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中日⇔日ハムのトレードって結局どっちが得したの? という疑問に答える記事を書く

皆さまこんばんは。@suwaharu07です。

 野球好きの皆さまはいかがお過ごしでしょうか。筆者は借金15という贔屓チームの現状に優勝を諦めましたが、意外と楽しく毎試合観ることができています(我ながら驚き)。

 本記事は「中日ドラゴンズファン」「日本ハムファイターズファン」「一部のオリックスファン(主に斎藤綱記が好きな層)」の皆さまへお送りさせていただきます。お暇潰しに役立てていただければ幸いです。


 さて、つい先日2対2の複数トレードが発表されました
 日本ハムが宇佐見真吾(30)・斎藤綱記(26)を放出し、中日が郡司裕也(25)・山本拓実(23)を放出するという捕手/投手の交換トレードとなります。


 交流戦で対戦してからすぐのトレードということもあり、注目を浴びていたようです。私も驚きましたが、色々情報を見聞きする中で『なんでこのトレードが実施されたんだろう?』という疑問が湧いたのでこの記事を書くことにしました。


 さて、そんな今回の記事タイトルがこちらです。


「中日と日ハムのトレードって結局どっちが得なんだよ」


 トレードの翌日に得失判断するのは大分早とちりですが、ネット上では「日ハムが得だ」という声をよく見ます。私も最初はその通りかな~……と思いはしたのですが、調べていく内に案外どちらの得/損とは言い切れないものであると考えを改めました。今では、「日ハムが得だ」という考えにちょっと懐疑的な見方をしています。

 ならば「中日が得か?」といえば、不正解とは言いませんが正解とも言えません。結論から先にいえば、「中日も日ハムもwin-winの両得トレード」だと考えています。若手が絡むトレードなので、そう易々と得失判断できないよ、というのが大前提ではありますが。

 この考え方には幾つかの根拠があるので、この記事でトレードに関わった4選手の成績2チームの意図を考えてみよう、というのがこの記事の本題となります。


 ハッキリ言いますが、この記事結構長いです。
 
1万文字を余裕で超えているので、ダルい人はエピローグへ飛んで下さい。そこに要点をまとめています。


 それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか?
 ドラフトマニアが初めて書いたトレードの考察記事、行くわよッッ!!


~4選手の現状を確認する~


 個人の考えをぶちまけるのは楽しいですが、その前に各選手のキャリアや成績を確かめなければいけません。選手の立ち位置、期待値は各々で異なるので、客観的な根拠もなく語るのは大変な暴挙です。そんな行為はレシピを見ずに作ったことのない料理へチャレンジする蛮行も同然であり、許されてはいけないのです。


トレードされた4選手の成績を見る


 まずは、日ハムが放出した宇佐見・斎藤の成績を見てみましょう。

 プロ野球データフリーク(https://baseball-data.com/)を元にして、
近5年間の一軍・二軍成績をまとめてきました。年によってサンプル数
(打席・投球回)が不安定なので数値の平均は取っていませんが、大まかな特徴をそれぞれまとめて付記しているので参考にしてください。
 なお、突出した数字やキャリアハイに近い打席・登板数については赤字でマークしてみました。

宇佐見──ほぼフルシーズンの一軍帯同を2度経験。
昨年、200打席以上に立ちながら捕手として非凡な打撃成績(OPS.668)を残した。


斎藤──K/BBの安定性が目立つ。ワンポイント起用の多さがうかがえる。
一軍では苦しむものの、二軍では傑出した数字を示し続けた

 
 これらの数字から、2人の特徴を次のようにまとめることができます。

 宇佐見真吾(30):
・控え捕手、スタメン捕手いずれの経験も豊富
・捕手として上位レベルの打撃力を示すポテンシャルがある
・安定性には課題がある

 斎藤綱記(26):
・奪三振、与四死球が一・二軍ともに優れた数値を示している
・二軍では素晴らしい成績を残す反面、一軍では打ち込まれる
・複数イニング登板の実績が少ない

 
 宇佐見の項目で「上位レベルの打撃力」と記しましたが、OPS.668という昨年の数字は清水優心や伏見寅威の全盛期と同水準であり、中日ファン向けに表現すれば今年の木下拓哉と殆ど一緒の数字です。
 また、数字以外に着目すべきポイントとしては、宇佐見が左打ち、斎藤が左投げであるという点でしょう。捕手は左打ちが少ない(※左手で捕球する関係上、右手で押し込む右打ちが多い)ので、左打ちの捕手はそれだけで他捕手との差別点を有しています。また投手に関しても、左投げが少ないのは周知の事実です。斎藤のように与四死球が少ない左投手は珍しいです。

