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道なき道を走り続ける

次の朝、ウサギとカメは石垣島北部の平久保半島のほど近く、伊原間公民館の広場で準備運動をしていた。産まれたばかりの海風が、二人を優しく包んでいた。これから挑むのはオーシャンビュートレイル。ただのレースではない。それは自然との、そして自分自身との対話であった。

「ウサギさん、今日は距離が長いし、足元も危険がいっぱいだから気をつけてね」とカメが静かに言うと、その言葉に彼女は微笑み、「無理はしないけれど、このコースのすべてを楽しんでくるわ」と応えた。彼女の目には未知の道への期待が輝いていた。背負うリュックには軽食とドリンク。左の手首にはカメから借りたGARMINをつけて。

ウサギが挑むのは32キロに及ぶトレイルランコース。彼女を待ち受けているのは未舗装の自然道だ。スタート直後のビーチランで、ウサギは早くも自然の力を思い知らされた。柔らかい砂浜に足をとられながらも、彼女は微笑んだ。それは自然との戦いの始まりだった。

ウサギは西表石垣国立公園を駆け抜けた。途中で牛に出会い、激しいスコールをくぐり抜けた。遠くに見える青い海、そして、ウォークの部で同じコースを歩いているカメの存在が、彼女に新たな力を与えた。「カメくん待っててね。すぐに行くからね」彼女はどんな坂道だろうが、くるぶしまで水に浸かろうが、ひたすらに走り続けた。

そしてゴール手前で手を振るカメの姿を見つけると、ウサギは最後の力を振り絞ってカメのもとへ走った。「カメくーん!」一瞬でレースのことは忘れ、ただ彼を目指した。そして二人は時を同じくしてフィニッシュラインを超えた。

言葉は必要なかった。
二人は穏やかな海風に吹かれながら、優しくハイタッチを交わした。

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