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あざらしがDJとして得たもの サラリーマンとして得たもの

あざらしが人前でDJを始めたのは28歳からだった。
それまでの境遇はこっちのnoteを参照

DJ活動を通して、自分が嘘みたいに成長した。
当時の本業は新卒採用担当だったが、DJとして身につけたノウハウが会社説明会でも役に立ったし、学生と話をすることからDJを学ぶ、などということが非常に多かったからだ。

仕事と趣味を両方持っている人の方が仕事ができるとかよく言うけど、本当に見識が深くなった。

本来DJは趣味なのだから、あまり仕事とリンクさせすぎるのもよくないのはわかるけど、その仕事が趣味の影響で少しでも楽しくなる、やりがいを感じられるようになると、日々のつらさは多少は和らぐのかな、と思う。

・指示待ちからの脱却

あざらしは専門学校を卒業し、20歳から社会人になった。
その後、28歳になってDJ出演するようになり、同じ時期に転職をして採用担当になった。

この20歳~28歳の間、自分は「指示待ち人間」の典型だったと思う。

指示待ちというのはつまり「他人が答えを与えてくれるのが当たり前」という心持ちのことだと思う。
どんなに業務処理能力があっても、人からもらった答えが神格化しすぎてて、それを離れてしまうととたんに不安になってしまう。

「他人が言ったから」というのは安心できるし、何より
「言ってきたやつの通りにしたから、間違ってても言ってきたやつが悪い」
と言い張れる。
だから人はなかなか人から答えをもらうことがやめられない。答えをもらわないと、何も行動できない。そういう人は当時のあざらしも含め、少なくないと思っている。

でもDJ活動の中では、そんなことを言ってられない局面に何度も遭遇した。

指示待ちというのは、指示を与える側が100%正しければ機能する。
でも例えば、オーガナイザーがまともにイベントを運営する気がないなんて局面に遭遇したとする。
そんなときにイベントがうまくいかなかったり集客ができないことを、そのオーガナイザーのせいにして自分は悪くないと言い張ったところで、イベントはしょぼくなっていく一方だ。出演してもどんどん楽しくなくなってくる。
そもそも集客のしかたが全くノウハウがないのに、言われた通りに集客して、集まらなくてげんなりして、みたいなことを続けてては意味がない、ということをだいぶわからされた。

だったら自分で何か工夫できないかな、というより、工夫しなければ!と必死になった。
あざらしはサイケをやるが、サイケ以外の現場もたくさん行ってみた。特に自分と全く界隈の違う、知り合い一人しかいませんみたいなところにガンガン顔を出すと、直接集客には結びつくことは少なかったが、新しい縁が生まれて違うジャンルのパーティーに出演したとか、そういった違う界隈からDJをブッキングして、そのDJ繋がりで新たなお客さんが生まれたとか、一つのことをやろうとしたら二つ三つと別の良いことが生まれていった。

今までにないことをやってみて、それがうまくいったら楽しくて、うまくいかなければ悔しい、そういったことが、仕事ではなくDJから学べた。

今ではそれと同じことを仕事でやることができている。
新しいことを覚えようと思ったときに、誰かに教わったことは全てではない、という意識が生まれた。最低限のルールさえわかれば、その枠の中でトライアンドエラーをする。それが身についたことで1聞いて2くらいは学べるようになったと思う。

・目の前には色んな人がいる

あざらしがやっていた新卒採用はIT業界。システムエンジニアやプログラマー向けでありながら、営業担当も同時に募集していた。

やってみて思ったことは、IT業界は不人気の業界なのでは?ということ。
いや、人気なのかもしれないけど、似通った会社があまりにも多いから、その中の会社一つとして埋もれてしまっていたのかもしれない。

そんな中で合同説明会に座ってくれる学生というのは本当にいろんな人がいた。じっくり聞いてくれると思ったら実は興味がない人だったり、聞きたいことがあるのに聞けない人。一番多いのは、
「あざらしが採用担当だから、学生は本心を言わない」
これは採用担当同士に限らず、就活現場の常識だった。

