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旅を楽しめなかった海外添乗員が泣くほど感動した絶景ーその1

壮大な景色は、ときに人生観を変える。

私は、旅行会社に勤めていたとき、団体ツアーの添乗員としてさまざまな国を訪れた。いわゆるビジネス出張ではなく、観光を楽しむ海外旅行の同行なので、世界遺産やグルメ、現地の人との交流などを、お金を払うどころか給料をもらって体験した。(もちろん、仕事はしっかりこなしました。)

20代前半から半ばにかけて、約1ヵ月半ごとに、言われるがまま各国へお客様を連れて飛んだ。1ツアーの日数は、行き先により5日間~14日間ほど。気がつけば訪れた国の合計数は35ヵ国におよんだ。

添乗員って楽しそうな仕事だと思われがちだけれど(実際にすごく楽しんで仕事をしている人は多い)、当時の私には旅を堪能する余裕などなく、とにかく必死だった。

正直なところ、どうしても添乗員になりたくてこの仕事を選んだわけではない。
就職活動のとき、何周まわって考えてもやりたいことが見つからず、好きなものは旅行以外に思いつかなかった。同じことを毎日やり続けるのは苦手だから、ツアーの企画やカウンター接客、イベントの主催など、いろんなことができる会社を選んだ。添乗もたくさんある業務の中の一つだった。

やってみると、添乗という仕事はとても奥が深い。
4、5人から20人くらいのお客様と地球の裏側へ、ただ行って帰ってくるだけではない。
空港やホテルで言葉は通じないし、観光地についてもそれなりに知っておく必要がある。(現地ガイドが同行する場合とそうでない場合がある。)
国内ツアーに比べて代金が高額なぶん、お客様の期待値が高い。団体ツアーでもお客様によって旅の目的はさまざまで、撮りたい写真、食べたいもの、買いたいお土産は一人ひとり異なる。

それなりにトラブルも起きる。航空機遅延だのスーツケースロストだのはしょっちゅう。ときにお客様が忘れ物をしたり、体調を崩したり、悪天候で行程を変更したり。全くなにも事件が起きずにツアーを終えたことは、数ある添乗経験の中で1回か2回だったような気がする。

だから当時の私は毎回必死だった。
ペルーでマチュピチュを見ても、スリランカでシギリヤロックを見ても、ケニアで野生のシマウマを見ても。もちろん感動はするけれど、常に頭の片隅でお客様の人数を数えたり、次にアナウンスする内容を復唱したり、明日の行程を考えたりしていた。

そんな私が粛々と海外ツアー添乗を重ねる中でも、一瞬で心をさらわれた絶景が3つある。

そのうちの一度は、2016年12月、8名のお客様を連れてクリスマス&年越しツアーの南米アルゼンチンを訪れたときだった。

宿泊していたカラファテの町からツアーバスで約2時間半、車窓に雄大な山々を眺めながらひた走った。エメラルドグリーンの湖が印象に残っている。

到着し、やれやれとツアーバスを降りて、先輩が残したレポート通りにお客様を誘導しながら展望台の入口へ向かう。
木できれいに整備された階段を下りながら、日本では感じることのない、ひんやり冷たい風と焼けるほど強い日射しのコンビネーションに、「変わった気候だな」とぼんやり思っていたそのとき。
はるか彼方から眼下すぐまで一面に広がる、空色よりもやわらかい、白濁した薄浅葱色のような氷の壁が視界に飛び込んできた。

写真でもテレビ映像でもない、私の目の前にあったのは、ほんもののペリトモレノ氷河だった。

(続く!)

眼下に広がるペリトモレノ氷河(撮影:山本すず)


ペリトモレノ氷河と虹(撮影:山本すず)



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