見出し画像

【谷川俊太郎】私の心にも詩が沈澱している

どうしてそう思ったんだっけ。
私、谷川俊太郎の詩を、じっくり読んだことがない。
小さなブックカフェの本棚にも、谷川俊太郎の本は差してあった。
この限られたスペースの中にも選ばれてるんだ。すごいなあ。

日本で存命の詩人といえば谷川俊太郎だ。なのに読んだことがない。
よし、買おう。
年末年始から読書のモチベーションが上がっていて、知らなかった本ほど読んでみよう、と前のめりになっている。
とはいえ、詩集はほとんど馴染みがなかった。
我ながら詩への感度はお世辞にも高いといえない。
理解できなかったらもったいないかもな、まあ物は試しで、と本を開く。

……しばらく読んで、高を括っていた、と痛感した。
なんだろう、するする読めるし、どんどん読んじゃう。
理解、というのではない。わかるかといえばわからない。
ただ響く。言葉が、確実に響いてくる。
一度読んだフレーズに、ページを繰り直して舞い戻る。
目を留め、いつの間にか口の中で繰り返している。

すべての僕の質問に自ら答えるために

谷川俊太郎

優れた詩が、記憶の底から、今まで触れてきた詩を呼び起こす。
馴染みがないと思っていた詩も、いくつかは私の中に蓄積されている、と思い出す。
そうだ、谷川俊太郎といえば、「朝のリレー」を書いた人だ。

カムチャッカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている

谷川俊太郎

芋づる式に、次々、次々と。
金子光晴の「落下傘」。
初めてはっきりと打ち震えた詩。

ゆらりゆらりとおちてゆきながら
目をつぶり、
双〔ふた〕つの足うらをすりあはせて、わたしは祈る。
 「神さま、
 どうぞ。まちがひなく、ふるさとの楽土につきますやうに。
 風のまにまに、海上にふきながされてゆきませんやうに。
 足のしたが、刹那〔せつな〕にかききえる夢であつたりしませんやうに。
 万一、地球の引力にそつぽむかれて、落ちても、落ちても、着くところがないやうな、悲しいことになりませんやうに。」

金子光晴

金子みすゞ。
私の世代は一度はこの人を通るんじゃないだろうか。
優しく淡く、やはり切ないまでに優しい歌。

残ったひとりは寂しそう、
「私は、影をつくるため、
やっぱり一しょにまいります。」

金子みすゞ

思い出せないだけで、忘れているわけではない。
次々と記憶が蘇って、そう思い知らされる。
詩は私の中にも沈澱していて、触れれば確かに立ちのぼる。
しまい込んだままにしていた宝物を、何年か越しに見つけ出した気持ち。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?