そういった様々な人に対して、必ず刺さる「魔法の言葉」みたいなものは存在しない。目の前にいる学生がどういう人で、どう説明したら聴きやすくて、何を言ったら引き込まれるか、みたいなものを常に探り続けないといけない。
一度も学生を惹きつけられることができなかったなんて日もあった。
でも、一人の心をつかんで、その一人が巻き込まれたことによって場に流れが生まれて、他の学生も同じように巻き込まれて盛り上がり、その日の特別な回になった、なんてこともままあった。

DJがこの文章を読んだら、感じてくれる人もいると思う。
まるでブースに立ってる時のDJの考えそのものだ

目の前のフロアにいる人たちは人間だ。
どんな曲が好きで、何がかかったら楽しくて、みたいなのは全員違う。
そこにいるのが昨日と同じ人だったとしても、その日の気分で楽しかったり楽しくなかったりするものなのだ。

DJなら経験あると思う。ある日のセットが爆裂に刺さって、すごくフロアが盛り上がったもんだから、それを「セットリストのおかげ」だと思って同じようなセットで次も挑んでみたら全然刺さらなかった、みたいなことが。

自分がDJをするときに、顔を前に向けることが増えた。フロアがどうなってるか見るのは怖いかもしれないけど、見なければ目の前の人達がどういう気持ちなのかがわからないから。
もしそれでつまらなそうにしてるとわかったなら、プレイの方向性を変えられる。

それに、目を合わせずに下を向きながら、台本を読むように説明をする採用担当の話を聴こうと思うだろうか。それと同じなのか、DJもフロアと目を合わせた方が、不思議と盛り上がった。

また「自分が好きなこの曲、なんでこんなにいい曲なのに刺さらないんだ」みたいな葛藤がなくなった。
どんな神曲でも刺さらない日はあるし、何の気なしにかけた地味な曲がめっちゃ刺さることもある。
だから、その日フロアが上がらなかったとしても、自分としては全力でDJしたんだから、今回はその瞬間に求められる雰囲気が出なかっただけで、気にせず次回に進むことができる。

毎回無理にバチクソに上げなければならない、という考え方は一種の呪いだと思う。
そんなものがなくても、自分の番を自分の世界にすればよいと思っている。

・集客した経験から得られたもの

あざらしは様々な合同企業説明会に参加したが、多くのブースで、ただただ仕事として自分の会社の決まった説明をして、そこまでが目的だと思っていそうな採用担当をいっぱい見てきた。

それは、自分が「聞かせたい」という自分本位な説明になってしまう。学生は会社自慢を聞きたいわけじゃない。

学生は「ここだったら働いてもいいな」と思える会社を探している。
学生の立場から見て、独りよがりに自分たちの会社を一方的に説明してきて、学生がどういう人なのか知ろうともしないようなスタンスだったら、
「ここに就職した後も今みたいに一方的に指示されて、やりたいこともできずに自分を殺して仕事をする」
みたいな未来しか見えないでしょ。

それに、会社だって「こいつとなら一緒に働きたい」と思う学生を探しているはずだ。
なのに、そんな張り付いた笑顔で決まったことを説明して、都合のいい回答をするような採用担当をしていたら、学生だって何一つ本音を言わなくなるだろうし、結局学生は数字の良いところに行ってしまうだろう。

学生がもし「頑張ればどんな仕事でも何とかなると思うから、諸々条件がいい会社に行きたい」とわかったなら、条件面の話を「デメリットも含めて」説明する。残業について聞かれたら、「IT企業なので何年かに一度デスマーチみたいな残業が起こってたのを見たが、普段はそうでない時の方が多く、みんな定時で帰っていく」と説明していた。

また、IT系の学生なので、それなりにネットミームには明るい学生が多い。
採用担当がしれっと説明の中にネットミームをぶち込むと、学生は急に親近感を得てくれるなんてこともあった。
学生には正直に現況を話した方が信用してもらえるものだ。

結果、ある学生の志望動機で「いろんな会社の中で唯一、採用担当が「残業はある。デスマーチはある」とはっきり言ったのが決め手だった。ちゃんと最初からそうやって言ってくれる方が覚悟が持てるし、信頼できる会社だと思った」と言ってくれた。その学生は内定を承諾してくれた。

この話は実はDJの「集客」の考え方に近い。

主催者が、ただただ自分がDJしたい、人に自分のDJを聴かせたい、ついでに稼げたらいいな、というだけのイベントをやったとしよう。
そのイベントには同じように自分の音を聴かせたいと思っているDJしか集まらないと思うし、客もある意味力技で呼ぶだけになってしまう。
よく知らない奴に「俺が出演するから来てほしい!」と言われたとしても、下手したら「怖い」だけで終わってしまうこともあるだろう。

