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1つぶのおこめ

その日、図書館に辿り着いたウサギは、窓際の閲覧席でページをめくっていたカメのもとへ急いだ。彼女は静かにカメに問いかけた。「心を澄ませるような本が読みたいんだけど」カメは一瞬考えをめぐらせた後、彼女の意図を尋ねることなく、黙って手元の絵本を差し出した。

絵本を受け取ったウサギは、彼の隣にふわりと腰をおろすと、ページをぱらりと開いた。そして魔法に掛かったように、夢中でページをめくり続けた。最後のページを閉じた時、ウサギの顔は笑顔に変わっていた。「ありがとう。心がスッキリと割り切れたわ。これは掛け算の本だったけど」

カメが渡したのは、デミの「1つぶのおこめ」という絵本だった。その物語は、飢饉に苦しむ村人のために、欲張りなインドの王様からお米を取り戻す方法を思いついた、ラーニという少女の物語だった。

ある時、王様からご褒美をもらうことになったラーニ。彼女が望んだものは、たった一粒のお米だけ。でもひとつだけ条件があった。それは30日間、前の日の倍のお米をもらうというもの。つまり、2日目は2粒、3日目は4粒という具合に増えていく。王様は笑いながら言った。「あの娘は賢いとは言えないな」と。

ところが16日目になると、ラーニがもらうお米は32,768粒となり、30日目にラーニが受け取ったのは、なんと5億3,687万912粒のお米だった。算数の得意なラーニが、最後に笑うという痛快なお話だった。

彼女が絵本を読み終えると、カメが聞いた。「今日は何かあったのかな?」それを聞いたウサギは首をひねった。「え、今日?何かあったかしら? なんだか心が軽くなって、何もかも忘れてしまったわ」

この絵本を読んだ後は、割り切れるものも、そうでないものも、すべて快く受け入れられる二人だった。

※1つぶのおこめ さんすうのむかしばなし
デミ作/さくまゆみこ訳/光村教育図書

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