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EUを知る「循環経済行動計画」を知る / サーキュラー・エコノミーの実践的すすめ

欧州委員会が公表した政策文書を時系列で列記してみると次のようになります。

2019年12月11日公表 「欧州グリーンディール」(European Green Deal)
 環境政策のみならず社会政策・経済政策の特色を持つ政策文書、大方針を規定
2020年 2月19日公表 「欧州デジタル戦略」(Shaping Europeʼs Digital Future) 
グリーンディールを実現するにおいてキモとなるデジタル戦略の大方針を規定
2020310日公表 「欧州新産業戦略」(New Industrial Strategy for Europe)
グリーン化とデジタル化の「2 つの移行」(Twin Transitions)を先導するための産業支援策
2020年 3月11日公表 「循環経済行動計画」(Circular Economy Action Plan)
 欧州新産業戦略の重要な一部をなす循環経済に特化した行動計画書


よくもまあこの短期間でこれらの文書をまとめ上げられるものだと関心する一方、それだけ欧州の本気度が感じられます。

では、今回は「循環経済行動計画」をみてみましょう。


「循環経済行動計画」を知る

「循環経済行動計画」(Circular Economy Action Plan)は、2020年 3月11日、政策文書として公表されています。
https://ec.europa.eu/environment/pdf/circular-economy/new_circular_economy_action_plan.pdf


概要:
今回の行動計画は設計と生産に焦点を当て、資源を可能な限りEUの経済活動の内部に引き留めることを目標に据え、設計から製造、消費、修理、再利用、リサイクルまで製品のライフサイクル全体にわたって対策を講じています。導入する施策は法令も法令以外のものもあります。
大きく分けて6つの柱があります。


○持続可能な製品政策の枠組みを整備する
○主要製品のバリューチェーンを再構築する
○廃棄物削減と価値創出を実現する
○循環経済に必要なあらたな職業を創出する
○横断的取組をすすめる
○グローバルレベルで主導推進する

第1章. はじめに INTRODUCTION

温室効果ガス総排出量の50%、生物多様性の損失や水ストレスの90%以上が資源の採取と加工に起因することから、欧州グリーンディールは気候中立で資源効率が高く、競争力のある経済を実現するための戦略を打ち出しました。その循環型経済をフロントランナーとしてではなく経済の主流プレーヤーへとスケールアップすることこそ、2050年までに気候中立を達成し、かつリニア経済から脱却することこそ、EUの長期的な国際競争力を確保し、誰も取り残さない未来を実現することにつながります。

日本においても、気候中立(ゼロカーボン、脱炭素)に注目が集まっています。しかし日本の気候中立問題はエコエネルギーに焦点がいっているように感じます。その点、欧州は視野を広く持ち、温暖化問題だけに留まらず、生物多様性や地球環境全体を視野に入れて循環経済へ移行する大切さを理解しているのです。


第2章. 持続可能な製品政策枠組み  A SUSTAINABLE PRODUCT POLICY FRAMEWORK

2.1. サステイナブルな製品の設計
2.2. 消費者と公共の購買者に力を与える
2.3. 生産工程における循環性


○持続可能な製品政策の枠組みを整備する
製品の環境影響の8割は設計段階で決まると指摘しています。製造から廃棄・リサイクルを視野に入れ環境影響に配慮した製品デザインを促す仕組みを構築することを目指しています。
・故持続可能な製品政策法制度イニシアティブを実施し、EU域内に上市される製品を長寿命化、より容易に再利用・修理・リサイクルできるようにし、可能な限りリサイクル材を使用するようにする。使い捨てを制限し、早期の陳腐化への対策を進め、売れ残った耐久消費財の廃棄を禁止する。
・消費者の権利強化:消費者が製品の修理可能性や耐久性などに関する情報にアクセスできるようにし、「修理する権利」を享受できるようにする。
・生産プロセスの循環性を構築する


第3章. 主要製品のバリューチェーン KEY PRODUCT VALUE CHAINS

3.1. エレクトロニクスとICT
3.2. 電池と自動車
3.3. パッケージング
3.4. プラスチック
3.5. テキスタイル
3.6. 建設および建物
3.7. 食料、水、栄養分

