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”フレーミング効果”と”ナッジ”をめぐる倫理的問題

 ※地域医療ジャーナル2019年10月号 vol.5(10)より転載です。情報の鮮度にご注意ください。

 医療機関を受診する前に、インターネットを利用して健康関連情報を収集する人は少なくありません【1】~【3】。医療機関を受診するかどうかの判断のみならず、検診や予防接種を受けるかどうか、あるいは市販薬やサプリメントの購入などにおいても、医療・健康情報が僕たちの行動に何らかの影響を与えていることは否定しがたい事実です。

 インターネットやマスメディアから発信される情報内容の(科学的な)妥当性や信憑性については、さまざまな議論が可能であり【4】、本稿ではその是非については踏み込みません。しかし、たとえ妥当性や信憑性にが高い医療・健康情報を入手できたとしても、人間は必ずしも合理的な意思決定ができるとは限りません。例えば、ワクチン接種は公衆衛生上、極めて有益な予防医療ですが、その利益と害に対する価値認識は多様です【5】【6】。

 意思決定において、合理的であろうと意図するけれども、認識能力の限界によって、限られた合理性しか持ちえないことを限定合理性と呼びます。その要因として、ヒューリスティックス(問題解決の際、簡略化されたプロセスを経て結論に至ること)や、フレーミング効果(同じ内容であっても提示方法が異なるだけで意志決定が異なること)などの認知バイアスの影響があげられます。こうした認知バイアスの影響は、当然ながら臨床における意思決定においても例外ではありません【7】~【9】。

 本稿ではこれからの医療・健康情報におけるキーワードとして、フレーミング効果とナッジを取り上げ、情報が人の認識や振る舞いにどのような影響を与えるのか、さらにはその影響から垣間見える倫理的な問題について考察してみたいと思います。

【参考文献】
【1】Arch Intern Med.2005;165:2618-24. PMID:16344419
【2】J Med Internet Res. 2014 May 13;16(5):e128. PMID: 24824164
【3】J Med Libr Assoc. 2012 Jul;100(3):205-13. PMID: 22879810
【4】たとえば科学と非科学の境界を論じた書籍「疑似科学と科学の哲学」や、筆者の連載コラム「医療・健康情報を読み解く」を参照
【5】Mem Inst Oswaldo Cruz. 2018;113(8):e180063. PMID: 29846395
【6】厚生労働省:HPVワクチンの情報提供に関する評価について (参考ウェブページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06462.html)
【7】Yearb Med Inform. 2018 Aug;27(1):114-121. PMID: 30157514
【8】医療・健康問題の意思決定における限定合理性について. 地域医療ジャーナル2018年12月号 vol.4(12)
【9】Pediatrics. 2019 Feb;143(2). pii: e20181872. PMID: 30670584

フレーミング効果と臨床における意思決定

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