 次に、中日が放出した郡司・山本の成績を見てみましょう。



郡司──四死球の多さが際立ち、一軍では2年目を除き低打率も選球眼は健在。
捕手を中心に一・三塁・指名打者などでフルシーズン試合に出続けている。


山本──2019は先発、20以降はリリーフで実績を残す。
将来性と実績を有しながらも不安定なK/BBが課題となる。


この数字から読み取れる2選手の特徴は以下のようになるでしょう。

 郡司裕也(25):
・IsoDの平均が高く=出塁率が打率よりも非常に高く、選球眼に優れる
・長打力(IsoP)もまずまず、年によって高いポテンシャルを示す
・一,二軍成績の差が大きい──一軍で打ったのに二軍で打てないというシーズンも

 山本拓実(23):
・1,2年目に先発として経験を積んだ
・リリーフとして昨年、一昨年は成績が良化しかけている
・奪三振率が一,二軍ともに高くない

 
 郡司は捕手を中心としながら、DHでの起用も多くありました。捕手としてのライバルである石橋が徐々に一軍での打席数を増やす一方で、郡司には打撃面でのアピールが求められたという背景があったためでしょう。
 この2人を語る上で留意すべきは、どちらも25歳以下の若手ということです。実績のある山本はまだしも、郡司がトレード後すぐに一軍定着できる見込みは大きくないでしょう。しかし、30歳の宇佐見を獲得した中日と比べて日ハムにとって、今回のトレードは長い目で見られるというメリットがあります。


トレードされた4選手の「立ち位置」は?


 立ち位置というのは、換言すれば「元のチームにどれほど必要とされていたのか」とも表せます。
 
 都合のいいことに、直近の両チームの一軍ベンチが4選手のニーズを表していました。スポーツナビ(https://baseball.yahoo.co.jp/npb/)をスクリーンショットから引用してここに参照してみましょう。


日本ハム:6/19時点の一軍スタメン・ベンチメンバー


中日:6/21時点の一軍スタメン・ベンチメンバー


 字も小さく見辛いため、今回トレードされた「左右のリリーフ投手/捕手」についての現況をまとめます。

日本ハム:
・捕手は伏見、マルティネスが担当──若手の候補は郡、梅林
・郡は一塁と代打を、梅林は第三捕手を兼ねる
・ブルペンは左投手が多い
・右投手のリリーフは殆どが速球派である

中日:
・捕手は石橋が担当──加藤が第二捕手、味谷が第三捕手
・石橋、味谷は20代前半と非常に若い
・ブルペンは右投手が多い
・左投手のリリーフは福、上田の2名でどちらも最高球速は140キロ強の技巧派。


 上記から推測できる4選手の立ち位置は以下のようになります。

宇佐見:捕手の伏見、マルティネス、代打のアルカンタラらと競合。
斎藤:リリーフの河野、福田らと競合。
郡司:捕手の石橋、代打のブライトらと競合。
山本:リリーフの清水、松山らと競合。

 ⇩

宇佐見:一軍では左の代打という他にチャンスが少ない。
斎藤:一軍では自分に似たタイプで年齢の近い左投手が多い。
郡司:一軍では代打、または第三捕手として期待される。
山本:一軍では自分に似たタイプで年齢も近い右投手が多い。

 ざっくりいえば「郡司以外は一軍で使い所がない」という状況です。また郡司に関しても、代打として控えながら捕手としての経験を積むというのは非常に難しく、やはり出番が確保しにくいという事情があります。

 宇佐見・山本は一軍実績がありながら二軍で調整している選手であり、
郡司・斎藤は二軍で優れた成績を残しながら一軍では力不足の選手でした。彼らはいずれも、一軍のメンバーに調子を落とした選手がいれば2番目か3番目には声が掛かる位置であった有望な立ち位置でもありました。
 しかし、「最初に声が掛かるほどの序列でもなかった」というのが現実でだったと考えることができます。

 あえて乱暴にまとめてしまえば、

『4人は4人とも、トレードで出すにはうってつけの人材』だったのです。


~両チームのコメントを参照する~

 
 トレードされた4人の現状を確認しただけで「どっちが得か?」は推測しきれません。
 大事なのは「トレードの当事者である両チームの意図」を読むことです。自分の推理を元にあーだこーだと書き散らすのは大変楽しいことですが、チームの編成に関わる当人たちのコメントを無視するわけにはいきません。
関係者コメントを参照しないで考察を書くという所業は、公式の描写を把握せずに二次創作するのと同じくらい危険な行為と思われます。