○主要製品のバリューチェーンを再構築する
主要なバリューチェーンが抱える持続可能性の課題は、緊急かつ包括的で協調的な行動を必要としており、これらの行動は第2章で説明した持続可能な製品政策の枠組みの不可欠な部分を形成しています。気候変動の緊急事態への対応に貢献するとともに、EU産業戦略や、今後予定されている生物多様性、食料戦略、森林戦略にも大きな影響を与えることになります。欧州委員会は主要なバリューチェーンの利害関係者と緊密に協力し、循環型製品の市場拡大を阻む障壁と、その障壁に対処する方法を特定しています。

電子・情報通信機器:製品の長寿命化と回収・処理の改善に向けた「循環型電子機器イニシアチブ」の立ち上げ
バッテリー・車両:バッテリーの持続可能性向上と循環型モデルへの移行可能性を高めるための新たな規制枠組み
容器包装:過剰包装と包装廃棄物の削減
プラスチック:再生プラスチック含有量と廃棄物削減施策に関する必須要件の提案
繊維:繊維産業における産業競争力とイノベーションを高め、持続可能かつ循環型製品のためのEU市場の促進
建設・建物:建築環境の持続可能性に関する包括的な戦略
食品:食品廃棄物の削減目標を提案、る使い捨て包装、食器、カトラリーの再利用に関する法律制定

第4章. 廃棄物を減らし、価値を高める LESS WASTE, MORE VALUE

4.1. 廃棄物防止と循環型社会を支援するための廃棄物政策の強化
4.2. 毒性のない環境で循環性を高める
4.3. 機能するEUの二次原料市場の構築
4.4. EUからの廃棄物輸出に対応する。

○廃棄物削減と価値創出を実現する
EUの廃棄物発生量は年間25億トンに達し、減少していません。加盟国の半数は、2020年までに一般廃棄物の50%をリサイクルするという目標を達成できない可能性があります。また、禁止物質がリサイクル材に残るなど、安全性の懸念は残っています。
・廃棄物発生抑制と循環を支援する廃棄物政策
・無毒性環境での循環性向上
・リサイクル原材料のための機能的なEU市場創出
・EUからの廃棄物輸出対策

第5章. 人々、地域、都市のために循環性を機能させる MAKING CIRCULARITY WORK FOR PEOPLE, REGIONS AND CITIES

○循環経済に必要なあらたな職業を創出する
2012-2018年の間に循環経済関連の雇用は5%増加、400万人となっています。今後循環経済が加速することで新たな職業が生まれ雇用が増える分野も数多くあります。
・技能支援と雇用創出、循環経済への移行を支援

第6章. 横断型取り組み CROSSCUTTING ACTIONS

6.1. 気候ニュートラルの前提となる循環型社会
6.2. エコノミーを正しく理解する
6.3. 研究、イノベーション、デジタル化による移行の推進

○横断的取組をすすめる
気候中立性達成のために、循環性とGHG削減のジナジーの拡充が必要となります。
・循環性の影響の体系的測定方法の整備
・EUタクソノミー規制に循環経済観点を統合
・研究、イノベーション、デジタル化を通じた移行推進

第7章. グローバルレベルでの取り組み LEADING EFFORTS AT GLOBAL LEVEL

○グローバルレベルで主導推進する
サーキュラー・エコノミーを欧州主導で牽引する
・プラスチックに関する世界的合意に向けた国際努力を主導
・グローバルサーキュラーエコノミーアライアンスの提案

第8章. 進捗状況の確認 MONITORING PROGRESS

〇循環経済の移行加速化のための国家計画や施策のモニタリングを強化していく必要があります
・循環経済のためのモニタリング枠組みのアップデート
・様々なレベルでの循環性評価手法の改善


第9章. 結論 CONCLUSION

循環型経済への移行は、EU域内だけでなく世界的に見ても、システマティックで深く、変革的なものになるでしょう。それは時に破壊的であるため、公平でなければなりません。そのためには、EU、国、地域、地方、国際など、すべてのレベルにおけるすべてのステークホルダーの連携と協力が必要です。
したがって、欧州委員会は、EUの機関や組織がこの行動計画を承認し、その実施に積極的に貢献するよう求め、加盟国がこの行動計画の野心に照らして、自国の循環経済戦略、計画、措置を採択または更新するよう奨励する。さらに、欧州委員会は、欧州の将来に関する議論のテーマに循環経済を含めることや、市民ダイアログの常設テーマとすることを推奨する。


最後に

いかがでしたでしょうか。改めてですが、欧州の本気度が十二分に感じられます。
この「循環経済行動計画」に含まれるイニシアチブと発表のタイミングは、同計画の末尾にANENEX(今後のスケジュール)に記載されている。2021年から2022年にかけて数多くの新たな発表が目白押しとなっています。
循環経済における欧州委員会の動き、これからも注目していきたいと思います。

