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月めくり8【836文字】 #月めくり #シロクマ文芸部 

月めくりを続けて約10年。
色々な街へ訪れた。

楽しい事も悲しい事もあった。
でも、どの街でも素敵な出会いがあった。

引っ越しの度に増える思い出。
瓶の数と中の花びらの数も増えていった。

各地で集めた花びらの瓶を
ダンボールへと詰めていく。

薄ピンクの花びらは
大小様々な形をしている。

最初に集めた花びらは、
特別な小瓶に入っている。

小瓶には、彼女との思い出が詰まっている。

大好きな彼女と僕の間で咲いた桜は
スグに冷たい風が
通り抜けるようになってしまった。

彼女は、あの日僕の元から去ってしまった。
僕が彼女を束縛してしまった結果。

僕の目の前で彼女は校舎から
身を乗り出した。

僕が見た彼女は桜の
花びらと共に散っていた。

彼女との思い出の小瓶を
握り締めて僕は生きてきた。

でも、もう駄目だ。
もう限界だった。

彼女以上の人とは出会えなかった。
こんな事を繰り返しても意味がない。
彼女に会いに行こう。

月めくりで出会う
彼女に似た女の子達の花びらは
どれも彼女を超える事ができなかった。

春になると、月めくりを始める。
彼女に似た女の子に恋をする。
その度、僕の束縛力が強くなり
彼女達の三日月をめくってしまう。

逃げ出す彼女達。
僕の物にならないモノはいらない。

ただ思い出は残しておきたかった。
集めた彼女達の花びら。

アートされたのもより、
ナチュラルな色が好きだ。

めくった花びらについた余計な
アートは、リムーバーを使って
丁寧に生まれたままの色に戻す。

彼女達が詰まった瓶を
カチャカチャと音をたて仕舞っていく。

今夜、僕は彼女が散った
あの校舎から同じ様に散る為に
自分の三日月をめくり始めた。


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月めくり8
#月めくり
#シロクマ文芸部

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