だいこんの群れ

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最近の記事

9月の呼び方

スーパーでパックの団子を買ってきた。 今日のお月様は一段と大きな三日月だった。 まだ十五夜には早かったが、せっかくの三日月なので、私は外で団子を食べることにした。 夜遅くに玄関へ行くと、相棒のしば犬が是非もないという顔でついてくる。 外に出るとまだ風がぬるい。 一応着てきた上着を脱いで、しば犬と公園へ進む。 草陰で鈴虫が鳴く中、アスファルトの上には定期的にセミファイナルを見つけた。 夏と秋が混ざり合っていて、私はまだ8月でも9月でもないのだと思い出した。 公園に着くと、

    • 小さいカニと地球

      満潮の夜、私は砂浜へ降りる階段に腰掛けていた。 真夜中の水面はほとんど目には映らず、たまに月の光を照り返す揺らぎで、かろうじてそこが海なのだと分かった。 私は何も言わずにただ目の前の暗闇を眺めていた。 それは隣にいる、小さなカニも同じだった。 私は一夏をこのカニと過ごしていた。カニと出会ったのも、この海だ。 私は足元をよく見てなくて、危うくこのカニを踏みかけた。咄嗟に避けようとして転げた私を、カニは宇宙の力で支えてくれた。 この赤くて小さなカニは、ただのカニではない。宇

      • 飛び立つおじさんを追って

        小学2年生の夏。その日は、とても暑い日だった。 日課として公園の木に砂糖水を塗りつけていた僕は、大きな木の側面に、おじさんを見つけた。 おじさんは地表から2mくらいの高さで、両手と膝で器用に木にはりついていた。 ほっぺを樹皮に当てて、木に吸い上げられた水の音を聞きながら、おじさんはどこか遠くを見ているようだった。 変質者かもしれない。最初は僕もそう思った。 しかし、おそるおそる近づいてみると、おじさんの背中には透明な羽根が生えていた。 おじさんはこちらに気がつくと、ジ

        • YRPアハ

          まえがき  子どもは当たり前のことを知らない。  だから認識と現実がズレていて、しばしば変な体験をする。  夜に壁の木目が動くのを見たり、今ハサミで切ったと言うその手が無傷だったりする。  切られた木が成長しないことを、傷がなければ怪我した事実もないことを、彼らはまだ知らないのだ。 彼らの見て感じたことが、彼らの現実だ。  俺はある夏、階段から落ちたことで、当たり前だった記憶の一部が抜け落ちた。 だからだろうか、その夏の俺は子どもみたいに。普段の世界ではありえないよう

          熱帯夜のおじさん、ミディアムレア

          その夜、おじさんは青々と茂る植物の中、燃えるように輝く太陽の下、まっすぐと立っていた。 熱は、中まで通っている。今のおじさんは、ミディアムレアだった。 扇のように大きな緑の葉。その間から、よだれを垂らした豹がおじさんを見ている。そう、彼からしたらおじさんはご馳走だ。 しかし、豹は一歩を踏み出すことができない。 おじさんが怖いから?おじさんが、アツアツだから? どれも違う。 おじさんの両肩には、とげとげのヤマアラシが二体、乗っていた。 とげとげを全方向に向けて、世紀末の

          熱帯夜のおじさん、ミディアムレア

          しめりぬぺコミュニケーション

          小雨の降る午後、山道入り口の短いトンネルにて、おじさんは白くて小さな人型の生き物をみた。 「ハアッ‼︎人っ……‼︎ぶたないで私を……。」 白くて小さな生き物は、おじさんをみるやいなや、体を丸めて震え出した。 おじさんは首を振った。おじさんは無力な生き物に手をあげない、一般的紳士だ。 代わりにおじさんは、自分の胸元に片手を添えて15度のエレガントな会釈をした。 最初は怯えていた生き物も、おじさんの並々ならぬジェントルオーラに、「ほぅ…」と感嘆をもらしながらゆっくりと立ち上が

          しめりぬぺコミュニケーション

          歯茎剥き出しおじさん、二輪化

          歯茎剥き出しおじさんを見たことはありますか? 笑っているのか、怒っているのか、 判別がつかないほどに、剥き出しの歯茎。 カッと開いた目、袖口が緩んだ白タンクトップ。 ステテコ。 見たことありますよね? この街では、だいたい9時〜16時に出現しています。 鬼みたいで怖い。という理由から、たびたび小学生に通報されるため、最近では挨拶運動に参加しているそうですよ。朝には、緑のタスキを掛けた姿が見られます。 そんなおじさんですが、その昔、愛する人を失った悲しい過去があります。