その状況は「ジャイアンリサイタル」と言えばなんとなく伝わるだろうか。

あざらしはジャイアンリサイタルに友達を呼びたいとは思えない。

集客は「客を集める」と書くが、それだけやってればよいというものでもない。というより、人は興味を持って面白そうと思ってくれれば、最終的には呼ばなくても来るものだと思う。
つまり集客は突き詰めれば、「イベントのコンセプトと作りこみ」が全てだということだ。

以前、オーガナイズを一番わかりやすく教えてくれたとある千葉のDJが常にこんなことを言っていた。

「客は主催者が呼ぶもの。そして使うDJにはいかにオナニーさせられるか」

その話を聞いたばかりの頃は「主催ばっかりが集客するのか、大変だな」と思っていた。だけど話の本質はそうではない。

自分がオーガナイズをやってみて気づいたのは
「音箱イベントはホームパーティーの延長」だということ。
自分の家に友達を招いてみんなで楽しもうとしているのを、自分の家じゃ狭すぎるからどこか広い所を借りてパーティーしよう、というのが音箱の考え方だと思った。

だから、どういうイベントなら来てくれるか、誰を呼んだらみんなが楽しいパーティーになるのか、DJもどんな音の空気を作ってくれるのか、そのDJ本人たちはどうだったらそのイベントを楽しく過ごせるのか。
やはり自分の家に呼ぶのだから、自分ちに呼びたくない人もいるだろうし、そういう人が来ないようにするには…。
考え始めたらきりがないけど、実際別にお金を儲けようと思ってホームパーティーしたい、音箱がしたい、というわけじゃないはず。

みんなで協力して作るのがパーティーではあるが、最終的にどんな場にするかは、その家を持つ主催者が決める。
出演者に客を呼ばせるにしても、なんの方針も示さずただ人数だけ集めろとやっても、ちゃんと楽しんでくれる人ばかりが集まってくれるかと言えばNOだと思う。
主催者がこういうイベントにしたい!それを聞いたDJが面白そう!友達と一緒に楽しみたい!と思ってくれたら、DJは勝手に人を呼んでくれると思うんだ。

もちろん規模が大きくなってきたらそんな理想論だけではうまくいかないのかもしれない。
でも、小さいイベントのうちは上記のような考え方でもってイベントを作って、大きくなって、今の家では入りきらなくなって、大勢の人を楽しませるために……。
そうやって初めて数字を気にするようになっていくものなんだと思う。

あざらしが打ったイベントも、実際のところその時に自分が出せる予算は全然なかった。
だから有名なアーティストを呼んだりとか、そういった目玉で集客することができなかったから「今までにない案」かつ「あまりお金のかからない案」をひねり出して、可能な限り「収支プラマイゼロになれば上等、とにかく来てくれた人達が楽しんで帰れる」というイベントを作っていた。

採用活動でも「相手が欲しいと思っている情報を、会社の情報という限られたカードから出して魅力を伝え、選ぶ会社の候補に入れてもらう」
出演でも「相手が興味を持てるようなイベントを作って、みんなで楽しめることを伝えて、遊びに行くイベントの候補に入れてもらう」

考え方は似通っている。こうやって相互に仕事と趣味を影響させることで、あざらしが作ったパーティーはそれなりの成功をしたんだと思う。

・趣味があるから他のことも楽しい

あざらしの場合は採用担当とDJ、という組み合わせだったが、別に偶然仕事が採用担当だったからたまたまうまくいったなどとは思っていない。

全ての仕事と全ての趣味は、どこかに影響させられるような要素があると思う。ないとか言ってないで、考えてみるときっといくつか出てくる。

この「ひねり出す考え方」すら役に立つ。考えないより考えた方がいい。
今の会社であざらしは給料の計算をやっているが、もちろんDJで学んだことはしっかり活かせている。

今仕事がつまらないと思っている人も、そうやって考えたら少しは楽しく感じられるのかもしれない。あざらしはDJのおかげで、今やっている仕事も、大変ではあるけど楽しんでやっていられていると思う。


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