 大変都合のいいことに、編成を主導する稲葉GM/加藤球団代表と現場を主導する新庄監督/立浪監督のコメントが早くも出揃っています。こちらへ引用しますので、リンクからお読みいただけると幸いです。

日本ハム側のコメント(上段URL:稲葉GM 下段URL:新庄監督)


中日側のコメント(上段URL:加藤球団代表 下段URL:立浪監督)


 それぞれ日ハム側、中日側に分けて2チームのコメントを箇条書きでまとめます。まずは、日ハム側のコメントからです。

「山本は球速が魅力。一軍経験を信頼しており伸びしろも期待している」(稲葉GM)
「郡司は打撃が魅力。捕手陣の活性化に期待している」
(稲葉GM)
「山本はホップする球質、モーションの技術が好み。先発も面白い」
(新庄監督)
「山本と郡司でバッテリーを組ませてもいいかも?」
(新庄監督)
「宇佐見には正捕手をとってほしい」(新庄監督)
「どういう経緯でこうなったか分からない」(新庄監督)

  続いて、中日側のコメントです。

「実績のある中堅クラスの捕手と左腕投手は、球団の補強ポイント」(加藤球団代表・立浪監督)
「双方ともに"トレードなら2対2"という話をした」(立浪監督)
「宇佐見は打撃が非常にいい。開幕マスクの実績にも期待している」(立浪監督)
「石橋が(捕手スタメンで)出ているが、継続は難しいと思う。(宇佐見には)2番手でなく、レギュラーを取るつもりでやって欲しい」(立浪監督)
「斎藤は映像しか見たことない。左打者にシュートを投げられると聞いている」(立浪監督)
「リリーフ左腕は(福などが)いるが、数が少ないので期待している」(立浪監督)
「郡司は出場機会が少なかった。打力を活かしてほしい」(立浪監督)
「山本は活躍もしてくれたが、もう一歩足りない。発揮しきれなかったポテンシャルを示してほしい」(立浪監督)

 立浪監督のコメントが多いですが、これは関わった4選手全員について話しているからでしょう。また、他の一軍選手との兼ね合いにも言及しているのがポイントです。
 新庄監督が斎藤へ対するコメントをしていないのは心情的に辛いものがありますが、チームへ合流してから半年も経っていないので、むべなるかなという印象もあります。

 これらのコメントは非常に重要な情報です。どちらも放出する選手へのエールや獲得する選手への期待が込められていますが、これを読み解くと、『2対2トレードで"本当に欲しがられた選手は誰なのか"』が見えてきます。

 宇佐見、斎藤──山本、郡司の2:2トレード。
 中日が本当に欲しかったのは宇佐見なのか、斎藤なのか、両方なのか。
 日ハムが欲しがったのは、山本なのか郡司なのか、2人ともか。

 次の項目で見ていきたいと思います。 


本命は宇佐見⇔山本のトレードだった


 これはほぼ確定だと思われます。斎藤・郡司の株を下げるので公式から同様の情報が出るとすればかなり時間が経ってからのことと思われますが、現状から推察すると宇佐見⇔山本の交換が主目的だった可能性が非常に大きいです。

 根拠は3つあります。

・中日にとって宇佐見のニーズは非常に大きい
・日ハムにとって郡司のニーズは大きくない
・両監督が選手への関心に差を見せている

 以下、順を追って解説します。

・宇佐見のニーズは非常に大きい


 今年の中日ドラゴンズは「中堅捕手2人+若手の第三捕手」という体制を敷いていました。負担の大きなポジションの疲労を分散しながら若手に経験を積ませるという意図があってのことでしょう。
 しかし、そこで起きたのが木下の長期離脱というリスクの顕在化です。
二軍にいるベテラン・中堅捕手も大野1人であったため、
将来の正捕手である石橋に大きな負担を与えるか
二軍を空にしても「中堅捕手2人+若手の第三捕手」体制を維持するか、
 
という、リスキーな二択を迫られていました。
 
 捕手を複数揃えることは投手の育成にも直結します
 一、二軍ともに捕手のクオリティを下げずに、正捕手候補・石橋の負担を和らげるのに宇佐見の獲得は渡りに船だったことでしょう。

 石橋に次ぐ若手であろう郡司の放出はある程度の出血を伴うかと思われますが、それ以上のメリットを認めたために今回のトレードと相成ったように推測されます。
 『中日側の強い要望があって実現した』と報じる記事もあるのはこうした背景からでしょう。


 加藤と大野の2人だけで石橋を支える体制は不安があった、
 また、石橋と郡司を比較した際に石橋へ賭ける価値が大きかった、
という2点から中日は宇佐見の獲得を決めたのです。

