にじむラ

毎日必ず1000文字くらいの短編作品を書く男。 扉絵はAIが担当。ときどき自分で撮った…

にじむラ

毎日必ず1000文字くらいの短編作品を書く男。 扉絵はAIが担当。ときどき自分で撮ったやつ。 金周りの悪さにPV屋から遠ざかり、最果タヒで詩を諦めた元詩人。

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  • 波打ち際ブンガク

    波打ち際ブンガク1年目が500円で読み放題! 360本くらいのオリジナル短編小説(1000字前後)がいっぱい。しかも読みきりばかり。 扉絵はAI出力!これはお得だ!

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【小説】さよなら、チャタロウ

 ブゥゥーーン、と鈍く低い音が鳴って、チャタロウは目を覚ました。  血の匂いとその温度がチャタロウの中で広がっていく。  その中でチャタロウは思い出していた。  チャタロウは世界の形を知らない。だからキリコの輪郭も曖昧なままだ。  チャタロウがキリコの為にできるのはキリコが飽きるまで一緒に生きる事とか、もしくは今すぐにキリコと別れて死ぬことくらいだ。……または殺すとか。その他の全てがエゴでしかない。全てがチャタロウの個人的なエゴだ。  チャタロウは笑った。  チャタロウは思

    • Re: 【短編小説】WINS渋谷ルーザー拳

       絶叫し続けて喉から血が出るかと思った。 「差せ!差せよ!」  おれの隣ではそのままだと叫ぶクソがいる。気狂いか?そんな逃げ馬ある訳がねぇだろ。夢見てんじゃねぇよ。  おれが買った5番は華麗に差し切った。  大きなため息ひとつ、興奮のあまり握りしめて皺くちゃになったカードを黄色い自販機に入れる。  不揃いな茶色い札をポケットに捻じ込み、返却された不要な投票券をゴミ箱に捨てた。  すでに馬の名前なんざ忘れちまった。  忙しなく吸った煙草は殆ど味を覚えていないのに似ている。  

      • Re: 【短編小説】バイクNO移植ガール電車亡き女想

        「海を見たことがないの」  彼女は死にかけている。一度も海を見る事が無いまま。  その海が何を意味するかは知らない。  たぶん東京湾じゃないだろう。  それならおれも海を見たことが無いことになる。だからおれは考えるのをやめた。  考えるのをやめた時に何をするかと言えば、セックスか寝るかバイクに乗ることくらいだし、いまのおれにできるのはバイクにのる事だけだ。  その2ストロークのバイクはもうすでに40歳近く、酷く揺れる車体は冷却液のバルブを緩めている。  オーバーヒートを起こし

        • Re: 【短編小説】斜陽アンダーPAR

          「見ろよ、鬱くしい人々だ」  サルトヴィコが指し示す方角には、スーパーに陳列されたオレンジみたいにわざとらしい色をして夕陽が校舎を斜めに照らし出し、その校舎から黒い生徒たちの影が排出されてくるのが見えた。 「セックスの足りない奴から死んでいく」  または狂っていく、そこにたいした違いはないけれどな。  でもサルトヴィコにはどうする事もできなかった。  何故なら学校は時限式の檻だからだ。  あそこは狭い箱庭で、託児所の延長にある養成機関で、訓練所だった。  学校を卒業したサルト

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        【小説】さよなら、チャタロウ

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        • 波打ち際ブンガク
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          Re: 【短編小説】精神メタボリズム失敗シンドローム

          「また終わったあとにすぐ煙草を吸う」  女が拗ねた声で言う。  おれはリット色のブランケットを女の顔まで被せてから、ぽんぽんと頭を撫でてベッドを降りた。  足元に寄ったメェールテが抗議の声をあげる。 「あぁ、ペドロナスがまだだったかな」  骨壷から小さなものを選んでつまみ、メェールテに与えるとカリカリと齧って、一度おれを見てすぐに眠ってしまった。  火のついた煙草を咥えたままバルコニーに出ると新陳代謝する街が一望できた。  古い建物はゆっくりと沈むように崩れていく。カプセル

