見出し画像

No.5 マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

初期のころは細菌の顔ぶれ(種)と疾患の関連付けの論文が目立ちましたが、最近は代謝(機能)やトランスクリプトームに焦点を当てている研究が多いように思います。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!

代謝的に健康な肥満の人の腸内細菌の傾向を、人体測定学的、代謝的、炎症の変数から検討する

[Regular Article]
(タイトル)Gut microbiome signature of metabolically healthy obese individuals according to anthropometric, metabolic and inflammatory parameters
(タイトル訳)代謝的に健康な肥満の人の腸内細菌の傾向を、人体測定学的、代謝的、炎症の変数から検討する
(概要)代謝的に健康な120人の肥満の成人から糞便を採取しm16S rDNAシーケンスを実施。臨床学的なタイプ分けや代謝、炎症の数値も同時に分析した。彼らはタイプ1と2に分けられ、タイプ1の腸内細菌はプレボテラ科が多く、血清のインターロイキンの高値や腸内細菌の多様性低下が観察された。また彼らの糞便にはプレボテラ属由来の細胞外小胞も多数存在し、アクチノバクテリア、ファーミキュテス、プロテオバクテリア、アッカーマンシア、バクテロイデスなどは少なかった。
(著者)Ho-Kyoung Leeら
Department of Internal Medicine, Seoul National University Bundang Hospital, 82, Gumi-ro 173, Beon-gil, Bundang-gu, Seongnam-si, Gyeonggi-do 13620 South Korea
(雑誌名・出版社名)SCIENTIFIC REPORTS
(出版日時)2024 Feb 11
(コメント)どちらのタイプがどうということは今のところ言えないが、医学上は健康に見える肥満のヒトも、未病の状態のヒトと健康なヒトの2タイプに分けられる可能性を示していると言えるかもしれない。

微生物の代謝と宿主の免疫間のクロストーク:アレルギー性疾患に関連して

[Review Article]
(タイトル)A cross talk between microbial metabolites and host immunity: Its relevance for allergic diseases
(タイトル訳)微生物の代謝と宿主の免疫間のクロストーク:アレルギー性疾患に関連して
(概要)アレルギー疾患に腸マイクロバイオームの乱れが関連していることが判明しつつある状況を踏まえ、腸内細菌の代謝が宿主の免疫機能やその代謝に及ぼす影響を、恒常性やアレルギー疾患をからめてレビューした文献。短鎖脂肪酸、アミノ酸、胆汁酸などの微生物による代謝と免疫細胞細胞との関係を詳しく解説している。
(著者)Purevsuren Losol
Department of Internal Medicine, Seoul National University Bundang Hospital, Seongnam Korea
Milena Sokolowska
Swiss Institute of Allergy and Asthma Research (SIAF), University of Zurich, Davos Switzerland
ほか
(雑誌名・出版社名)Clin Transl Allergy
(出版日時)2024 Feb 11
(コメント)細菌の顔ぶれそのものではなく、その代謝物と疾患の関係をレビューしている

若年における大腸がんの発生と腸マイクロバイオーム、環境、食事の関連

[Review Article]
(タイトル)The Impact of the Gut Microbiome, Environment, and Diet in Early-Onset Colorectal Cancer Development
(タイトル訳)若年における大腸がんの発生と腸マイクロバイオーム、環境、食事の関連
(概要)若年化する大腸がんの患者において、腸マイクロバイオームの影響の大きさや、そこに影響する環境、食事、宿主側の要因などを網羅的にまとめている。
(著者)Rui Daiら
Department of Radiology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA 02114, USA
(雑誌名・出版社名)cancers(MDPI)
(出版日時)2024 Feb 5
(コメント)50歳以下で発症する大腸がんの初期発見、初期治療のための現状をまとめ、将来の展望を語っている。

試験管内の実験では、サプリメントを加えた粉ミルクと母乳は、腸内細菌の組成と機能において似たパターンを示す

[Regular Article]
(タイトル)Supplemented Infant Formula and Human Breast Milk Show Similar Patterns in Modulating Infant Microbiota Composition and Function In Vitro
(タイトル訳)試験管内の実験では、サプリメントを加えた粉ミルクと母乳は、腸内細菌の組成と機能において似たパターンを示す
(概要)INFOGEST法という方法を用いて、母乳に似せた成分を加えた粉ミルクと、通常の粉ミルクと、母乳が細菌の組成や短鎖脂肪酸産生能にどのように違いを与えるかを検証している。あくまで試験管内での話だが、サプリメント化された粉ミルクは母乳と遜色ない細菌組成と短鎖脂肪酸の産生能を持つに至った。ただし、母乳と同じではないことに注意する。
(著者)Klaudyna Borewiczら
Mead Johnson B.V., Middenkampweg 2, 6545 CJ Nijmegen, The Netherlands
(雑誌名・出版社名)International Journal of Molecular Sciences(MDPI)
(出版日時)2024 Feb 2
(コメント)粉ミルクメーカーも、微生物に注目して開発をしている。著者の所属であるオランダは、粉ミルクメーカーの開発がさかんな印象。

大腸がん患者における腸マイクロバイオーム、宿主ゲノム、トランスクリプトームの相関をマルチオミックス解析で明らかにする

[Regular Article]
(タイトル)Multi-omic profiling reveals associations between the gut microbiome, host genome and transcriptome in patients with colorectal cancer
(タイトル訳)大腸がん患者における腸マイクロバイオーム、宿主ゲノム、トランスクリプトームの相関をマルチオミックス解析で明らかにする
(概要)41名の大腸がん患者の糞便微生物叢と、腫瘍のある部分とない部分から採取した組織のゲノム解析とトランスクリプトーム解析を実施した。
その結果、22の微生物の関連が特定され、さらに4つの遺伝子ががんに関連する微生物と関係していた。中でもFusobacterium nucleatumは腫瘍免疫環境を変化させることがわかった。これらの結果から、マルチオミックス解析は診断に役立つ可能性がある。
(著者)Shaomin Zouら
Department of General Surgery, The Sixth Affiliated Hospital, Sun Yat-sen University, Guangzhou, 510655 China
(雑誌名・出版社名)Journal of Translational Medicine
(出版日時)2024 Feb 18

↓その他にもこんな論文がありました。

From Gut to Hormones: Unraveling the Role of Gut Microbiota in (Phyto)Estrogen Modulation in Health and Disease


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38342595/#full-view-affiliation-1
(コメント)
エストロゲンやエクオールの産生に腸マイクロバイオームがどのように関わるか。有料論文。

Soil exposure modulates the immune response to an influenza challenge in a mouse model


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38340827/
(コメント)
「旧友仮説」の検証のため、マウスを土壌微生物にさらし、その後インフルエンザに感染させた前後の腸&肺マイクロバイオームを観察している。

Gut microbiome and serum amino acid metabolome alterations in autism spectrum disorder


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10874930/
(コメント)
30名のASD患者と定型発達児における、腸内細菌叢と血清アミノ酸代謝物の比較試験

Antibacterial mouthwash alters gut microbiome, reducing nutrient absorption and fat accumulation in Western diet-fed mice


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10874955/
(コメント)
抗菌マウスウォッシュが長期的に腸マイクロバイオームを乱れさせ、栄養の吸収を妨げる可能性を示唆している。

Differences in gut microbiota between Dutch and South-Asian Surinamese: potential implications for type 2 diabetes mellitus


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10894869/
(コメント)
オランダ人と、マイノリティ民族である南アジア系スリナム人の腸内細菌叢を比較し、Ⅱ型糖尿病のなりやすさと微生物の関連を模索している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?