「郡司が宇佐見の立ち位置を担当できたのでは?」という声をちらほら聞きますが、一軍でのシーズン打席数が100打席に達した経験のない若手捕手には荷が重い(捕手以外での出場も少なくなかった)でしょう。アクシデント等への対応力が問われるため、石橋を支えるための捕手は石橋と同等以上の実力か経験を備えている必要性がありますが、残念ながら、郡司がそれだけの実力を有するといえる根拠はありません。

・郡司のニーズは大きくない

 
 正直、この言い方は不適切ではないかと思います。郡司が必要とされていないかのように見えるからです。相対的な側面から「山本のニーズが大きい」と書くべきかもしれませんが、それを主張するだけの積極的な根拠が少ないためにこのような書き方となりました。

 根拠は単純明快です。
 年齢・ポジションの被る捕手や代打役があまりにも多いためです。
 郡司には日ハムでのライバルが多すぎると言っても過言ではないでしょう。

 郡司のポジションは主に捕手、次いで一塁、外野、指名打者です(時々サードも守ります)。
 日ハムの捕手を見ると…

・メイン:伏見、マルティネスで交互に担当
・第三捕手:郡、梅林
・若手育成枠:郡、梅林、田宮
・ユーティリティー枠:郡、古川

 と、マルティネスの守備が好調な現状では上記のような布陣となります。郡以下はまだまだ不安定なメンバーではありますが、一軍での出番を分散して与えられている25歳以下の捕手が複数人揃っており、横一線で競争している状態です。首脳陣からの評価は低いようですが、正捕手だった清水もいます。

 郡司が捕手として抜擢される可能性は現状では高くありません。どちらかといえば、トレード前に一軍昇格していた梅林や、二軍で捕手として最も多く起用される田宮が優先されると思われます。
 GM、監督ともに郡司へのコメントで打撃面へ言及しており、どちらかといえば代打や指名打者での活躍を期待されているでしょう。

 そこで、代打や指名打者の主なメンバーを参照します。

・代打:郡、アルカンタラ、加藤、野村
→この4人はスタメンでの出場も少なくない
・指名打者:郡、野村、伏見、マルティネス
→伏見、マルティネスは捕手起用も多い

 他、代打としては江越や石井といったメンバーがいます。打率が比較的高いのは上記の4人です。

 ハッキリ言います。──郡司のライバルが多すぎる!!


 特に郡!! なんなんだよお前は!!!


 打席も被る、年齢も被る、ポジションも被る、名前も被るってどういうことやねん!!!



 筆者は中日ファンなので郡司を贔屓した書き方になりますが、郡からすれば「お前がなんやねん」と言い返してもいい立場ですね。彼の前でこの文章を音読しろと言われれば、筆者は土下座して許しを請うつもりです。

 こういった面を承知で郡司が獲得された背景には、昨年の正捕手を放出したために捕手層が薄くなることへのリスクヘッジや、若手の不調・怪我人が多いことへのリスクヘッジがあるのでしょう。

 現状では郡司の付け入るスキは少ないように思われますが、清宮や野村が同時に離脱して一塁や指名打者が埋まらない時期がありました。また、代打が安定せずに低打率の石井を代打で使った試合もあります。

 ライバルが多いのは間違いないですが、郡司には安定した選球眼(出塁率)というストロングポイントがあります。トレード直後は首脳陣の注目も大きいでしょうから、自慢の打撃でアピールすることが期待されます。

 実際に、新庄監督は早い段階から郡司を捕手で起用する方針のようです。

 役割どころか年齢まで被るライバルが多いという逆境ではありますが、大きなアドバンテージを"確約"されている恵まれた立場でもあります

 なお上記と似たようなことは山本にも言えるのですが、リリーフ投手は野手と比べて圧倒的に試合に出やすいため、ニーズが小さくなることはそうありません。投手ごとに役割も多岐にわたるため、出番のない時期が続いてもチーム状況次第で声がかかりやすいという側面があります。

 現状の日ハム右腕リリーフは「実績のある選手は中堅で」「二軍で有望な選手は実績の殆どない若手・育成選手」というところなので、山本はその中間を埋める選手になりそうです。


・選手への関心に差がある

 
 立浪監督は宇佐見へ注目してるし、新庄監督は山本を注視してるね、という趣旨になります。

 先述したコメントを参照すると、立浪監督は宇佐見のプレースタイルへ、新庄監督は山本のピッチングスタイルへよく言及していることが窺えます。4人の中で一軍実績を比較すれば、そうなるのも当然ではありますが。
 中日側の加藤球団代表は宇佐見・斎藤へシンプルなコメントを寄せ、日ハム側の稲葉GMは記者会見時のコメントも合わせて山本・郡司へ長いコメントを寄せていました。

