2015村山でわかおり1

そば粉の品質について①

今回から2回に分けてそば粉の「品質」について深掘りしていきます。

そば粉の品質は、定義が曖昧で議論が噛み合わないという問題があるので、
我々は次の2つの切り口で定義しています。

「おいしさ」 
「扱いやすさ」

ちなみに、そば粉屋をやっていて、お客さまからいただくクレームで多いのは、次の3つです。
「おいしくないぞ!」・・・食味の問題
「麺にしたら切れる!」・・・製麺性、保存性の問題
「黒くなった(白くなった)!」・・・見た目の色の問題
HACCPなどで対象になっている異物混入などのクレームはほぼありません。
また白色度計等を導入した現在では、色の問題はあまりなくなりました。
なので、「おいしさ」「扱いやすさ」が大きなポイントだと考えています。

ちなみに、原材料の農産物検査で、1等、2等、規格外という格付けが行われます。これは必ずしも品質のランクとは言えません。私は農産物検査員でもあるので、これについては、また後日お話しします。

「おいしさ」について


「おいしさ」については、多くの研究が進んでいて、いろいろな分類がされています。どれも興味深いのですが、ここでは私が一番わかりやすいと思えた分類方法をさらにアレンジしてみました。
まず3つに分類します。
① 五感で感じるもの
② 生理的なもの
③ 心理的なもの(付加的情報からくるもの・バイアス)

そば粉を麺にして食べた時の具体的な例を挙げて説明します。

① 五感で感じるもの

五感とは「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」
蕎麦の場合、「聴覚」はあまり関係しないと思われるので“四感”ですね。
この中で「視覚」情報はかなり大きいと言われていて、見た目8割という研究者もいるほどです。例えば蕎麦の場合、緑みが強いものは満足度が高い傾向があります。
反対に、「嗅覚」「味覚」はかなり微妙です。しかも香りと味は混同します。「風味」という言葉は、嗅覚と味覚が区別できないので生まれた言葉ではないでしょうか。
かき氷のシロップは香りと色は異なりますが、「味」が違うと錯覚してしまうのが人間です。この「クロスモーダル」は「視覚(色)」と「味覚」でもよく起こります。

「触覚」は蕎麦の場合、歯で噛んだときの食感を指しますが「粘弾性」で評価することも多いです。また噛まないで飲み込む人も多く、その場合は「のど越し」になります。
茹でた後の時間経過で食感が変化するので、デンプンの老化耐性を評価することもあります。

② 生理的なもの

例えば、お腹がすいているとおいしく感じます。体調が悪い時はおいしく感じません。
食べる側の生理的要因は、とても大きなファクターです。

③ 心理的なもの(付加的情報からくるもの・バイアス)

人間にはいろいろなバイアスがかかっています。蕎麦というそれほど味の濃くない食べ物では、この心理的なバイアスはおいしさに大きく影響します。
具体的には、産地、品種、ブランド、無農薬、価格、盛り付け、器、食べる環境、誰と食べる、自分の好みの決めつけ、思い込み…
よく、物語性があると美味しく感じる・・・なんて事いいますよね。

総合するとそばの場合は、「緑色」があって、「食感」が良くて、何か「物語」があれば、かなり高評価なものになります。

でも、そんなに単純ではないんです。

みなさんはどんなそばはおいしいと感じますか?

2年ほど前に福井で行われた蕎麦のシンポジウムの時の話です。司会の方が最後に「そばのおいしさは何で決まると思いますか?」という質問をされました。登壇されていたその道のプロの方々の回答を聞いていて思ったのですが、全員答えが違ったのです。

つまり・・・答えがない・・・のです。

先ほど、緑色で食感があって物語があれば・・・と書きましたが、これは一般論です。私が個人的に重視しているのは、次の2つです。

・最初に口に入れたときの鼻に抜ける香り

・噛んだ時のほどよい弾性と潔い崩壊感(歯切れ感)とのバランス

ここを数値化(できなければ言語化)したいと思っています。この辺りは別の機会に深掘りしたいと思います。

食味試験(官能評価)の注意点
品種、産地、挽き方違い等の食味試験を行う場合は、素材そのものを評価する目的なので、②③を完全にキャンセルできる”目隠し”試験をしなければなりません。蕎麦の場合、統計処理した「有意差判定」まできっちりとした官能評価ができているケースは少ないと感じます。
これらを考慮し、弊社の加入している「全国蕎麦製粉協同組合」では、かなり細かく評価方法や項目を決めて食味試験を行っています。

次回は「品質」のもう一つの要素の「扱いやすさ」についてお話します。

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