Over the dream 糸
中将姫のことをいつ知ったのか定かではない。
当麻寺を初めて訪れたのは、20代半ばだった。
その頃は何も知らなかった。
仏教のことも、文学のことも、歴史のことも。
大学で歴史を学びながらもそうであった。
そしてそれはそれで、特に問題ではなかったのだろう。
初めて訪れた日のことをよく覚えている。
夕方近く、陽が傾きかけていた。
境内の片隅に座り込んだ。
本当の静寂を知った。
その感覚が知らず自身に染み込んだものだろう。
私はその後も何度かひとり訪れ時を過ごし、友人が訪ねてくれば