 新庄監督が『どういう経緯でこうなったか分からない』と話すからには、フロント主導、あるいは中日主導のトレードだったと思われます。また、
立浪監督は宇佐見をすぐに一軍で使うという意向を示しており、宇佐見への評価が高い──あるいは石橋の負担をすぐにでも和らげたいという意図がうかがえます。
 

 新庄監督も特に宇佐見へは放出にあたってのエールを送っています。今シーズンの開幕マスクに抜擢したこともあり、思い入れがあることでしょう。

 
 と、以上の情報から「宇佐見の中日移籍が本線だった」ことが読み取れます。これを考慮した上で、放出する日ハム側の立場になってみれば──
昨年のレギュラーで、その年キャリアハイだった正捕手を放出するのに、
わざわざ新しい捕手を獲得するのは考えにくい
ことです。

 キャリアハイの昨年を差し引いてみても、宇佐見はドラフト下位の捕手であり、生え抜きではない微妙な立場から年100打席ペースで出番を貰っている非常に便利な存在です。
 現状は一軍で使い所がないから放出したい……
 しかし、放出するには惜しい……

そんな選手と釣り合うのは「同じく一軍実績を有している選手」「よほど有望な若手選手」のどちらかでしょう。

 今回日ハムが獲得した山本拓実は、宇佐見との釣り合いを図る上で充分な選手です。一軍で複数シーズン稼働した実績があり若くして長所が分かりやすいという将来性を持っています。
 郡司も似た立場ではありますが、一軍での実績がどうしても泣き所でした。

今回のトレード経緯を推測する


 この項目はこれまでの情報を元に推理したものであり、公式の出典ではありません。あくまでも個人の推測です。


 中日:宇佐見を欲しがる
  ⇩
 日ハム:宇佐見と同様に一軍実績のある選手を欲しがる
  ⇩ 
 中日 or 日ハム:山本を打診する。実績があり、必ずしも経験豊富ではないが将来性も備えている
  ⇩
 日ハム:捕手育成のリスクヘッジを画策。捕手の希少性に由来するトレードの不公平感を理由に、捕手経験のある野手を欲しがる
  ⇩
 中日:郡司の放出を決断。人数、または年齢に由来するトレードの不公平感を理由に、山本放出を補うリリーフを欲しがる
  ⇩
 中日・日ハム:宇佐見・斎藤⇔山本・郡司のトレードを決定

 

 恐らく、上記のようなやりとりを経たものと思われます。
 引用した記事の中によれば「2:2であればトレードする」という意向が双方共にあったのですから、人数は決めていたのでしょう。

 例えば、大きな額の金銭や、レギュラー格の選手であれば宇佐見と1:1トレードがあった……かもしれません。しかしながら、今回のトレードは中日にとっても日ハムにとっても「使い所はないが、他所ならチャンスがあるかもしれない」という選手を交換するいい機会です。

 更に推測を重ねれば、日ハムの欲しかった選手はリリーフではなく先発投手や二遊間を守れる内野手だったという可能性があります。日ハムは外野手をドラフトとトレードと補強したばかりでありながら、ショートを守れる選手は低調なのが現状。先発も質は高いですが数は多くありません。
 とはいえ先発や二遊間は希少度の高いポジションですから、中日側が山本の年齢の若さをアピールして妥結に至ったトレードだと思われます
 

「木下の怪我があったからトレードした」は本当か?


木下の怪我があったのでトレードで宇佐見を獲得した』という報道もあります。一見すると筋は通っていますが、これはどうでしょう? 

 先述したように、宇佐見の全盛期は日ハムの正捕手だった清水や現在のレギュラーである伏見に劣らないもの。それも、昨年キャリアハイに至った成長見込みのある選手です。

「伏見・マルティネス体制」が安定しているとはいえ、木下の骨折後から数日間で宇佐見放出へ踏み切れるとは考えにくいと思っています。なぜなら、マルティネスが怪我で離脱せずに済んだシーズンはこれまでないので……。

 「やるか、やらないか、あと一歩の詰め」まで進んだトレードを交流戦後に実施したというのが落としどころに見えます。木下の怪我とタイミングが重なったのはたまたまかもしれません

 しかし、中日が郡司育成に力を注いでいたのは事実です。ある意味では山本以上に手放せない選手であり、石橋の次点と目していた捕手を放出する決定打として、木下の怪我をきっかけにした可能性は十分以上にあるでしょう。

