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紅茶とクッキーのご褒美

その日の朝、カメはレース会場に向かうサイクルロードでゆっくりペダルをこいでいた。道の脇には黄色や白の花が咲き乱れ、一面に春の息吹が満ちていた。彼はふと、駒沢公園でウサギに言われた言葉を思い出した。「ギリシャの兵士のように走ってね」と。

スタートの号砲が鳴ると、カメは静かに足を踏み出した。まずは、自分の体調を確かめてみる。脚は軽やかに動き、呼吸も穏やかだ。「調子は良さそうだ」そう心の中で小さく呟くと、彼は一度大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐いた。そして肩の力をふっと抜いて前を見つめた。

河川敷は、サッカーに夢中な少年たちや、犬を連れて散歩をする人々など、休日を過ごす人たちで賑わっていた。カメはそんな風景に目を向けながら、自分のペースが思っていたよりも速いことに気づいた。次第に脚が重くなってきたが、彼はそれを気にせず、「走っている今を楽しもう」と心の中で微笑んだ。

カメは残された力をすべて振り絞って、無心でフィニッシュラインを駆け抜けた。息は切れていたけれど、その顔には全力を尽くした達成感が浮かんでいた。ゆっくりと歩みを進めて、彼は荷物が置いてあるレジャーシートへ戻った。ふと気づくと、そこには麦わら帽子をかぶったウサギが座っていた。彼女はカメに向かって手を振り、にっこり微笑んだ。

ウサギの手には紅茶とクッキーがあった。「お疲れさま。完走のご褒美にどうぞ」と、彼女はカメにやさしくカップを手渡した。カメは一口紅茶を飲むと、「ありがとう、ウサギさん。とても嬉しいよ」と、彼は素直に感謝の言葉を伝えた。

「頑張ってよかった」と、カメは胸の中でつぶやいた。ウサギの温かい気持ちが、春の風とともにカメをやさしく包み込んでいた。

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