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中国ランニング市場現地視察:広東省深圳市 / 福建省厦門市

私は普段より中国ブランドのランニングシューズを愛用し発信をしている。

こと、コロナ禍では中国に入国することはほぼ鎖国状態であったのだが、今年よりその壁が少しずつなくなってきたように思うので今回は中国南部の広東省深圳市(シンセン)と / 福建省厦門市(アモイ)で現地視察を行った。

中国南部の広東省深圳市は香港と隣接。福建省厦門市(Xiamen)は台湾に近く年中温暖な気候。

なお、深圳市では陸上競技の最高峰クラスのシリーズ戦であるダイヤモンドリーグ(以下DL)中国大会が9月2日に開催される予定だったが、大会の1ヶ月前に急遽、福建省厦門市に会場を変更することが公式に発表された。

DLのメインスポンサーである中国不動産大手のワンダグループ(万達集団)の影響もあり、厦門では2032年までの10年間、DLの厦門大会が開催される。今後、中国でDLを観戦したいと思っている人がいれば、このnoteを参考にしていただければ幸いである。

深圳から厦門は高鉄(新幹線)で2時間20分程度。ちょうど東京から京都ほどの距離感である。今回は香港から深圳に入り、厦門を経て再度深圳に戻って香港から帰国するという3泊4日の日程だった。今回は現地のスポーツショップや現地法人の訪問と併せてDLの視察も兼ねていたが、台風が接近していたこともあり、流動的なスケジュールであったが、アテンドをしていただいたHattiさんのサポートのおかげで有意義な滞在となった。

まず初めに中国入国に際してであるが、現在ではビザの発行が必要である。日本のパスポートはビザの発行無しに入国、滞在できる国が非常に多いため仕事で海外を訪問することが多くない人でなければビザの発行はあまり馴染みがないかもしれない。コロナ前までは一般的な短期間の旅行であれば中国はビザなしで入国、滞在できたが現在はビザを発行しなければならない。

例外として香港から深圳に入国、短期滞在する場合のトランジットビザが現地で発行できるが、現状日本人の場合は中国大使館から商用ビザか観光ビザを発行してもらって入国するのが通常。しかし、発行までに1ヶ月以上かかるケースもザラにあり、急な出張などでは入国できないケースもある。


深圳市南山区(都市部)の最新事情

中国の広東省(中国南部)に位置し、中国のシリコンバレーと呼ばれる「深圳市」にはIT特区のビジネスエリアがあり、今回私はそのエリアにある現地法人のテック企業を訪問した。

深圳市西部の南山区はアジアトップクラスの多国籍テクノロジー・コングロマリットであるテンセント(腾讯)の本拠地であり、日本での西新宿副都心のような区画の広さ、ビジネス拠点の高層ビル群が特徴である。

奥に見えるいびつな高層ビルがテンセントの本社ビル。
中国版メッセンジャーアプリの微信(WeChat)を開発・運営している
新築の高層レジデンス棟が10棟ほどある区画。深圳市が優秀な人材の囲い込みのために寮として建設したもの。IT特区だけあって、優秀な人材が中国から集まってくることが容易に想像できる。

ビルの下に降りてみると、昼時はフードデリバリーの配達員がとても多いことに気づく。彼らが乗っているのは電動バイクであり、ほぼ無音に近い。中国ではこのような電動バイクが普及しており、電気自動車の急速な普及も含めて「エコな都市」という印象を受ける。

フードデリバリー自体は日本でも急速に普及しているが、深圳市のような都市部においてはPUDOのようなロッカーが普及しており、フードデリバリーの配達員がビルの上まで行かなくていいようにロッカーの中に食事を入れるという。配達員の効率化が図られており、注文者と配達員の需要と供給のバランスを取るのに必要不可欠なものであると感じた。

フードデリバリー用ボックス
宅急便用ボックスとは違って中身が見えるのが特徴
車内ではバックミラーでタッチパネル操作ができ様々な機能があるが後ろ見にくそう…。

世界トップクラスの「キャッスレス大国」の中国ではアリババによるAliPayや、テンセントによるWeChat Payといった電子決済がかなり普及しており、よっぽどの田舎でない限りは現金を持ち歩く必要がない。日本でもPayPayや交通系マネーなどの電子決済は普及しているが、それでも全てのお店が対応している訳ではないことを考えると、中国よりも不便であると感じることが多い。例えば私の家の近所のマクドは最近までPayPay非対応だった…。

また、中国のお店では顔認証でIDを判断し、すぐに決済が完了するというシステムも見かけた。とにかく決済までのスピード感がすごく、レジの会計待ちという現象が発生しない。また、飲食店では食事前の事前決済が通常である。確かに私の家の近くにある中国系のオーナーによる中華料理屋でもQRコード読み取りの事前決済システムが導入されているので、中国の飲食店では広く普及していると考えて良さそう。

そして、深圳では逆にびっくりしたのがクレジットカードに対応していないお店がそこそこあること。飲食店やショップではクレジットカードを導入するとクレジットカード会社に手数料を支払う必要があるが、電子決済の場合は手数料が一切かからない。国もキャッスレス決済を推進しているため、QRコード決済やスマホ決済の普及率が非常に高い。逆にいえば、アテンドしてくれる現地人がいない限りは、AliPayや、WeChat Payといった中国大手の決済手段を持ってないと(チャージしていないと)困ることが多そうである。