 個人的な結論としては"50%よりは高い確率で"木下の怪我を理由にトレードが決まったと踏んでいます。



結論:トレードはどちらの得だったのか

 
 
 結論としては「中日も日ハムもwin-winの両得トレード」です。
 両チームとも、相互に異なる……しかも複数経路での成功を仮想できるだけの選手を獲得しています。1軍ですぐに使える即戦力2軍で優秀な成績を収めるプロスペクトを互いにやりとりした、巧妙なトレードと言ってよいでしょう。プロスペクトに当たる斎藤・山本・郡司のうちで斎藤/郡司は左腕リリーフ/捕手という使い所の多いポジションであることも利点です。

まずは日ハムの「得」を考える



 日ハムが得をするケースとしては以下が考えられます。

①郡司が主戦の捕手、指名打者、代打へ成長する。
②とにかく山本が一軍で登板数/投球回を稼ぐ。役割は何でもいい。
③郡司、山本と年齢層の近い同ポジション選手が成長する。

 郡司、山本が戦力化すれば当然ながら得をします。もし2人に成長が見られなくとも、チーム内の競争を活性化できれば結果的にトレード成功と言えるでしょう。
 2人はどちらも25歳以下と若いため、上手くいかない年があっても判断を留保できる猶予が長いのも大きな利点です。

 ここで、チーム目線から個人の目線を掘り下げてみましょう。
 2023年に山本・郡司がクリアすべき数値目標を具体的に考察すると、以下が挙げられます。

山本:20試合以上登板し、防御率4点台前後よりいい成績を残す
郡司:同年齢時の宇佐見を超える成績を残す

 山本は20試合+αも投げれば十分ではないかと思います。ロッテへ移籍した西村がここまで記録している登板数と概ね同じです。
 現在、防御率0点台を記録する西村ほど傑出した数字でなくとも構いません。昨年の日ハムを基準にすれば、リリーフの速球派右腕として「戦力」のボーダーラインと考えられるのは「防御率4点台前後で30試合以上登板」というところでしょう。具体的には、現役ドラフトで放出された古川や守護神としての起用もあった石川直也レベルです。 

https://www.sanspo.com/article/20221130-AZQVPTWV3ZJ6HKV6XPLVERQBBI/


 今シーズンは移籍前の中日で14試合投げているため、日ハムで20試合以上投げてこの領域に到達できると非常にいいアピールとなる、と判断されるはずです。山本は特に若いため、ある程度苦戦したとしても、2年後には一軍定着できていればそれでも十分でしょう。ドラフトで加入するルーキーたちが年下となることを考えれば、その辺りの年齢までに実力をアピールしたいところです。

 郡司の目標は100打席立ってOPSを.500に到達させることです。
 今回トレード相手となった宇佐見が郡司と同じくプロ4年目、25~26歳の6月にトレードで移籍し、捕手を中心に計103打席、OPS.474の記録を残しています。
 札幌ドームよりエスコンフィールドは打者有利となっていますのでOPS.474は絶対に超えたい数字です。郡司は打撃を買われており、一軍経験が浅い以上は捕手として云々よりもとにかく打たなければなりません
 早期にアピールできないと、今川や浅間といった打のライバル・怪我人たちが戻ってきてしまいます。


郡司は2019年当時の宇佐見を上回る打撃成績を残したい(画像赤枠内)


中日側の「得」はどこにあるか


 続いて、中日が得をするケースを考えてみましょう。

①宇佐見・木下が全盛期を過ぎるまでに若手捕手が200打席以上を記録する。
②宇佐見が木下の第二捕手として①を達成するまでに機能し続ける
③とにかく斎藤が一軍で登板数/投球回を稼ぐ。役割は何でもいい。
④斎藤と年齢層の近い同ポジション選手が③を達成する。

 日ハムへ移籍した郡司、山本と異なり、中日が獲得した選手の1人は30代です。30代の宇佐見は今年、来年にかけて即戦力としてのアピールを求められる立場であり、トレードが上手くいかない場合に判断を留保できる猶予は比較的短いというリスクがあります。

 リスクが多い分、日ハム側へ放出した2名と比較した際に宇佐見・斎藤には既存層・新規層との差別化が容易であるという特徴が挙げられます。これは他の若手・中堅選手の出番を食いにくいという他、ルーキー補強のためのドラフト戦略が立てやすくなるという育成へ貢献しやすいメリットです。

