見出し画像

忘れたって、残るよ


「又吉直樹みたいになれるよ」は最大級の褒め言葉のつもりだったけれど、又吉直樹のファンでもなく、小説を書いているわけでもなく、性別だって異なる君には全く沁みなかったみたいで、「なれんよ。けどありがとう」と笑っていた。

人に期待しないことも、自分に期待しないことも、できる人には簡単だろうし、できない人には難しいだろう。人に期待する人は傷つくし、自分に期待する人は落ち込む。
又吉直樹は自分に期待しないらしかった。何かにそう書いてあったか、何かでそう話していた。
私はうっかり自分に期待してしまって落ち込むから、又吉直樹とは似ていない。
君はどう?
いつかの君は、自分に期待しているように見えた。

君に「がんばれ」って言った日、言葉自体に自信がなかった。
無責任とかデリケートとか、重圧ともいえるイメージを背負った『がんばれ』という言葉を、世間に倣って使わなくなっていた頃。
でも、君には『がんばれ』と思った。
何がうまくいかなくても、何がなくなっても、全部をなくしたりはしないよ。
出会ったことも、消えないし忘れないよ。
だから、自分に期待してみてよ。
そんな気持ちで「がんばれ」を口に出した。
間があって、やっぱり言葉に自信が持てなくなって「『がんばれ』って言葉、嫌いだった?」って聞いてみたら、「嫌いじゃないよ。『がんばれ』は世間に殺された言葉の中でいちばんあたたかいよね」って、君はやや過激な、でも私にとって優しい発言をした。

心の奥底に残し続けてきた気持ちが、私たちは似ていると感じていた。何かを分け合っているみたいな時間じゃなかった?

ずっとずっとまえに教えてくれた漫画のあの場面の、続きはどうなったんだろう。
道に迷って、暗闇と、光の方から、お互いを探し合う漫画。
ふたりは再会できた?
教えてもらえばよかったな。
「百ちゃん、こんな小説かいてよ」って、あのとき言ってもらった。リクエストって初めてされた。いつか描いてみたいと思い続けているから、待ってみてくれないかな。
いつになるか、未定だけれど。

私がもっと、素直な人間になれたら。
たぶん、又吉直樹よりも好きになる君へ。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?