定した命題だが、計算がめちゃくちゃ鬱陶しい。が、頑張ってみたところ、ちょっと以外な結果となった(図3)。
070で見たとおり、未婚であっても男性の方が女性より分布が右=高所得側にあるので、仮に「弱者」で仕切ったところでも、男性の方が所得が高い分布になるだろうと思っていたが、少なくとも平均と中央値はそうなってはいない。そもそも、低所得者の中では分布が右によっているので、平均値<中央値となっている。そして、A-IとB-I、つまり男女同じ基準で仕切った場合、わずかではあるが女性の方が、所得の平均値、中央値ともに高い水準にある。「真ではない」と言えるだろう。

図3:基準以下所得の未婚者の所得平均値、中央値(2022年)
(所得データあり有業者ー学生+無職(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

これは、一つは、未婚男性の方が、未婚女性より無職の数、割合ともに多いことに起因している(割合について、図4)。男性は全体のうち無職未婚が6.3%で、女性の4.65%のほうが低い。なお、無職の理由が働けないからか、転職活動等の一時的な理由のためかは別途に確認する必要がある。

図4:性別配偶関係別有職別構成比(2022年)
(所得データあり有業者ー学生+無職(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

命題の検証(無職除く)

さて、以上の議論は、無職を含む母集団での議論であった。ただ、基準AとBを設けたように、そもそも未婚者を起点にした議論では、無職は論外とされているような気がする。よって、無職を母集団から除いた(つまり、所得データあり有業者ー学生(15~59歳)を母集団とした)場合について、前半のセクションと同様のグラフ化をしてみたのが、図5~7である。
総じて大きな差異はないが、確認しておこう。

まず図5だが、A-I、B-Iで、図1ではわずかだが男性の方が多かったところ、男女数が逆転し、構成比も女性の方が多くなっている。とはいえ差分は僅かであり、大きな差とは言えないかもしれない。よって、「命題1 弱者女性の数>弱者男性の数」は、「真ではない(同じくらい)」と結論づけたい。
「命題2-1 女性全体に占める弱者女性の割合>「男性全体に占める弱者男性の割合」は同じく、A-IIまたはB-IIでは「偽」だが、A-I、B-Iでは女性の割合のほうが高くなっている。よって、同じく「真ではない」としておこう。「命題2-2 「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」」は「真ではない」としておこう。

図5:未婚者の基準以下人数と割合(2022年)
(所得データあり有業者-学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

次に「命題2-3 「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」」だが、こちらもほぼ変化はない(図6)。完全な「偽」である。

図6:基準以下所得の人数とうち未婚者の割合(2022年)
(所得データあり有業者-学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

最後に「命題3 弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)」だが、特にA-I、A-III、B-I、B-IIIについて、男女の水準が逆転した。上述のとおり、図4で男性の方が水準が低かったのは無職の影響が大きく、無職を除いた場合は、平均値も中央値も、わずかではあるが男性の方が高くなった。結論的には、この命題は「偽ではない」となるだろう。

図7:基準以下所得の未婚者の所得平均値、中央値(2022年)
(所得データあり有業者-学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

まとめ

以上、くだくだしく述べてきたが、命題の真偽についてまずは整理しよう。

命題1:弱者女性の数>弱者男性の数
・・・無職込み、抜きいずれも真ではない≒「同じくらい」なので、全体の結論も「同じくらい」とする。ただし、母集団の数の差には留意が必要である。

命題2-1:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」
・・・特にA-II、B-IIでは、男性に占める弱者の割合が明らかに高く、これは偽としておく。ただし、他の基準では「真ではない」とする。

命題2-2:「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」
・・・上では「真ではない」としたが、水準的には実質的に差がない。「同じ」と結論したい。

命題2-3:「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」
・・・図2、6から、明らかな偽である。

命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)
・・・命題1と同じく、無職込みでは「真ではない」、無職抜きでは「偽ではない」ということで、結論的には同じくらい、としておく。

命題2‐3を除けば、結局「同じくらい」という感覚になるが、総括するにも議論がしにくいので、「比較対象は何か」を明確にしつつ、個人的見解も交えて改めて考えてみよう。

