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クスリのリスク〜その分類、認識、評価〜

※地域医療ジャーナル2017年11月号 vol.3(11)より転載です。情報の鮮度にご注意ください。

「副作用」という言葉は薬の有害性を語るうえでとても馴染のある言葉です。そしてこの「副作用」は、一般的には否定的な、つまり好ましくない結果を示す言葉として用いることが多いように思います。しかしながら、本来「副作用」とは「主作用」の対義語であり、肯定的な好ましい結果に対しても用いられることがあります。

 例えば胃の調子が悪くて、なんとなく味覚の障害も感じている患者さんがいたとしましょう。こうした患者さんにとって、ポラプレジンク(プロマック®)の主作用は胃粘膜防御効果と言えますが、味覚障害の改善は副作用といえます。この場合の副作用は決してネガティブな意味を持ちませんよね。 副作用と薬の有害性は時に混同されますが、「クスリのリスク」に関わる用語について、Japanese Cancer Trial Network の有害事象報告ガイドライン[1]を参照しながら少し整理してみましょう。

■有害事象(Adverse Event : AE)
 有害事象とは、患者に生じた好ましくない医療上のあらゆる出来事を指しますが、必ずしも当該治療との因果関係があるもののみを指すわけではありません。医薬品の使用、放射線治療、または手術等の医療介入と時間的に関連があり、好ましくない、意図しないあらゆる徴候、症状、または疾病のことを有害事象と呼びます。

■薬物有害事象(Adverse Drug Event : ADE)
 薬物有害事象とは、医療介入により生じた有害事象のうち、医薬品の使用に関連するものを指すと考えて良いでしょう。ただしその関連が、因果関係に限定されるものではないことは有害事象と同じです。

■有害反応(Adverse Reaction : AR)
 有害反応とは医薬品、放射線治療、手術などの医療介入あるいはその併用療法と、有害事象との間の因果関係が否定できないものを指します。

■薬物有害反応(Adverse Drug Reaction : ADR)
 薬物有害反応とは、医療介入により生じた有害反応のうち、医薬品の使用に関連するものを指すと考えて良いでしょう。その関連においては因果関係が否定できないものに限りますから、端的に言えば、薬の“有害な副作用”と考えても良いかもしれません。

 有害事象、有害反応、薬物有害反応を図で概念化すると(図1)のようになります。

(図1)有害事象と有害反応、薬物有害反応 (文献1より引用)

 本項では、薬物有害事象を、薬物有害反応まで含めた広義の「クスリのリスク」として捉え議論を進めていきます。
 つまり、因果関係が強く疑われるものが薬物有害反応であり、それは広義には薬物有害事象ということです。また、直接的な因果関係ではないかもしれないけれど、間接的な関連性が示唆されるものは薬物有害反応ではなく、薬物有害事象と言えるでしょう。
 例えば、ベンゾジアゼピン系薬剤であれば、めまいやふらつきは薬理作用がもたらす薬物有害反応であり、広義には薬物有害事象と言えますが、骨折は薬物有害反応ではなく薬物有害事象となります。

薬物有害事象を分類する

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