短歌 新作８首 『大きく育つ』

心の中は、目に映らない。
どんなに言葉で取り繕っても、誰がどんな感情を、誰に向けているのか、本当のところはわからない。
だからこそ、無意識に生まれた自らの感情にも、驚かされ、惑わされ、ときに突き動かされたり、救われたりもする。

そんな気分を、８つの短歌で書いてみました。

第一歌集『愛を歌え』には収録されていない新作です。
もしも気に入っていただけたら、ぜひ『愛を歌え』も読んでみてくださいね。
あの俵万智さんが帯文で「今を生きる愛の名言が、ここにある。」と太鼓判を押してくださった、295の短歌で綴った物語です。

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大きく育つ

本当は何が正しいか、確かめるために傷つきたいときがある

ひたむきに積み上げてきたセオリーが打ち砕かれる言葉をくれよ

紫陽花が嫌いになったいきさつを君に語るのには早すぎる

触れられた胸が鳴っている踏切の警報音と同じテンポで

飲みかけのグラスの載ったテーブルがまだ濡れている、まだ大丈夫

出逢う前には戻れないから君の生まれた街の一部になりたい

信じたり待ちこがれたり目に見えぬところで愛は大きく育つ

いつもよりきれいに掃除した。僕は君のことが好きなんだと思う。