データからわかることとして、弱者男性は、既婚男性に比べ、(マクロ的には)「恋愛でも所得でも、両方で敗北する」パターンが多い。しかし女性の場合、未婚であることと所得は、マクロでみれば概ね逆相関である。なので、一面(恋愛/所得)で負けても別の面(所得/恋愛)で勝っている、という抗弁が成立しやすい環境にある。
これは、女性間のマウンティングをめぐるトリレンマの簡易的ないちバージョンとして把握でき、勝敗はない。ここが、弱者男性と弱者女性を取り巻く社会的評価の最大の差であると思う。
こう考えると、男女の弱者を議論するにあたっては、基準A-II、B-IIが最も適切と思われる。またその意味では、命題2‐1の結果から、「弱者男性は弱者女性より多い」というのが結論である。

一方で、これは様々な意味でアンフェアな基準である。なんせ、男女で絶対額にあまりに差がありすぎる。もともとのXでのポストも、そういう女性側の恣意的な基準を揶揄するものである、と読めなくもない。上記の女性間のマウンティングについて、「既婚女性に所得で優ってるかどうかではなく、男と比べて優ってるかで議論しろや」ということだ。

この解釈なら、基準A-IやB-I(男女同じ基準)か、A-IIIやB-III(未婚男女内での中央値)のいずれかが適当な基準となる。
要するに、比較対象を同性か異性のどちらに置くかどうかで、「弱者男性」は、同性間の比較で、「恋愛でも所得でも負け」というシンプルな議論ができたが、女性については、まず同性間比較のレベルで議論が複雑化し、それが異性間比較にスピルアウトした…ということではないかと思う。脱構造主義万歳、みたいな経緯ですな。

さて、では本稿としての結論はどうかと問われれば、今回は結局弱者男性/女性の比較をするものなので、後者の議論――すなわち、異性間比較に軸を置くこととする。
また、母集団についていえば、所得の比較の仕方として、「この人は未婚者の中では高い/低い」という考え方はあまりしないように思う。あくまで配偶者も含めた全体(あるいは男性既婚者?)が基準であろう。となると、命題上も、A-I、B-Iの基準で、命題1、命題2‐1、命題3を採用するのが適当と考えられる。

そして、「A-I、B-Iの基準で、命題1、命題2‐1、命題3を採用する」場合、「弱者男女は、数でも割合でも分布でも、ほぼ差はない」となる。職場、友人付き合いその他諸々で、あなたが出会う弱者男女には、頻度も性質も差があるだろう。「弱者」の定義をどこにどう置くかでも全く異なる。
ただし、2022年現在、弱者男女は、日本全体を見渡すと、まだ同じくらい生息しているのです

補足、データの作り方等

データは前回同様就業構造基本調査国勢調査

同じ議論を2順くらいしたような、非常に冗長な展開となったが、個人的には命題3の結果が最も驚きだった。図1のA-I、B-I基準でみられるとおり、男女均一の水準で測れば、(絶対数はともかく、)未婚者を母集団にとれば、女性のほうが該当者が多い(男性:50.1% vs 女性:63.8%)
なにより070071で確認したように、男性のほうがテールが右に寄っている。にもかかわらず(論理的な関係でもないので、「にもかかわらず」ではないのだが)、弱者内での平均、中央値について女性のほうが高い場合すら生まれた背景の一つは、上述の通り無職の割合の多寡であるが、参考までに分布も一部掲載しておこう。

図8:A-I基準以下性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者-学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)
図9:B-I基準以下性別配偶関係別所得分布の構成比(2022年)
(所得データあり有業者-学生(15~59歳))
(出所:就業構造基本調査、国勢調査)

今回の議論は、異性間比較に軸を置いたが、母集団は各性別全体をユニバースにし、結果「同じようなもの」と結論付けた。ただ、命題3の結果から推察すれば、本稿のタイトル通り、弱男 vs 弱女を設定した場合は結果は異なるかもしれない。
つまり、少なくとも、(元のXポストであった)「産まない選択をした独身高齢女性たち」は、強者男女には、所得でも恋愛でも殴り殺されるだろうが、弱者男性には、所得面で勝てる見込みがある(恋愛面ではドロー)。普通に結果を見てみたいので、ぜひ今後、弱者男性と弱者女性の戦いがもっと広がることを期待する。

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