          歯茎剥き出しおじさん、二輪化

          美しい海、記憶の無いおじさん

          波が打ち寄せ、静かに引いていく。 ここは世界で1番美しい海。 その砂浜で、1人のおじさんが誕生した。 かの美の女神、アフロディテは泡から生まれた。 じゃあおじさんは、一体どこから? キレイキレイの、泡ハンドソープから? 答えはわからない。おじさんが最初に目覚めた時には、もう白い砂浜の上で横たわっていたのだ。 それ以前の記憶はない。 ただ、起き上がってこの壮大な海を見た瞬間、確かにおじさんは感じた。 あぁ、あなた、母……と。 近くのワカメを腰に巻きつけ、改めてビーチに寝そべ

          美しい海、記憶の無いおじさん

          でか石

          私の帰り道には、なかなか開かない踏切がある。 ある日の帰り道、私は1人でその踏切に引っかかってしまった。特に寒く運の悪い日だった。 電車が走り、突風が吹き抜ける。頬がひりつき、触ると氷のように冷えていた。 2本目の電車が走りだすのを待ちながら、私はもう、踏切を渡ってしまいたいように思いはじめた。 今までも何度か考えたことはあったが、今日は嫌にリアルな衝動が私の心を渦巻いていた。 この待ち時間の間、何人が渡れるだろう。 渡ったら一体、どんな罪に問われるというのか。 渡った

          おじさんアンドロイド雪を知る

          おじさん天才博士が死ぬ直前に、私は作られた。高性能おじさんアンドロイド。私には心がある。 人生を研究に捧げた博士は、普通の人生を私に託し、生前知ることのなかった美しい世界を探すようプログラムした。 そしておじさんアンドロイドは今、公園にいた。 公園は様々なものを教えてくれる。 何もしてないのにスズメは逃げること。 シャボン玉は空まで飛べないこと。 よくいるおじいちゃんは仲良くなっても、次の日には私を忘れてしまうこと。 世の中は悲しいことだらけだ。 3ヶ月この公園で過ごし

          おじさんアンドロイド雪を知る

          春と餅

          鏡餅を割らずにいたら、いつの間にかこんなに時間が経ってしまった。 もうすっかり手足も生え、部屋を右往左往しているのを、何度か目撃している。 いまさら割るのは忍びないと思っているが、我が家には猫がいるため、追加で餅と暮らすには相応の覚悟が必要だった。 しかしまだ私に気づかれてないと思って擬態している餅はなんだか微笑ましく、餅と知らんぷりし続ける日々に私は小さな楽しさを見出していた。 ある晩、うたた寝していると、部屋の隅で猫がゴロゴロ鳴く声が聞こえた。 寝ぼけ眼でそちらを見る

          おじさんのメール、もしくは女神の走馬灯

          人類のみな元気かな? おじさんは今、空の上にいます。 まばゆい人類のために、おじさんは、空中で炸裂する必要がありました。 悪が、迫っていたのです😌 おじさんってば、尊い犠牲です。 泣かないで、人類ちゃん。おじさん実は、不滅です。 君の心に、生きていますよ💋 君にも、家族にも、長らく秘密にしていることがありました。(おじさん個人の、というより国家の、なんですがね笑) おじさんは生まれた時から、おじさんという器の中に、美少女兵器としての自覚を持ち合わせています。 これは世に言

          おじさんのメール、もしくは女神の走馬灯

          【レポ】ドットを打つど!【ドット絵制作】

          はじめに初めまして、だいこんの群れと言います🧑‍🌾 普段はCLIP STUDIO PAINTやdotpictをつかって、ドットで女の子のイラストやアニメーションを制作しています。 『端ドット絵Advent Calendar 2023』1日目、気合い入れて頑張ります! 今回の記事ではドット絵制作のレポートを書いていこうと思います。 制作技術の説明ではなく、制作の中での気づきや楽しさを共有することで、いろんな人の『創作したい!』『ドット絵打ちたい!』欲を呼び起こせたらと思って

          【レポ】ドットを打つど!【ドット絵制作】