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122歳のSL列車で日帰り旅行

2024年3月10日、日曜日。

シドニーセントラル駅の、ホームの片隅に人だかりが。

ステンレスボディの電車が連なる中で、マルーンカラーに塗られた古色蒼然とした客車が存在感を放っている。そしてその客車の先頭には、これまた格式のある蒸気機関車が。

そして、その蒸気機関車からは元気よく煙がもくもくと上がっていている。

石炭がてんこ盛り

今日はこの列車に乗るのだ!

オーストラリアは日本と比べるといわゆる「鉄オタ」は少ないが、それでも古い機関車や客車をちゃんと保存しているし、たまにだが実際にそれらが運行され、イベント切符を買えば乗ることができる。

今回は、Transport Heritage NSW (NSW州交通遺産)という団体が主催するイベント列車に乗車した。

さてこの機関車、友達がホグワーツエクスプレスみたい!と言っていたが、確かに似ているかも…それもそのはず、この3265号機という蒸気機関車は、1902年にイギリスのマンチェスターで製造され、1968年までこのNSW州で活躍していたとのこと。

…ってことは作られてからもう122年も経ってるのか!っていうか、1902年なんて、日露戦争も始まってませんぜ?すごくない??

胴体は艶のあるマルーンカラーに塗られていて、Hunterという愛称が付けられている。客車も似たような色調なので、とても良く似合っている。

客車の方は、全部で8両連結されていたが、説明板によると1919-39年の間に作られたそうだ。これも100歳以上なのか!

鉄道の歴史が違うとはいえ、日本では100年以上経っている機関車や客車を動かしているケースはないと思うから、いやはや恐れ入りました。このような骨董品のような車輌をちゃんと動かせるようにしている所に、オーストラリアの底力を見たような気がした。

ひととおり機関車の写真を取った後、指定の車両に乗る。客層は鉄道ファンもいたが、どちらかというとご年配の方が多かった。
僕のお向かいの席に座っていたご夫婦は、「子供の頃、こんな列車に乗って学校に通っていたよ~」なんて嬉しそうに言っていたので、そのような懐かしさで乗車している人も多いんだろうな、と思った。

さて、定刻になって、気が付かないうちに列車はゆっくりと動き始めていた。
そうそう、この静かな発車は客車ならではで、普段の電車では味わえない感覚なのである。

今回の目的地は、シドニーから鉄道で2時間ほど南下した場所にある、ウーロンゴンである。途中、広大な国立公園の森林を抜け、海沿いを走るとても風光明媚な路線だ。

しばらく走ると、うむ、暑くなってきた。

もちろん客車は非冷房で、幸か不幸かこの日はとてもいい天気だったので、直射日光が容赦なく差し込んでくる。昔はブラインドがあったのだが(と同乗のオールドタイマーたちが言っていた)、もうそれは取っ払われている。イベント列車なのでブラインドを下ろすなんて下世話なことはしないほうが良いけど、とにかく暑い。申し訳程度に扇風機が付いているが、客車の両端なので効果はほぼなし。

そして、蒸気機関車の煙突から出た煤が、バンバン開け放たれた窓から入ってくる。ふと気づくと座っている膝の上には細かい煤がかなりの量で降っていたし、ということは顔や髪の毛にもたくさん混じっているんだろうなあ…。
まあそんな事を言ったら、機関車にいる運転士などはもっとすごいことになっているんだろうけど。

それにしても、蒸気機関車って、とても人間っぽい。上り坂に差し掛かると、機関車の音…ドラフト音っていうのかな、いわゆる「シュシュポポ」のペースはとても上がっているのがよく聞こえるのだけど、その割には速度は上がらない…いや、逆に遅くなっている!まさに喘ぎながら登っているなあ!というのが実感できるのである。

自分がマラソンランナーなので、「あ、これは上り坂で苦しんで走っているオレみたいだ~!」と思ってしまった。

そう、蒸気機関車に乗っていると、五感で旅を楽しめるのである。

車内にはボランティアの人が各車両ごとに乗っていて、沿線案内、この客車や機関車についての説明をしてくれる。この人たちはもちろん無給でやっているので、エライなあ…と感心する。でもまあ、楽しそうだけどね。

さて、そんな山あり谷ありの経路をたどり、列車は無事にウーロンゴンに到着。

帰りの列車が出るまで2時間半ほどあるので、町を散策することにする。
飲んべえの我々が向かうのは…もちろんクラフトブリュワリー。ここウーロンゴンにもちゃんとブリュワリーがあるということを調べておいたので、そちらにお邪魔し、ビール各種を楽しむ。

非冷房の客車で炙られていたので、つべたいビールが最高だ!

のんびりとビールを飲んでいたらあっという間に発車の時間が迫ってきたので、駅に戻る。

それにしても、やはりきれいにメインテナンスされているなあ…。

帰りの旅も、石炭の煤が窓から舞い込んできて大変だったけど、ゆっくりとした旅を楽しめた。

機会があったらまた乗ってみたい、と痛感した体験だった。

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