          Re: 【短編小説】精神メタボリズム失敗シンドローム

          Re: 【短編小説】屋上パンダ

           誰もいない薄暗い廊下を一番奥まで進んで階段をぜんぶ上がったところに保健室がある。  幾度か深呼吸をしてからもう一度保健室と書かれた札を見上げて確認した。  ここで間違いない。  ……と思う。  いつだって不安だ。絶対なんて存在しない。もしかしたらこの白い鉄扉の向こうにはスマホカメラを構えた同級生たちがいて、笑いものにしようと待ち構えているかも知れない。  または何も無い部屋が広がっていて、あたかも部屋を間違えたみたいに黙って帰る。  そうだ、帰りにはラーメンでも食べて帰ろう

          Re: 【短編小説】屋上パンダ

          Re: 【短編小説】飲酒スペースあります

           『飲酒できます』  通りを歩いていると、珍しくそんな立て看板を出している飲食店があった。  条例を知らない新参者か、または条例が変わった事を俺が知らないのか。  とにかく近寄って見ると、そこには「飲酒スペースあります」と書いてあった。  店の看板は知らない屋号だったので、やはり新しくできた店なのだろう。  中を覗いてみると混み始めている様だった。  三角巾と前掛けをした店員と思しき男女が忙しそうに動き回っているのが見える。  たまには外食も良いかと思いドアを押すと鈴が鳴り

          Re: 【短編小説】飲酒スペースあります

          Re: 【短編小説】浅漬けサイコガン

          「それだけは勘弁して」  そう懇願する女を蹴り飛ばした。派手に転げ回る女を尻目に椅子に腰掛ける。 「おい、いつまで痛いフリをしてるんだ」  女はゆっくりと起き上がり、泣きながら袖を捲った。 「そうだよ、それでいい」  俺は笑いながら煙草に火をつけた。紫白い煙が揺れる。煙が喉にささって咳き込んだ。  女はまだ諦めきれずに首を振る。 「いいからやれよ」  俺は足先で蹴り飛ばす。  女は涙を流した。  だがそこで諦めもついたのか、巨大なフタを開けると一畳ほどもある広大か糠床を掻き混

          Re: 【短編小説】浅漬けサイコガン

          Re: 【短編小説】蕎麦屋

           真っ黒いつゆに沈んだ蕎麦を箸で引き上げると、湯気が立ち上り視界が白く濁った。  蕎麦を葱といっしょに手繰る。  鼻に七味唐辛子の香りが突き抜けた。  油を吸って臭みが出はじめている竹輪天の中には紅生姜が詰まっており、噛むとその油臭さを程よく緩和してくれる。  七味の効いたそれらを一気に口の中へ放り込み、続けてどんぶりを持ち上げて黒いつゆを飲み干した。  喉を流れ落ちて腑に落ちた蕎麦を感じながら一息いれる。 「うむ」  駅前の鄙びた蕎麦屋に求めている全てがそこにあった。  が

          Re: 【短編小説】蕎麦屋

          Re: 【超短編小説】QuitQuittng

           仕事を終えて帰宅するとベッドの上に札束が置いてあった。  無造作に積まれた大量の札束。  これがいくら分なのかはわからない。  見た事も無い額なのは確かだし、俺のものじゃないのも確かだ。  そしてそれは増え続けているようにも見える。  金は欲しい。  いや、欲しいと思っていた。  だがこれはおれが望んでいたものとは違う。  きっかけは、お稲荷様にした頼みごとだ。  煙草をやめるから、拳闘の試合で勝たせてくれと。そうしたら本当に勝てた。  それで次は酒をやめるから、何か良

