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いつまでも届かぬ私の恋人

この年末に図書館から貸出を頂いたのは
「街とその不確かな壁」(村上春樹)と
「最愛の」(上田岳弘)。
他にも借りた本はありますが…

先に「街」を読んで、年明けに「最愛」という順番で読みましたが、この2冊かなり重なります。失礼ながら「最愛」は「街」のサブテキストにも感じました。

やはり重なるのが一番際立つのは、それぞれの主人公が青年期に愛し、不本意ながら離れた彼女との関係が、主人公のその後に大きく影響していること。

タイトルは「最愛」に出てくる言葉「いつまでも届かぬ私の恋人」ですが、これも「街」の2人の関係に同じ。
その思いに主人公は囚われていると言って良いかもしれません。「最愛」に至っては塔の囚われ人ラプンツェルが登場するくらいですから。

またかつての彼女との間の手元に残る確かなものが互いの「手紙」というのも共通点です。両作とも今と手紙が書かれた過去が繰り返し登場し、その長い年月の流れにも関わらず思いが薄くなるどころか深く深化していきます。

それと両作には海外作家の作品が引用されています。「街」はガルシア・マルケスの「コレラの日々」、最愛」はエドガー・アラン・ポーの「大鴉」。

コレラはこの箇所

「フェルミーナ・ダーサとフロレンティーノ・アリーサは昼食の時間までブリッジにいた。昼食になる少し前にカラマールの集落を通過した。ほんの数年前まで毎日のようにお祭り騒ぎをしていたあの港も今では通りに人影がなく、すっかりさびれていた。白い服を着た女が一人、ハンカチを振って合図をしているのが見えた。フェルミーナ・ダーサは、あんなに悲しそうな顔をしているのに、どうして乗せてやらないのか不思議に思っていると、船長が、あれは溺死した女の亡霊で、通りかかった船を向こう岸の危険な渦のところに誘い込もうとしているのだと説明した。船が女のすぐ近くを通ったので、フェルミーナ・ダーサは陽射しを浴びているその女の姿を細部にいたるまではっきり見ることができた。この世のものでないことは疑いようがなく、その顔には見覚えがあるような気がした。」

ポーは

「ネバーモア、二度とない、またとない。」

「最愛」には両作に共通するような言葉も

「人は、自分以外の存在を真に愛することができるのか?
人は、自分の排除された世界を真の意味で認めることができるのか?
他者への愛情は、すべて自己愛の拡張に過ぎないのではないか?」

読後感は省略しますが、いずれの作品も年末年始に長い時間読むに最適の2冊でした。

そういえば両方とも図書館で借りたもの(ちなみに両作とも図書館の場面があるのも共通点)ですが、「最愛」の方にはコンビニのレシートが挟まっていました(タイトル写真)。

見てみると「ファミマ 広島土橋店」とあります。あれっ、ここは私の勤務先の至近のコンビニ、もちろん私も使う店ではないですか。

あゝ「最愛」を私の前に読んだ人はもしかしたらこのコンビニですれ違った人かもしれないなぁ。
また買ったものが「焼しゃけ」と「小海老天ぷらそば」というのも私の選択肢に重なります。
この方の「最愛」の読後感は私同様に満足されたと思います。その方には「街」もお勧めします。

「いつまでも届かぬ私の恋人へ」ならぬ「いつまでも会わぬ私のご近所さんへ」ですわ。今年も良い作品に出会えますように。

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