 チームとしての大まかなメリット・編成上の目標は上記となります。
 ここで、2023年に宇佐見・斎藤がクリアすべき目標を具体的に考えてみました。

宇佐見:若手捕手と合計で334打席以上を記録し、.500以上のOPSを残す。
斎藤:一軍で20試合以上登板し、防御率3点台までに留める

 
 334打席というのは、『(昨年の木下)+(昨年の石橋)-(今年の木下)』から導き出した打席数です。昨年はマルティネスが、今年は石橋や加藤が捕手として記録した打席数もありますが、大まかに334打席くらいを若手と一緒に記録してほしいな、というラインです。

 334打席を石橋と等分できれば理想ではありますが、味谷や加藤と一緒に分け合ってくれても構いません。木下の次の正捕手候補と目されている石橋が昨年75打席ですから、木下が怪我をした今シーズン、石橋には倍の150打席は立ってほしいところ。調子が良ければ味谷を使ってもいいでしょう。

 そこから逆算すれば、宇佐見、加藤らの中堅捕手は100~200打席を記録することが現状で期待されている役回りではないでしょうか。


木下は昨年規定打席へ到達し、今年は200打席ほどに立っていた(画像赤枠内)

 しかしながら、ただ打席に立つだけではいけません。木下の次点であった石橋が昨年OPS.487を記録しているのですから、多少低く見積もったとて、キャリアに大きな差があるので、宇佐見にはOPS.500以上はクリアしてもらわないと話になりません

 中日は代打不足でもあり、特に左打ちの代打はほぼ皆無(消去法的に加藤翔平、高橋周平らが担当している)の状況です。
 捕手ではなく代打として活躍することも期待されています

 一方の斎藤は、20試合は投げて防御率も4点台未満には抑えてほしいところ。時期の兼ね合いもありますが、現在の中日の一軍リリーフ陣は最も防御率が悪い投手でも3.00を記録しています。防御率が全てではありませんが、4点台の田島、砂田、鈴木らが二軍へ降格したことを考えると「悪くても3点台」というキャリアハイを残すことが要求されるでしょう。

 試合数に関して、昨年の中日は左リリーフがほとんど福1人でしたので、一昨年を基準に考えてみます。2021年の中日では、斎藤と年齢が近く、プロでの起用法も概ね同じだった(左のビハインドリリーフ)橋本が28試合投げています。
 斎藤は日ハムで4試合登板しているため、20試合以上投げて「30登板弱」というラインには到達したい立ち位置にいます。

 ただ、宇佐見ほど喫緊のアピールは求められていないでしょう。26歳という年齢も若手と中堅の狭間程度であるため、日ハムへ移籍した山本と同様に最初は苦戦しても、いつか一軍定着できていればそれでも十分でしょう。タイムリミットとしては、左腕リリーフの主戦である福の全盛期が過ぎるまででしょうか。
 中日には斎藤と年齢の近い左腕リリーフが2人いますが(橋本・石森)、斎藤はこの2人と異なる技巧派タイプです。出場機会のニーズを食い合うリスクは少なく、あるいは年齢が近い者同士で競争を活性化させるスタッフとして期待されているでしょう。


両チームが「損」するケースを考える


 
 ごく単純な考え方ですが、相手に放出した選手が獲得した選手を上回る成績を残せば「損」かもしれません
 ですが──『宇佐見は活躍しなかったが若手の石橋が活躍した』とか、
『山本は二軍で活躍したがそれ以上に良い投手がいるため一軍に出なかった』とか──結果としてチームの競争に寄与できればそれは「得」です

 そうした点を考慮した上で「損」に該当するリスクを考えてみましょう。

 中日側のリスクとして挙げられるのは、やはり郡司放出による捕手育成プランの修正でしょうか。宇佐見の獲得によって石橋、味谷、山浅といった若手捕手の保護を手厚くできる反面で、肝心の育てたい若手を1人放出しました。石橋の育成が何らかの要因で頓挫すれば非常に痛手となります。

 日ハム側のリスクとしても、同様に宇佐見放出による捕手層の薄さが挙げられます。郡司獲得によって若手の捕手層を厚くしましたが、先述したように郡司は一軍での捕手経験が浅い選手です。ポジションの安定しない伏見や怪我がちなマルティネスがメインとなる捕手陣において、年齢が伏見・マルティネスの中間であり、スタメンとしても控えとしても実績のあった宇佐見は重要なバランサーでした。

 ですので、中日・日ハム共に「現在の主戦捕手が長期離脱すれば損」と言えるでしょう。ただし、中日は「石橋が離脱しても一・二軍に中堅やベテラン捕手を偏らせずに済む」というメリットがあり、日ハムは「伏見/マルティネスが離脱しても若手捕手層を厚くする郡司がリスクヘッジとなる」というメリットがあります。
 郡司、宇佐見はどちらも獲った時点でチームの得となる一方、場合によっては損となり得る選手と言えるでしょう。

