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#99:掃除の時間

小学6年の3月。卒業間近の掃除の時間だった。

受験とバレンタイン

好きだったSさんも自分も中学受験をしたのでお互い違う中学に入学する予定だった。なので会えるのは、あと1か月足らず。

思い返せば、小学校低学年でSさんが転校して来た時から気になっていた。5,6年で同じクラスになり、彼女を含む女子グループ5人組とはそこそこ仲良くしていた。

受験もひと段落してのバレンタイン。放課後、5人組が家に来て集団でチョコをくれた。

何、これ?5倍返しが必要?(苦笑)

とは思ったが、まあ嬉しいものだった。それはもちろんその中にSさんも居たからだと思う。

掃除の時間

そんなこんなで、卒業までに告白することにした。小学生なのでそれによってどうする(付き合う)みたいな事はあまり何も考えなかった。

ところが告白のチャンスは意外にないものだ。わざわざ呼び出すにも、いつも5人組は一緒に居るのでそもそも声掛けるのが難しい。

そして、唯一、単独行動となる掃除の時間に告白するのが良いのでは、との結論になった。

告白

今日は掃除するエリアが偶々Sさんと同じで、教室の机を後ろに全部下げて、総勢5人くらいで教室の床を掃いていた。他のクラスメイトは運動場や他の教室、色々と担当毎に他を掃除。

他のクラスメイトが帰ってくる前、同じ教室で掃除する周りにも気付かれないように。これは短期決戦だ、と作戦を練った。

掃除も終わりかけ。後は机を元に戻すだけ。

「そう言えば、この前、好きな男子、女子の話になったよな?(5人組とそういう話になった。もちろんその時はシラを切っている)」

「うん、そうね。そういう話したね。」

「前は言わなかったけど、教えようか?」

「え、いいの。教えて教えて!」(ゴシップをゲットできることを期待した顔)

「いいよ、じゃあ耳貸して」

(耳元で)「オマエ…」

「えっ?……」(耳が真っ赤になる)

そして、そんな耳を赤くして立ち尽くすSさんよりも更に動揺した自分は、掃除も途中にして運動場へ走り出した。

伝えたいだけ伝える、一方的な宣言。しかも、オマエって。今にして思うところは多々ある。

ただその時の精一杯の勇気と知恵を振り絞り、こういう伝え方をするのが限界だった。

その後

あっという間に1ヶ月経ち、予定通り、お互い卒業した。告白後、当然その話がクラスで広まったり冷やかされたり、お互いとも気まずい感じだったりはあったような気もする。

しかし、はっきり言ってよく覚えてない。予定通り、違う中学に進学して疎遠になったというその事実が後に残っただけだった。因果応報だが、伝えることで新しい関係性や何かが勝手に生まれることもない、と身をもって知った。

Sさんは本当はM君が好きでとか、実は5人組の別の子がこちらに好意があり、あの告白でややこしいことになったとかもあった気もする。

でもそれらの事情はどうあれ、あの告白までが自分では初恋だった気がしている。

当時から自己中心的、かつ自己完結してしまうところが人としての問題点だろうと思う。残念ながら、今もその問題が解決する兆しはない。

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