          Re: 【超短編小説】QuitQuittng

          Re: 【短編小説】GrandMotherAuto

          「これはどこに向かっているんだい」  おばあちゃんが不安そうな声で尋ねたが、俺は答えずにいた。  フロントガラスを雨粒が叩く。  ウインカーの硬い音が聞こえる。  横目で盗み見たおばあちゃん。うっすらと伸びたヒゲが腹立たしい。 「いつもの買い物に行く道と違うんじゃないかい」 「買い物になんて行かないだろ」  思わず答えてしまったが後の祭りだった。 「よかった、聞こえていたんだね」 「……あぁ、聞こえてはいるよ」  仕方ない。  俺はイヤイヤ答える素振りを隠そうともしなかった

          Re: 【短編小説】GrandMotherAuto

          クロスカブのマフラーをヨシムラ(機械曲マグナム云々)からモリワキのメガホンに替えた。ステップを外さないでやると知恵の輪みたいになるしマフラーに擦り傷つくるので、そういうの気になる人は外してね。

          クロスカブのマフラーをヨシムラ(機械曲マグナム云々)からモリワキのメガホンに替えた。ステップを外さないでやると知恵の輪みたいになるしマフラーに擦り傷つくるので、そういうの気になる人は外してね。

          Re: 【小説】ババアthe読経(no脳know)

          「こちらになります」  スーツの男はおれを振り向きもせずに、ガスメーターに引っ掛けてあるキーボックスの中からディンプル式の鍵を取り出すとドアを開けた。  狭い玄関の右手にシューズラック、左手には洗濯物置き場がある。  短い廊下にはユニットバスとキッチンがあり、その奥には8畳ほどの部屋があった。  東に向いた窓には残置のカーテンが下がっている。  一人暮らしをするには十分な部屋だろう。  駅から徒歩15分、近くにコンビニやスーパーは無し。  住宅街のど真ん中。  極端に日当た

          Re: 【小説】ババアthe読経(no脳know)

          Re:【短編小説】メーター

           旧型のバイクに乗っていくつかのメーターを横目に走る。  どいつもこいつも調子が悪そうだ。  かく言うおれの旧型バイクもスピードメーターの中にあるオイルランプが点灯している。  今日はさっさと帰って寝たかったが仕方ない。そのまま近くのバイクショップに寄ってエンジンオイルを足してもらうことにした。  修理工事は連休前の整備待ちバイクがずらりと並んでいる。 「いらっしゃいませ」  様々な油で汚れたツナギを着た従業員は愛想よく頭を下げた。  ワタシはよろしくと言って煙草に火を点け

          Re:【短編小説】メーター

          Re: 【短編小説】ピジョン老人ピース

           スマートフォンのアラームが鳴る数秒前に 目を覚ました。 「少しは眠れたか?」  不機嫌そうな猫が訊く。 「緊張。よく眠れない」  おれは働かない頭で返す。  事務所のソファは柔らかいが、革の所為で妙な汗をかいている。  伸びをして足元の観葉植物を蹴り倒しそうになった。掛布団かわりにしていた寝袋をどけてコップ一杯だけ水を飲み、大きなため息をつく。 「おれの朝メシは?」  猫が鼻を鳴らす。  おまえはいつから喋れたんだ?皿に温めたミルクを出してやるが、当たり前のように振る舞う

          Re: 【短編小説】ピジョン老人ピース

          Re: 【短編小説】弱塩基遊離

           雨の匂いがした。  そう思ってテレビゲームが映っている画面から目を離すと、リビングのドアが開いて疲れた顔の母が帰宅した。 「何かあったの」  立ち上がって手伝うか迷っているうちに、母は食卓の椅子を引いて腰かけると、大きなため息を吐いた。 「イオンがね、隣町にとられちゃったんだってさ」  やれやれ、だよ。  そう言って母は腰をさすった。  机の上には様々なビニール袋が並んでいる。 「え?じゃあそれって全部ちがうお店で買ったってこと?」  隣町にイオンを奪われたと言う事はこの街

          Re: 【短編小説】弱塩基遊離