 
 一方で、山本・斎藤の2人に関しては中日・日ハムともリスクは少ないように思われます。先述したように中日は右腕の速球派リリーフに山本と年齢の近い選手が多く日ハムは左腕の技巧派リリーフに斎藤と年齢の近い選手が多いという状況です。この2人はチームに在籍を続けていても、信頼性を高めやすい状況ではなかったと言えるでしょう。

 ですので乱暴な言い方をすれば「山本・斎藤は放出して違うタイプの選手を取れた時点でお得な選手」です。

 実際、今シーズンの山本・斎藤はどちらも同点~ビハインドで打ち込まれて二軍へ抹消されています。似たタイプの投手が多くいる中、一度は与えられたチャンスを不意にしてしまったと判断されたのです。


 実際のところ、損得の評価は今年のオフには定まるでしょう。
 トレードで獲得した選手が──あるいは同じポジションの若手・中堅が活躍すればそれでトレード成功です。一方で、トレードされた当人たちが怪我をしたり、チーム内の同ポジションが危機に瀕した際にパフォーマンスを見せられなければ失敗です。
 
 先述したように、日ハムは獲得した選手がコケても年齢的に評価を猶予できるという利点があります。中日側としては補強ポイントを的確に埋めた(=既存・新規の若手選手を阻害するリスクが殆どないまま獲得した両人を活かせる)という利点があります。


エピローグ・今回のまとめ


①トレードの趣旨は「あぶれた選手を放出してチームを活性化させる」ためのものだった。

②中日の狙いは「若手捕手の負担分散」と「左投手のライバル補充」
 →本命は宇佐見の獲得(?)

③日ハムの狙いは「打撃重視のユーティリティーと右投手のライバル補充」   
 →本命は山本の獲得(?)

④山本:一軍実績があるが不安定な若手の右投手
④郡司:二軍実績はあるが一軍で殻を破れない打撃重視のユーティリティー

④宇佐見:一軍実績があるが不安定な中堅の捕手
④斎藤:二軍実績はあるが一軍で殻を破れない技巧派のリリーフ左腕

 →投手・捕手で近い立場の選手トレードとなる。
  宇佐見は希少性の高いポジションである反面、山本は23歳という若さでバランスがとれている。

⑤中日は若手を失った反面、補強ポイントを埋めることが出来た

⑥日ハムは即効性の高い補強ではないが、若手の厚みを1人分増やすことが出来た

⑦今回のトレードは成立した時点で両者の得
 →当然だが、リスクが存在しないわけではない


 以上が、今回の宇佐見・斎藤⇔山本・郡司のトレードに対する私見となります。
 ここからは感想です。

 調べてみて思いましたが、4人の選手が全員いい選手に見えてくるし、
逆にどいつもこいつも微妙な選手にも思えてくる!

 記事を書いている最中に何度も、

「なんで宇佐見・斎藤を放出するの!?」
「なんで山本・郡司を放出するの!?」
 と驚いた反面で、

「まあ…冷静に考えたら山本・郡司は微妙か……」
「まあ…宇佐見・斎藤であの2人が獲れるなら……」
 と、納得がいく部分もありました。

 捕手は33歳、34歳でピークが来るのもままあるというのに、29歳で正捕手被った宇佐見を放出する日ハムは正気ではないと思いますし、ブルペン陣の登板数が嵩んでいるのに山本を出す中日は頭がおかしいと思います。

 また逆に、出塁率がかなり安定していて捕手経験もある郡司をトレードで持ってきた日ハムはめちゃくちゃ上手いと思いましたし、26歳で恵まれた体格に制球力を備えた左腕という活躍フラグがビンビンに立った斎藤を獲得した中日は中々のやり手だと考えています。


 筆者は多重人格者ではありません。上記のように矛盾しているようで矛盾していない感想を持ったのは、記事を書いている最中で様々な視点から情報を得られたためです。

 ここまでで15000文字弱あります。まあ、書くのにずいぶん力を使いました。ですが、それ以上にめちゃくちゃ楽しかったです。
 リーグを跨いだ複数チームの考察となると、調べていく内に分かることが沢山あって本当に面白いです。皆さんもぜひ、トレード考察の記事を書いてみてください。


 
それでは、ここで筆をおくことにします。
 お読みいただきありがとうございました。


(※)記事中にリンク・URL等の記載がない画像・データに関してはNPB公式サイト(https://npb.jp/)から加工・引用しております。

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