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バラ園の追いかけっこ

その日、ウサギとカメは生田緑地のバラ園にいた。まるで小さな天国に迷い込んだかのように、色とりどりのバラが太陽の光を浴びて煌めき、甘い香りが空気中に静かに溶け込んでいた。二人は言葉もなく、ただ立ち尽くし魅入っていた。

スペックス イエロー

カメはゆっくりと言葉を選びながら言った。「ここには800品種のバラが集められていて、その中には世界中から選ばれた『バラの殿堂』の品種も全部含まれているんだ」

バラの殿堂の品種  ボニカ82

ウサギは目を輝かせて言った。「こんなにもたくさん咲いているのに、一つ一つに個性があるのね。他の花たちのことなど気にせず、自分の美しさで咲き誇っているところが、とても愛おしいわ」

デンティベス

「殿堂入りのバラたちも素晴らしいけれど、この園のどのバラもまた、それぞれが美しさを放っているの。名前や肩書きなんて、ほんの一つの視点に過ぎないのよ」それぞれの花は、まるでウサギの言葉を確かめるかのように、一層色鮮やかに自らの色彩を輝かせた。

チェリー ボニカ

カメはふと呟いた。「ウサギさん、今日はいいことを言うね」それを聞いたウサギは小さく頬を膨らませた。「何よ、いつもは違うっていうの?」

「ウサギさんには、ピ、ピンクのバラの花言葉がよく似合うよ」とカメがゆっくりと後ずさりしながら言った。それを聞いたウサギは、少し笑みを浮かべながら近づいた。「美しい人、ですって? そんなのはもう知っているわ。そう簡単には騙されないわよ」

カメの逃げる背中を、ウサギが軽やかに追いかけた。二人が無心で走り回っているうちに、気づけばバラ園の奥深くに迷い込んでいた。ウサギがカメに追いついたその瞬間、「見て!」とウサギが息を呑むように言った。目の前には岡本太郎のオブジェがあった。

高さ30メートルの「母の塔」
岡本太郎美術館のシンボルタワー



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