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米国は対中国関税政策強化へ

バイデン政権が中国製EVを始めとする中国製品に対して関税強化を打ち出しています。
関税強化は保護主義の典型ですが、多くの場合に保護対象産業に悪影響を及ぼすことが多く、長期的には競争力低下を招くとされます。
経済学的にはインセンティブの方が効果高く、これまでバイデン政権が取ってきたIRAを主とする施策は理にかなっていましたが、今回の関税で従来の政策の効果がどう触れるかは注視が必要です。
今回の対象が広範になったことで米国製のEVにも価格面で影響が出ることは必須で、EV普及にも歯止めがかかり、現在進むHV回帰が加速する可能性すらあります。
一方で関税強化は民衆受けが良く、選挙を見据えた動きの一環ともみることができます。

1;中国製EVへの関税強化

 5/14の発表でバイデン政権は中国製EVを筆頭に、他部材に関しても関税率の強化を発表。太陽光パネル/電池/医療品などの複数のカテゴリが対象で、特に中国製EVに対する関税を現行;25%(実質27.5%)から100%に引き上げ
 現在、中国製の全自動車には[25%の関税+2.5%の全外国製品向け関税]の27.5%がかかっている。現状の中国EVの低価格を勘案すると現行関税でも価格競争力を維持…

 今回の動きに対して国内製造業/労働組合は肯定的だが、経済学者/消費者擁護団体/多国の製造業者からは否定的な反応。
 中国政府は当然にすぐ反対反応を示し、中国商務省は[自国権利と利益を守るために断固たる措置を講じる]とのことで、報復措置としてはWTO提訴や報復関税が含まれる可能性が高い

2;通商法301条の発動と対象

 不公正な貿易政策をとる相手国への制裁を認めた米通商法301条に基づく措置で、今回の関税は一部を除き24年中に実施。各カテゴリの詳細は以下の通り

-鉄鋼/アルミ(0-7.5%→25%)-
 鉄鋼はアメリカ経済に重要な分野であり、バイデン政権は60億ドルを投じてクリーン製造プロセスの確立と競争力強化を進めている。
 米国労働者は世界で最もCO2排出量の多い鉄鋼/アルミの中国の非市場過剰生産能力による不当な競争に直面しており、是正する必要がある。

-半導体(25%→50%)-
 レガシー半導体分野での中国の政策は、市場シェア拡大/急速な生産能力拡大につながり民間企業による健全な投資を駆逐するリスクをもたらしている
 バイデン政権は530億ドルを当該産業に投下して米国製造能力の復活に尽力している。今回の関税強化は米国競争力の回復に役立つ

-EV(25%→100%)-
 中国政府による広範な補助金と非市場慣行が過剰生産能力に繋がっており、自国内で吸収しきれない供給が輸出される可能性が高い
 米国製造力の回復というバイデン政権のビジョンを前進させる効果が今回の方策にはあり、米国の製造業者を中国の不公平な貿易慣行から守ることになる。

-バッテリー関連-
 (EV向けLiB;7.5%→25%(24年),EV以外向けLiB;7.5%→25%(26年))
 (LiB部品;7.5%→25%(24年))
 (天然黒鉛/永久磁石;0%→25%(26年)),他重要鉱物;0%→25%(24年))

 米国内での調達は徐々に進むが相変わらず中国がLiBに関して供給網の多くを抑えている状況に変わりなく、80%近くを抑えているともされる
 地理的な鉱物の偏在は如何ともしがたいが供給網の脆弱さを立て直すべく、バイデン政権は国内生産拡大に向けて200億ドル近く投資してきた

-太陽光発電製品(25%→50%)-
 中国は不公平な慣行を利用して世界の太陽光発電供給網の特定部分の80-90%以上を支配し、現状を維持しようとしている。
 今回の施策で中国製の安価な太陽電池モジュール/パネルの世界市場への反乱を阻止し、米国労働者を保護する

-港湾クレーン(0%→25%)-
 中国の不公平な貿易慣行によってクレーンも中国製品が氾濫しており、供給網の多くを中国企業が抑えている。
 港湾設備は国家安全保障にとって重要であり、今回の関税強化を通じて米国のみならず多国の安全保障環境整備に貢献する

-医療製品(注射器&針;0%→50%,保護具;0-7.5%→25%,ゴム手袋;7.5%→25%)-  
 
パンデミック対応に必要な製品について中国への過度な依存を下げて国内供給体制を保持/強化するための関税を引き上げる

3;中国製EVの米国での販売

 現在出回る中国製EVは[Polestar2-EV]と[Volvo-S90]の2モデルで、両社とも吉利汽車の傘下。両社の担当者は取材に対して下記のようにコメント
(Volvo)
[世界的なメーカーとして自由貿易を支持しており、自由貿易は雇用/富/経済成長を生み出す源泉と認識している]
[主要市場への投資(10億ドル)/貢献を当社は行っており、当社はサウスカロライナ工場でEVを製造し、数千人の雇用を生み出している]
(PoleStar)
[我々はバイデン政権による関税引き上げの発表を評価しており、EVの普及にはより一層の自由貿易が必要と捉えている]
[PoleStar3の生産は今夏にサウスカロライナ州で開始される予定で、製造拠点を多様化を通じて雇用創出と経済成長を支援する]

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