見出し画像

日本一の山への挑戦状

とある夏の日、ウサギとカメは遠くに富士山の頂上を見上げる登山マラソンのスタート地点に立っていた。ウサギは春の風のように軽やかに駆け出すと、あっという間に他のランナーを置き去りにしていった。アスファルトの路面の傾斜はまだ緩く、彼女の表情には、笑みさえ浮かべる余裕があった。彼女の心は勝利への期待で満たされていた。

しかし未舗装に変わった坂道が、さらに大きな石を含んだ岩場になるにつれ、彼女の足は重く、心は孤独に包まれ始めた。「こんなに頑張ってきたのに、もうダメかもしれないわ」と彼女は唇をかんだ。

一方、カメは確実に坂を上っていった。彼はウサギを心配しつつ、自分のペースで進んでいた。やがてウサギは疲れ果てて立ち止まり振り返ると、そこにはゆっくりと登ってくるカメの姿があった。

カメはウサギの横に静かに立ち止まると、「大丈夫だよ。一緒にゴールまで行こう」と彼女に手を差し伸べた。ウサギは少し戸惑いながらも、優しくその手を握り返した。二人はゆっくりと歩き始め、ウサギは彼の温もりを感じながら、少しずつ元気を取り戻していった。

手を引かれていたウサギは、「ありがとう。もう大丈夫だわ」と、再び走り始めた。ウサギは彼の存在がどれほど心強いかを、心に深く刻んでいた。コース上では二人の小さな足音が、穏やかな時間を刻んでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?