※参考:ANENEX(今後のスケジュール)

〇今後の取組スケジュール:持続可能な製品政策枠組み
持続可能な製品政策イニシアティブのための立法案 2021
持続可能な製品政策構想のための立法案 2020
新しい「修理する権利」を確立する立法および非立法措置 2021
グリーンクレームの実証に関する立法案 2020
セクター別法制度における義務的なグリーン公共調達(GPP)基準と目標、および義務的なGPPに関する段階的な報告 2021年時点
産業排出量指令の見直し(策定予定の利用可能な最良技術参照文書への循環経済の取組の統合を含む) 2021年時点
業界主導の産業共生報告および認証システムの開始 2022


〇今後の取組スケジュール:主要製品バリューチェーン
循環エレクトロニクスイニシアティブ、共通の充電ソリューション、および中古デバイス変換に対する報酬システム 2020/2021
電気・電子機器における特定有害物質の使用制限に関する指令の見直しREACHおよびエコデザイン要件との関連性を明確にするためのガイダンス 2021
新しいバッテリー規制枠組みの提案 2020
使用済み車両に関する規制の見直し 2021
適切な廃油処理に関する規制の見直し 2022
容器包装に不可欠な要件の強化および容器包装と過剰包装削減のための見直し 2021
包装、建設資材、車両など主要製品の再生プラスチック含有量とプラスチック廃棄物削減対策に関する義務的要件 2021/2022
意図的に添加されたマイクロプラスチックの制限およびマイクロプラスチックの非意図的放出に関する措置 2021
バイオベースプラスチックおよび生分解性・堆肥化可能プラスチックの政策枠組み 2021
EUテキスタイル戦略 2021
持続可能な建築環境のための戦略 2021
食品サービスにおける使い捨て容器包装・食器・カトラリーに関する再利用可能な製品代替イニシアティブ 2021

〇今後の取組スケジュール:廃棄物削減と価値創出
特定フローに対する廃棄物削減目標および発生抑制に関するその他対策 2022
分別収集促進のための全EU調和型廃棄物分別収集とラベリング 2022
リサイクル材およびリサイクル材を原料とした製品における懸念物質の追跡・最小化する方法 2021
懸念物質の存在に関する調和した情報システム 2021
さらなるEU全体の廃棄物と副産物基準のさらなる開発の検討 2021
廃棄物輸出に関する規則の改訂 2021


〇今後の取組スケジュール:市民、地域、都市のための循環型職業創出
スキルアジェンダ、近日公開予定の社会経済行動計画、スキルパクト、欧州社会基金プラスを通じた循環経済移行支援 2020年時点
統一政策基金、Just Transition Mechanismおよび都市イニシアチブを通じた循環経済の移行支援 2020年時点

〇今後の取組スケジュール:横断的取り組み
EUおよび国内レベルでの循環経済と気候変動緩和・適応との相乗効果を捉えるための測定、モデリング、および政策ツールの改善 2020年時点
炭素除去の認証のための規制的枠組み 2023
環境とエネルギー分野における国家援助に関するガイドラインの改訂に循環経済目標を反映 2021
非財務報告に関する規則および持続可能な企業統治イニシアチブと環境会計イニシアチブの文脈における循環経済目標の主流化 2020/2021

〇今後の取組スケジュール:グローバルレベルでの取組のリード
プラスチックに関する国際的合意到達に向けた努力をリード 2020年時点
グローバル循環経済アライアンスの提案と天然資源の管理に関する国際合意に関する議論の開始 2021年時点
自由貿易協定、二国間・地域・多国間プロセスや合意およびEUの対外政策基金手法における循環経済目的の主流化 2020年時点

〇今後の取組スケジュール:進捗モニタリング
新しい政策優先事項を反映した循環経済モニタリング枠組みの改善、消費・マテリアルフットプリントを含む資源使用に関するさらなる指標開発 2021


数藤 雅紀 suto.masanori@members.co.jp
University of Cambridge Judge Business School, Circular Economy & Sustainability Strategies修了認定、循環経済戦略プランナー

参考資料:

https://www.csreurope.org/sustainability-booster/the-european-commission-updates-the-new-2020-industrial-strategyhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/5ba822c725506e14.html
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11687334_po_084602.pdf?contentNo=1
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/fact/jp/10573/2020_New_EU_CE_ActionPlan_v1.12.pdf




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