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何もかも忘れた祖母

「えっ…、、と、、
誰ですか」

申し訳なさそうに祖母が言う。
祖母は私たちを忘れてしまったんだ。
表情からわかる。

いつものように
「ばあちゃんー!」
と手を振っても反応がない。

私たちを知らない人かのように見る。毎回嬉しそうにしながら手を振りかえしてくれたのに。

数年振りに会うし、
認知症だから仕方ないとは思う。

でも心では納得できないのだ。
私たちを忘れてしまったことを。


新幹線で3時間くらいかけて、はるばるやってくる私たちを楽しみに待っていてくれた祖母。そして、毎回帰る時は寂しそうに「次いつくるの」と聞いてきた。

妹が生まれた時は、母の代わりに私を世話してくれていた。散歩や保育園の送り迎えなど、思い出すのもキリがない。

大きくなってからは年2回くらいしか会ってなかったが、私は祖母のことが大好きだったし会えるのをとても楽しみにしていたんだ。

数年前から娘たち(私の母たち)と祖母は仲があまり良くなく、誰も祖母に会いたがらなくなった。

今回、私たちは4.5年振りくらいに祖母に会った。祖母の家を片付けなくてはならなかったのだ。

母は祖母に会う前、
「祖母が色々発狂して私たちに文句を言うかもしれない」と心配していた。

しかし、予想以上に祖母の認知症が進んでいて私たち孫だけでなく、娘である母たちのことも全く覚えていなかった。

数年前より確実に弱々しく衰えてしまった祖母に、母も私たちも驚きと悲しみを隠せなかった。

「あなたたちが娘と孫なの、、」
「みんなかわいいわね。」

顔の筋肉が衰えながらも笑顔で、か細い声で言った。認知症になる前よりも幸せそうな笑顔だ。

この笑顔からは、住民や親族間トラブルを起こしたとは考えられない。祖母はお金への不安があったらしく突然約束をキャンセルしたり、誰もお金を盗んでないのに盗んだと警察に通報したりしたそうだ。

祖父が約40年前に亡くなってから、女手一つで娘3人を育てるためにずっと頑張りすぎていたんだと思う。

今は何もかも忘れてしまって守るものもない。頑張る必要もない。

祖母はお金を守るというやり方で私たちを愛していたんだ。それが愛だと信じていたんだ。

きっと私達のことが好きなのには変わりないはず。そう信じたい。

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