北海道_和寒収穫-1_

そば粉の品質について②

今回は、前回の「おいしさ」に引き続きそば粉の品質のもう一つの切り口「扱いやすさ」についてお話します。


「おいしさ」の指標は、そば粉屋のビジネスモデルとしてはB2CまたはB2B2C的な捉え方ですが、「扱いやすさ」はB2B(またはD2C)的な捉え方です。いずれにしても、そばは麺にして食べるのがほとんどなので、「扱いやすさ」の指標は大切だと考えます。

扱いやすさについて

農産物の「原料としてのそば」の場合、扱いやすさの指標には、「製粉しやすさ」や「保管しやすさ」という項目も挙げられますが、今回は「そば粉の品質」なので、「そば粉としての扱いやすさ」として、次の2つを考えます。

・つながりやすさ(打ちやすさ)

・切れにくさ(麺の保存)   

ところで・・・なぜそばはつながるの?

そもそも、なぜそばは水でつながるのか考えてみます。
ここでは、小麦粉等のつなぎの力、添加物の力、湯ごね等のデンプンのα化(糊化)による力は考えないで、純粋に常温の水とそば粉のみの製麺(生粉打ち)で考える事にします。

一般的には、次の3つの力でつながっていると言われます
①タンパク質の粘性
②多糖の粘性
③水による結着力

それぞれを、ごくごく簡単に説明します。
① タンパク質の粘性
これが一番大きな要因だと考えられます。具体的には水溶性タンパクのアルブミン等の粘性を指します。タンパク質成分の多い甘皮部分まできっちり製粉すると、製麺性が大きく向上することは、蕎麦関係者は経験から知っています。
② 多糖の粘性
でんぷん以外の水溶性多糖類であるペントサンは吸水性と粘性を上げることが報告されています。ただし、人為的にコントロールしにくいので、さらなる研究結果が待たれます。個人的には単糖類、二糖類まで分解されていない複雑な形を持った多糖類が大きく影響していると推測しています。
③ 水による結着力
水でひっつける・・・という感覚です。適正水分に調整された原料を、石臼等で細かく製粉したそば粉は保水力が高く、つながりやすくなります。(石臼製粉のしっとり感については、機会があったらまとめたいと思います。)水温が低いと水の粘性が高くなり、つながりやすいという報告もあります。
もっと細かく言うと、イオン結合、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、疎水結合・・・学術的に調べるにはこの辺りまで深掘りする必要がありますが、一般的にはあまり意識しなくてもいい部分かと思います。

「つながりやすさ」の切り口で考えれば、これらの3つの要素を満足するそば粉は「いい品質」ということになります。


「切れにくさ」とは何?

製麺はできるけど、置いておくと切れてしまう麺は商売に不向きです。なので、ここを掘り下げていきます。

「切れる」には2つのフェーズがあります。
・「製麺後から茹でる迄」に切れる
・「茹でてから」切れる

まず「製麺後から茹でる迄」のフェーズを考えます。「そばの三たて」の一つ「打ちたて」の視点で考えると、そもそも製麺後時間をおくことは望ましくないのですが、商売の場合はどうしても時間を置くことがあります。そしてこの間にボソボソになって麺が切れることがあります。気密性の高い容器に入れて低温で保存するとかなり保存が容易になりますが、結局は上記①~③を満たすそば粉が「いい品質」となります。私的推測としては、②の構造上複雑で分岐の多い多糖が多いと、粘性も保水性も高くなるように感じています。


次に「茹でてから」のフェーズでは、少しファクターが異なります。通常は茹でることによってデンプンがα化して強固にくっつきます。しかしながら、デンプンが穂発芽等の何らかの理由で被害を受けていると、茹でている最中に切れてしまいます。いわゆる「釜切れ」「茹で切れ」の状態になってしまいます。ここでは、デンプンが穂発芽等で被害を受けていないことが「いい品質」の条件になります。


ちなみに、小麦粉系の麺でも、麺の保持力の主役は茹でる前はグルテン(タンパク質)ですが、茹でてからはα化デンプンに主役が交代します。

原材料の穂発芽について

「釜切れ」「茹で切れ」等が起こって品質の悪い状態の代表的な原因が、原材料の穂発芽です。農産物のそばが、収穫前の畑の場面で、高温や降雨等の原因で発芽(幼根)が始まってしまう状態です。

穂発芽等の被害にあった原料では、αアミラーゼ等の酵素によってデンプンが分解され糖に変化しています。糖の関係で、穂発芽系原料のそば粉では粘性が出る事もありますが、その後すぐ麺切れしてしまいます。おそらくタンパク質も分解酵素で切れている関係だと思われます。(この部分は今年検証実験を行います。)
また、麺としてつながっていたとしても、デンプンが分解されているので、茹でたときに麺切れしてしまいます。
この辺りのメカニズムは、実験で興味深い結果が出れば報告させていただきます。
いずれにしても、穂発芽した原料は著しく品質が劣化します。「発芽そば」のような使い方をする場合を除いて要注意です。

今日は「そば粉の品質」の「扱いやすさ」について書いてみました。

我々が注意できる部分としては、原料としては穂発芽していない事水分が適正である事製粉できちんと挽けている事を確認することになります。

「おいしさ」同様未知の部分が多く、水溶性タンパクや多糖がどういう原料(品種や栽培方法)で多くなるのか報告したレポートを見たことがありません。これからの研究課題として解明していきたいと思います。


追記(2020年6月7日)
その後の研究で、切れやすさには「多糖」の影響が大きいという結果になりました。そばの実の穂発芽や経年変化によりデンプンが単糖または二糖レベルまで分解されると、多糖は少なくっていると考えます。分子構造上複雑ではなくなるので保水力が弱くなるのかもしれません。
これについては、2020年度以降に複数の研究機関と共同研究する予定です。



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