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かぐや姫と月の世界へ

その日、ウサギとカメは少し風変わりな古本屋の隅で《かぐや姫》の本を見つけた。ほこりっぽい本のページをめくると、どこか懐かしい匂いと共に、古い時代の人の手で丁寧に書き写された文字が現れた。店を出て小道を戻る途中、ウサギはふと立ち止まり、「ねえ、こんなところに竹林があったっけ?」と首を傾げた。

ウサギとカメは言葉少なくその竹林へと足を踏み入れた。木漏れ日が織りなす陰影の中を進むと、突然視界が開けた。そこには月明かりに照らされた着物姿の女性が、不思議な船の上に立っていた。彼女はどこか遠い世界の住人のように見えた。二人は目を見張った。「あれは、もしかして…かぐや姫?」

かぐや姫と名乗る女性は優しく微笑みながらウサギとカメに近づいてきた。「この竹林が見えるという事は、あなたたちには月の力があるのね。実は私、地球に長く居過ぎて月に帰る力を失ってしまったの。助けてほしいの」彼女の声には切なげな響きがあった。「もちろんよ。喜んで!」とウサギは一秒で快諾し、カメも静かに頷いた。

三人は不思議な船に乗り込み、手を取り合って目を閉じた。静かに集中する中、周りの空気が震えるような感覚に包まれ、それが星の波動に変わると、やがて船は光の渦を描きながら月へと昇っていった。

航行が安定してくると三人は円陣を解いた。「ありがとう。とても助かったわ。1000年待った甲斐があったというもの」とかぐや姫はウサギとカメに頭を下げた。その言葉に二人は思わず顔を見合わせた。

月が近づくにつれ、ウサギとカメは何か大きな存在の一部になっていくような感覚に包まれていた。そんな二人の様子を、かぐや姫は愛おしそうに見つめていた。

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