マガジンのカバー画像

介護・人間関係論

10
介護は、介護される者と介護する者の相互行為です。この相互行為の構造、関係性について考えてみることは介護の基本を考える上で大切なことだと思います。
運営しているクリエイター

記事一覧

ケアとは物語の書き換え ―「訂正可能性」の介護 3―爺のお勉強note

ケアとは物語の書き換え ―「訂正可能性」の介護 3―爺のお勉強note


3.ケアとは物語の書き換え(1)ケアの定義

 近内悠太さんは「大切にしているもの・こと」という概念を用いて介護・ケアを定義しています。

 ようするに、介護・ケアとは当事者(お年寄り)の「大切にしているもの・こと」を大切にする営為で、「他者の生を支援する」ことだということです。
 また、「大切にしているもの・こと」が大切にされなかったとき、大切にできなかったとき、人は「傷」つきますが、その「傷

もっとみる
「傷」から始まる介護 ―「訂正可能性」の介護2―爺のお勉強note

「傷」から始まる介護 ―「訂正可能性」の介護2―爺のお勉強note

 心とは自我と超自我の間のズレ、ねじれ、矛盾、葛藤、揺れ動きですが、よく「心が折れる」と言ったりします。
 こうあるべきという超自我と現実の自我との間で、未来に向けて葛藤し揺れ動いている心から、急に未来が奪われ、それ以上揺れ動くことが不可能となり「もうだめだ」と判決が下ってしまうことを「心が折れる」というのではないでしょうか。
 そして、心が折れてしまうと人は「傷」つくのです。
 それは、大切にし

もっとみる
「心ある介護」 ―「訂正可能性」の介護1― 爺のお勉強note

「心ある介護」 ―「訂正可能性」の介護1― 爺のお勉強note

 近内悠太(教育者、哲学研究者)さんの『利他・ケア・傷の倫理学』(2024年 晶文社)は介護について考える際にとても参考になります。
 この本の帯に東浩紀(評論家)さんの次のような言葉が記載されています。

 「訂正可能性の哲学」がケアの哲学・・・ケアとは、あらゆる関係のたえざる訂正のことなのだ。

 私は、四半世紀も前に東浩紀さんの『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』(新潮社、1998

もっとみる
介護・人間関係論Ⅰ 介護における相互行為(interraction)とは何か?

介護・人間関係論Ⅰ 介護における相互行為(interraction)とは何か?


1.フィヒテの相互承認論 介護は、介護される者と介護する者との相互行為なのですが、そもそも、その相互行為とは何なのでしょうか。または、どうあるべきなのでしょうか。

 フィヒテは『自然法の基礎』において相互承認論を次のように展開しています。

 ここには幾つかの大切な指摘があります。

・第一に相互行為は人の能力発揮の前提であること。
・第二に相互行為は他者からの行動への促し、呼びかけがが必要で

もっとみる
介護・人間関係論Ⅱ 介護ロボットと主奴関係

介護・人間関係論Ⅱ 介護ロボットと主奴関係

1.介護ロボットと介助者手足論 夢のような介護ロボットについて思考実験してみましょう。

 この思考実験をとおして介護される者の隠された欲望を摘出し、介護関係(介護する・介護される)についての有益なヒントを得られるのではないでしょうか。

 さて、もし、2001年のアメリカのSF映画のAI[1]に見られるような完全無欠、完璧な介護ロボットが誕生したとします。
 このロボットはお腹がすいたといえば食

もっとみる
介護・人間関係論Ⅲ コミュニケーション行為としての介護

介護・人間関係論Ⅲ コミュニケーション行為としての介護


1.「偽会話」はメタ・コミュニケーション 介護は当事者(介護される者)と職員(介護する者)との相互行為であるため、介護は対面的なコミュニケーション行為を必須とします。
 しかし、コミュニケーションもままならない当事者(お年寄り)の介護にあっても「介護はコミュニケーション行為といえるのか。」という疑問を持つ人もいるかも知れません。

 認知症介護の現場で良く使われている用語に「偽会話」というのがあ

もっとみる
介護・人間関係論Ⅳ.介護関係の非対称性・権力性・抑圧性・暴力性

介護・人間関係論Ⅳ.介護関係の非対称性・権力性・抑圧性・暴力性


1.介護における関係の非対称性 介護は介護される者と介護する者の相互行為ですが、介護される者と介護する者との関係は非対称的です。介護を理解する上で、この介護関係における非対称性について整理しておく必要があると思います。

① 関係の離脱可能性

 介護関係の非対称性の一つの特徴は、介護関係からの離脱可能性という観点です。上野千鶴子さんはこの離脱可能性について次のように指摘しています。

 当事者

もっとみる
介護・人間関係論Ⅴ.見る事と見られる事 ~眼差しの暴走~

介護・人間関係論Ⅴ.見る事と見られる事 ~眼差しの暴走~


1.介護職員は見る専門家 介護職員は介護の専門家として入居者を客観的、科学的に観察し、評価し、適切な目標を立てて、計画的に介護サービスを提供するように訓練されています。実際に、実行できているかどうかは別問題[1]としても介護職員は当事者を客観的、科学的に見る専門家なのです。

 この客観的、科学的に見ることの問題点は別の機会に考察してみたいのですが、ここで指摘したいのは、彼ら・彼女らは、見ること

もっとみる
介護・人間関係論Ⅵ.パターナリズム

介護・人間関係論Ⅵ.パターナリズム


1.相互関係を毀損するパターナリズム パターナリズム(paternalism)は温情的父権主義、温情的庇護主義と訳されています。
 パターナリズムとは当事者(お年寄り)のために、お年寄りに代わって、お年寄りにとって善いと思われることを、介護職員などの第三者が責任を持って決め、実施することです。
 これは善意に基づく行為ですので、パターナリズム的な行為を行っている者は、自分は善き行いをしていると信

もっとみる
介護・人間関係論Ⅶ.プライバシー

介護・人間関係論Ⅶ.プライバシー


1.プライバシー:介護関係から一時離脱する権利 プライバシー(privacy)という概念には、私生活に侵入されない権利、私的事実を公開されない権利、公衆の誤認を招く公表をされない権利、氏名や肖像などを盗用されない権利、自己の情報をコントロールできる権利、自己決定権や静穏のプライバシー権など時代の流れとともに様々な権利が含まれるようになってきています。

 さて、介護施設でプライバシーを大切にする

もっとみる