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キラキラした砂糖菓子のような佳品『おとななじみ』

映画『おとななじみ』の舞台挨拶ライブビューイングに行ってきた。

雑誌Cocohanaに連載された漫画が原作の「超残念男子とオカン系女子の両片想いムズキュン・ラブコメディ」だ。

Cocohana、懐かしい。
コーラスとヤングユーを受け継いだ少女漫画誌で、水城せとなの『脳内ポイズンベリー』や萩尾望都の『王妃マルゴ』、芦原妃名子の『Bread & Butter』など結構単行本で買っている作品が連載されていた。

それにしても『おとななじみ』は、こういうキャッチコピーを付けるしかなかったのかとも思うし、映画館で予告編を何度か観た時も、ドタバタラブコメディであることが強調されていた。

ティーン向けのお手軽で甘々の恋愛映画。
私もそう思っていたし、この宣伝ではそう思わざるを得ないだろう。

結論から言うと、メチャクチャもったいない。
ウェルメイドで心が温かくなる素敵な小品だったよ!
キラキラと丁寧に作られた繊細な砂糖菓子のような作品。

仕事で嫌なことがあって、誰にも愚痴ることができずマジ泣きたいわーって時や、生きていくのが嫌になった時にぜひ観てほしい。
確実に元気になるし、生きていてよかったと思える映画です。

特にエンディングのKis-My-Ftの主題歌が素晴らしくハマっていて、ああこの映画を観てよかったな、生きていてよかったなと思えます。騙されたと思って観てほしい。

以上。
ここから感想。

今日の舞台挨拶では監督も登壇されていたが、監督も含めてチームの「映画に対する愛」がひしひしと伝わってくる作品だった。

冒頭、ヒロインの楓(久間田琳加)が隣の部屋に住む幼馴染みのハル(井上瑞稀)を起こしにくるファーストシーンから2人のこれまでを、カメラワークと短いエピソードの連続で絶妙に繋いでいく。

映画館の座席に座っているこちらは、テンポのいいドタバタコメディとして何気なく観ているが、脚本や絵コンテの段階から練りに練られ、なおかつ現場でも丁寧にテイクを重ねて、最後の編集でさらに枝葉の部分を刈り込んで、これ以上できないギリギリまで突き詰めた演出であることが伝わってくる。

わかりやすく、でも凡庸に流れることなく。
その匙加減がいちいち絶妙だった。

例えば、ヒロインの楓が仕事先のエリアマネージャーから「明後日までに」過去の売り上げをまとめて課題を洗い出してくるよう命じられるシーン。
「超完璧クール男子」であるエリートサラリーマンの伊織(萩原利久)が手伝ってくれてレポートは完成するが、褒められた楓はマネージャーに「友人に手伝ってもらった」と自分からバラしてしまう。

その時、楓は「店舗の売り上げとかを社外の人に見せたのはまずかったですよね。スミマセン!」と謝るのだ。

人物設定もエピソードも、恋愛映画のための狂言回しとしてご都合主義かと思いきや、ちょっとしたところにリアリティを挟んでくる。

それだけで、これは単なる「子供騙し」の映画ではなく、大人が創った「夢の世界」であることがわかる。

結末は見えていると言えば見えているのだが、そこに至るまでの展開が優しくて、主要人物から通行人まで誰も悪い人が出てこない。
飛行機内でのシーンなど、後ろで本を読みながらチラチラと主人公カップルをうかがっている会社員らしき男性がとてもいい味を出している。

大の大人が観客に夢を見てもらうために全精力を注ぎ込んだ佳品。

Kis-My-Ftの主題歌が流れるエンディングを幸せな気持ちで見ながら、食わず嫌いはするもんじゃないなと思った。

萩原利久が目当てで行ったのだが、もちろんそういう意味でも大満足だったが、思いがけず素敵な作品に出会えてラッキーだった。

監督の高橋洋人さんを調べたら、堤幸彦に師事した方で『胸が鳴るのは君のせい』『春待つ僕ら』など、漫画原作の映画を手がけている。
スクリーンからは映画というか、映像作品に対する愛がものすごく伝わってきたので、これからどんな作品を撮りたいと思っているのか、どんな作品を手がける予定なのか、個人的に聞いてみたい。

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