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謎をよぶ デ・キリコ展

国際子ども図書館を過ぎたウサギとカメは、やがて東京都美術館に到着した。正面玄関のエスカレーターを降り、二人は「デ・キリコ展」の世界に身を委ねた。

ジョルジョ・デ・キリコ。その人物は謎に包まれている。時に画風を変え、さらには自らの作品を偽作だと訴え、裁判にまで発展させた画家だ。デ・キリコの作品は、まるで時空が歪んだかのような、不思議な雰囲気を纏っており、二人はその深遠なる謎に向かった。

バラ色の塔のあるイタリア広場  1934年ごろ

「デ・キリコの絵は、なんとも不思議な感じがするわ。普段なら人々で賑わう広場を描いているのに、誰もいなくて、ただ影だけが長く伸びているの。構図もどこか不自然な感じで、謎だらけだわ」ウサギは、目の前の絵をじっと見ながら呟いた。

ヘクトルとアンドロマケ  1970年

「顔のないマヌカンを描いている作品も独特だね。預言者とか考古学者を表しているけれど、無個性のマヌカンが何を伝えようとしているのか、謎だよね」とカメは囁いた。作品が通り過ぎる度に、二人は謎が深まるばかりだった。

イーゼルの上の太陽  1972年

カメは首を傾げながら、再び口を開いた。「デ・キリコは、哲学者ニーチェの『謎以外に何が愛せようか』という言葉をこよなく愛していた。彼自身も、『特に必要なのは、世界の全てを謎とみなす感受性だ』と言っている。だから彼の作品は、こんなにも謎に満ちているのだろうね」

「謎の多い人物が描いた、謎の多い作品たちなのね」と、ウサギはそっと頷いた。デ・キリコは、目に見えない「形而上学」を絵画に投影しようとした。その謎に満ちた世界は、いつまでも二人の心から離れなかった。

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