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あなたの「新宿」は、どこまで?

「東京ディスニーランドは千葉だから東京じゃない!」とか「富士山は静岡か、山梨か」とか、その場所を「どこ」と見なすかを、人類はこれまで何度も議論してきました。

今回は、東京の「新宿」にまつわるお話です。
東京にお住まいじゃないみなさんも、しばしお付き合いください。


先日、とある知人から「新宿でランチしよう」とのお誘いが。
連日の在宅ワークで体が凝り固まっていることだし、ランチくらいならと、少し羽を伸ばすつもりで向かいました。

集合の約束は13時。
僕はあらかじめ家を出る前に、
“13時に新宿駅に着けるように山手線で向かうね”
とLINEを送っていました。
山手線に乗り、もう少しで新宿駅に着くというとき、ふと相手から返信が。

“伊勢丹まで来れる?”

ほほう……。

伊勢丹とは、言わずもがな伊勢丹新宿店のことで、日本一の売上金額と入店客数を誇る百貨店です。
JR新宿駅から伊勢丹新宿店までは、距離にして約500メートル。徒歩にして約5分。
来れるか来れないかで言えば、もちろん行けない距離じゃない。これまでもJR新宿駅〜伊勢丹新宿店を何度も歩いたことはある。
でも、この日は梅雨の合間の、よく晴れた猛暑日。お腹もすいたし、正直言って歩きたくない。

集合場所を細かく決めておかなかったのは失敗だった。
東京にお住まいじゃないみなさんにはピンと来ないかもしれないけれど、伊勢丹新宿店の最寄駅はJR新宿駅ではない。東京メトロ丸ノ内線の新宿三丁目駅なら、直結で1分と歩かない。

「だったら最初から山手線じゃなくて丸ノ内線で来たのに!」と。
そもそもそっちが新宿でランチしようと誘ってきたんだから「来れる?じゃねえだろ。そっちが来いよ」と。

とはいえ、そのまま伝えると角が立ってしまう。
僕は精一杯のオブラートにくるんで、歩きたくない旨をLINEでアピールしてみました。

“あ〜……それだと電車降りたら歩かなきゃだし、そのぶん集合時間遅れるけど!”
“うん、ぜんぜん良いよ!!”

……イヤミが伝わらなかったようだ。


かくして、僕は腑に落ちない気持ちを抱えながら約500メートル歩き、13時5分頃、伊勢丹新宿店にて知人と落ち合いました。やれやれ。
そして、知人が一言。

「ちょっと歩くけどいい?」

ほほう……。
すでにここまで歩かせといて?
嫌な予感がする。

知人に連れて行かれたのは、新宿御苑にほど近いカフェでした。

解説しよう。
新宿御苑前駅もまた、東京メトロ丸ノ内線の駅。新宿駅から見て、隣が新宿三丁目駅、もう1駅向こうが新宿御苑前駅。
僕は山手線を降りてから、2駅分の距離を歩かされたことになる。
そして、後からわかったのは、この知人の自宅こそ新宿御苑前駅が最寄りだということ。

「え? なんで最初から新宿御苑前駅に集合にしなかったし?」と。


JR新宿駅から新宿御苑まで、地下鉄で2駅、距離にして約1キロメートル。
きっとこの辺に住んでいる人にとっては、日常的に歩いている距離なのでしょう。
わざわざ地下鉄の改札やホームまで階段を降りて、混雑する車両に乗るくらいなら歩いた方が良い、と。
でも、新宿に住んでない人からすれば、べつに歩きたくもない2駅分の1キロメートルだってことをわかっていてほしい。

偏見であることを承知で言わせてもらうと、新宿エリアに住んでいる人は「どこまでが新宿か」の概念がゆるすぎると思う。
特にこのJR新宿駅から新宿御苑までの約1キロメートルに関してはそれが顕著で、「新宿に集合」という約束になっている場合、この約1キロメートルの間ならどこにいてもいいと思っているふしがある。
だから新宿に集合するとき、自分は伊勢丹にいてもいいと思っているし、相手を新宿御苑まで歩かせても平気なのだ、と。

けれど、新宿に住んでない人を代表して言わせてもらおう。
「新宿に集合」なら「新宿駅」に来てくれ。
もしくは、細かい集合場所を指定してくれ。それによって、こっちは新宿駅で降りるのか、新宿三丁目駅で降りるのか、新宿御苑前駅で降りるのか決めたいんだ。頼む。

もしあなたも「新宿に集合ね」と指示されたときは、確認してみましょう。
「それ、どの新宿? 新宿駅? 新宿三丁目? まさか新宿御苑じゃないよね?」と。

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