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【詩】 あたらしい夜


言葉に囲まれて生きている。
どこを切り取っても言葉が在る。
言葉はいつも、誰かに何かを伝えようとする。
できるだけいい言葉がよくて、焦りながら探している、ずっと。
本を読んでも写真を眺めても、音楽を聴いても自然を感じても、ありふれた言葉しか出せない。
捻り出すようにしてやっと書けている。

ときどき、宇宙の底に立っている気分になる。
人気のない路上で、ぜんぜん特別じゃない夜空を、ただ見上げているとき。
そうすることで、今ここにいると実感する。
見えないものは、馬鹿にされるか美化されやすいけれど、たぶん普通に在る。
街灯のない暗闇を、感覚だけを頼りに歩いて、見慣れた路地に出た、あのときは嬉しかったな。

「三日月と金星がそばにいるあの感じ、こどもの頃から好きなんだよね。恋人同士みたいじゃない?」
胸のなかの秘密を君に教えた夜。広過ぎる駐車場に観光バスが何台も停まっていた。
感覚はいつまでも残っている。残り続けるものは感情に変わっていく。
そうしてまた、言葉が生まれてくる。

誰かに言いたくなって、でも誰にも言わないで忘れていく言葉がたくさんある。
遠い星の光みたいに、いつか忘れてしまった言葉が、明日の自分に巡ってくることもあるだろうか。
できれば全部、覚えていたい。
だから君に話すよ。

忘れたくない瞬間にいるとき、人に焦点を当てていないことが多いよ。人よりも周りにある風景の、色、かたち、騒めき、静けさ、におい、そんないろいろを、見て、聞いて、吸い込んで、できる限りまるごと、記憶に残そうとする癖がついた。

人はいつも風景に溶け込んでしまうし、それを感じられる瞬間が好きだよ。
人も物も自然も、その瞬間のなかで同等の存在だと、人間も風景の一部であると、意識してみれば、目のまえの君の愛しさに気がつく。
そんなことに泣けたりする。

365日とか366日とか繰り返す日常のなかの1日が、私にとっての特別だったりするよ。

「おめでとう」
「ありがとう」




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