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「お前が男だったら」は紫式部の勝利宣言

今年の大河ドラマは、紫式部が主人公の『光る君へ』です。

大石静の上手い脚本と、吉高由里子と柄本佑の関係が気になりすぎて、毎週楽しみに見ています。

この3人が組んだドラマ『知らなくていいコト』も見て、感涙にむせんでおりました。
重岡大毅さん最高ですね。

さて子供の頃、親戚から紫式部の伝記をいただいたことがありました。読書好きの私へのプレゼントだったのですが、その中に「お前が男でないとは俺もツイてない」と紫式部の父親が嘆いた有名な話が出てきます。

勉強のできる長女。対照的に弟はあまり勉強が好きではない。「お前が男だったら」と嘆く父。母は病気で亡くなっている。

その環境は驚くほど当時の私にそっくりで、親戚が何を思って、私に紫式部の伝記をプレゼントしたか透けて見えるようでもあります。

さて、時は流れて。

大人になって、紫式部日記にある、あの有名な一節を振り返ると、また違う見方をすることができます。

お前が男だったらと嘆いた父は、学問の才はあれど官職に就けず、不遇の時期が長く、政治的才能があったとは言いがたい。
言い換えれば、学問だけできたところで出世はできない、頭の良さが身の処し方に繋がってこそ、地位を得ることができると言えます。

とすると、日記に「昔、父がこんなことを言ってたのよ」と書いた紫式部は、学問好きで不器用な父とも、学問嫌いでパッとしない弟とも異なり、今をときめく帝の中宮に女房仕えをしながら、『源氏物語』の作者として一目置かれる自分を誇りに思っていたはずです。

そう考えると、紫式部日記の有名な「お前が男だったら」の下りは、また別の見方をすることができます。
お父さまはああ言ったけど、男でなくて良かったわ、女だからこそ今の地位があるんですもの、と紫式部が勝ち誇っているのが目に見えるようです。

全体的に紫式部日記は彼女の勝利宣言に満ち満ちていて、その謙遜を装った自慢が若干イヤミたらしくもあります(笑)

お前が男だったら、というあのエピソードは、でも女だからこそ、独自の地位を築けたのよ、という紫式部の勝利宣言ではないかと、今の私は思うのでした。

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