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ときめきと妄想が膨らむ本 「物語をおいしく読み解く フード理論とステレオタイプ50」

 今回は福田里香さんのご著書、「物語をおいしく読み解く フード理論とステレオタイプ50」についてです。

お菓子研究家の福田さんのフード理論は、なんとなく存じ上げていました。この本を読んで、更に物語に出てくる食べ物と人間関係について深読みでき、楽しくなりました。


・内容紹介

以下のように紹介されています。

人気お菓子研究家の原点!
漫画やドラマなどに出てくるさまざまな食べ物。それはどのように扱われているのか? フード理論を知ればもっと物語が面白くなる!
 
大きな口を開けて美味しそうに食べる人は腹の底を見せているため善人! フード目線から物語における登場人物の性格や感情、状況を読み解く。更に「賄賂は菓子折りに忍ばせる」「失恋のやけ食いはいつも好物」など、よく似た演出を50のステレオタイプに分析。フード理論を知れば、新しい発見や興味が深まること間違いなし!

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福田さんのリズムのある文章に加え、オノ・ナツメさんの挿絵が素敵すぎて、楽しく読めました。
特に印象的だったステレオタイプをご紹介します。

・ステレオタイプ12: スーパーの棚の前で、ふたりが同じ食品に同時に手をのばすと、恋が生まれる

・・・このステレオタイプの、2パターンの描写が最高だったので、引用い
たします。

 *譲り合いパターン
A 「あ・・・・・・」
B 「ごめんなさい」
A 「いえ、こちらこそ」
B 「これ、どうぞ」
A 「いえ、あなたこそ、どうぞ」
B 「そんな、あなたの方が早かった」
A 「(笑)同時でしたよ」
B 「じゃ、ふたりで分けませんか」
 
*取り合いパターン
A 「ああっ!」
B 「何するの」
A 「こっちの方が早かった」
B 「いや、こっちよ」
A 「困るよ、急いでるんだ、譲って」
B 「だめ。あ、見て!たいへん、あそこにUFOが!」
A 「え?そんな馬鹿な」と、Aがよそ見した隙に、パッケージを引っ掴んでレジに走るB。

・・・これを読んだ時、はっきりとふたりの表情や声音が脳内に展開されて、とても面白かったです。

・ステレオタイプ16: 朝、「遅刻、遅刻・・・・・」と呟きながら、少女が食パンをくわえて走ると、転校生のアイツとドンッとぶつかり、恋が芽生える

朝「きゃー遅刻、遅刻!」って展開になるのも、食パンくわえて走るのも、転校生のアイツがなんか気になるのも、ザ・少女マンガ。
この一文だけでニヤニヤしてしまいました。
 
そして、学生時代に、朝時間があるけれど真似して食パンをくわえて走ろうとしたことを思い出しました。食パンに口の中の水分が全て奪われ、登校するまで食べきるのが地獄でした・・・。
 
他に好きだったステレオタイプは以下です。

・ステレオタイプ35: 「これ、あちらのお客様から」バーのカウンターで見かけるアプローチはいつもこれ
・ステレオタイプ36: マスターが放ったグラスはカウンターをすべり、必ず男の掌にぴたりと収まる

ここでもマスターの私のイメージは、シュッとした格好良い人です。どこで見かけたか覚えていない、でも確実に何度も見たシーンです。

・「フード理論」の面白さ

紹介されているステレオタイプは、「あー確かにあるある!」とその情景がすぐに浮かんでくるのですが、こんな風にぴったりと言語化されることも、その意味を考えることもありませんでした。「なんとなく知っている」一場面が、物語や人間関係の描写にこんなに関係しているなんて、と驚きました。

・ステレオタイプ10: 絶世の美女は、何も食べない
・ステレオタイプ50: 極悪人は食卓を慇懃無礼に扱う

上記には全く気付いていませんでしたが、思い返すと確かに!

ステレオタイプ10を見て、ある物語に出ていたミステリアスな美女は、食べている場面はなかったし、逆に美女なのに大食いだったあのキャラは、すごい親しみやすかったなあと思い出しました。

ステレオタイプ50のページには、スーツ姿の無表情の男性が、きれいに盛り付けられたデザートのお皿に、たばこを押し付けているイラストが添えられており、「ひぃ」っとなりました。
甘いクリームに、ぐっとたばこを押し付け、火を消す。これだけで、残酷さが際立つの理由も、本で丁寧に解説されていました。 

・おわりに

この本は、2012年に発刊された単行本 『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』を、改題・文庫化されたようです。
 
福田さんもオノさんも好きだったのに、『ゴロツキはいつも食卓を襲う~』の本を立ち読みで終わってしまいました。ただそれは、私に「ゴロツキはいつも食卓を襲う」のイメージが薄かったからでは、と気づきました。どんなステレオタイプの印象が強いかは、人に依って違うんだなあとも思いました。
 
このフード理論を詳しく知れて、更に物語が色々な角度から読めるようになり、楽しみが増えました。