現地法人のメンバーとの昼食
私が訪問したテック企業のマーケティングチームは若手の活躍が目立つ。中国の都市部の場合、転職は当たり前でキャリアアップのために行うものだという認識があり、アメリカなどと同じよう。

彼らのマーケティング活動には以下のキーパーソンが重要視されている。

インフルエンサー:ルックスやスタイルが良いなど商品やサービスに対する専門性に特化していなくてもフォロワーが多く発信力がある。
KOL(Key Opinion Leader):商品やサービス、業界に対する専門性と発信力がある。深い知識や技術による高い訴求力と信頼性を持っている。
KOC(Key Opinion Consumer):レビュー力に優れ影響力を持つが、必ずしもフォロワーや発信力が上の2つより多いわけではない。消費者の立場に立って商品やサービスを利用して使い込んでいる。消費者目線でのレビューができ、企業側のPRの思惑に左右されず商品の「公平な訴求」ができる人。

企業広告だけでなく、巨大市場の中国おける現代版のマーケティングにはこのような人物を押さえておかないといけない。また、中国のSNSは独自に発展してきたため(一般的にTwitter、Instagram、Facebookが使用できないため)WeChatのようなメッセンジャーアプリ(日本で言うLINE)のニュースや企業アカウントでの発信力も影響を持っているようだ。

中国の場合、インフルエンサーやKOLのフォロワーにしてもメッセンジャーアプリの登録者数にしても規模感が違いすぎるため発信力も桁違いである。

今回は現地のテック企業を訪問したが、エンジニアの数がとてもとても多く、この企業に大きな技術力があることに納得した。例えば、アジアナンバーワン大学の座を何年もキープしている北京の清華大学を卒業したエンジニアが複数名在籍しており、優秀な人材を抱えていることは明らかだった。


大きくて広い南山区のショッピングモールと現地の食事

今回の目的の1つは中国のショッピングモールなどのスポーツショップの視察。これは、中国大手スポーツブランドとそれ以外のグローバルブランドの両方を店頭でじっくり見てみたいというイメージが訪中の前からあった。

中国では模倣品が大量に流通しているローカル市場も“もちろん”あるが(日本にもあるが)基本的に中国の都市部のショッピングモールでは正規店しかないので安心して買い物ができる。中国ブランドのショップが多数入居しているローカル色のあるショッピングモールから、誰もが知っているグローバルブランドのみ入居している大型ショッピングモールまで様々であった。

ここに限った話ではないが、中国は全体的に土地が広いせいか設計上そうなっているのか知らないが、建物は大きく広く、通路も広いのが特徴である。東京とは違って広いところがかなり多いので、ゆとりがあるように感じた。

ショッピングモール内にあるスケートリンク。夏季でも営業しており学校帰りのキッズが多数。
シンガポールのモールに造りや内装が似ている気が。中華デベロッパーが共通点なのだろうか?
中国でも本気ならアシックス
ランニングクラブの活動があるホカのお店

滞在2日目の昼にまた別のショッピングモールに立ち寄り、中国ブランドのショップを視察。

中国大手スポーツブランドの李寧(LI-NING)
7折とは「30%オフ」の意味
特歩(XTEP)
安踏(ANTA)
LI-NINGはやや高価格帯の“ハイセンスブランド”としても知られている

2日間、深圳を散策したところ、物価は東京よりも全体的に安いと思う。

例えばタクシーやDiDi(滴滴)などの配車アプリで移動する場合。10-15分乗っても1,000円に到達することはないが、日本のタクシーはボッタクリレベルであることを考えると、単に日本が高すぎるだけかもしれない。

また、ホテルも安い。日本で10,000-15,000円クラスの中堅ホテルでも、深圳では4,000-7,000円程度である。これは中国の現地の予約サイトやアプリで予約した場合であるので、現地人に予約を依頼するのが安上がりとなる。

深圳での中堅クラスのホテル。ジム、プール付き、やや広めの部屋で1泊4,500-6,000円は安い!
日本の同クラスのホテルよりも広々としている。

食事も全体的に安く飲茶など日本人の舌に合うと思う。

飲茶は美味しい
良質なザリガニ。少し辛いが美味しい。
ビールが進む料理がたくさん
スイカは安くてかつ美味しい!


健康なウォーカーやジョガーが集う南山区の公園

深圳市南山区の荔香公園はジョガーやウォーカーたちで賑わっている

深圳市には朝から昼夜問わず公園でウォーキングやランニングを楽しむ人がたくさんいる。

深圳市には大きな公園がいくつもあるが、この荔香公園は南山区のITビジネス特区から近く、深圳大学(テンセント創業者の出身大学)の真横に位置している。

荔香(中国語ライシャン)とはライチという意味で、ここにはライチの木が植えられておりシーズンになると販売されるそう。

遊歩道は1周で1.4kmと中国では比較的小さい公園である(代々木公園ぐらいの規模感)。しかし、その公園内には平日の朝からウォーキングやランニングを楽しむ人が非常に多く「ウォーキング大会が毎日行われている」と錯覚するぐらいである。

太極拳をしている人は見かけなかったがとにかく平日の朝から人が多かった

この公園では9割がウォーキング、1割がランニングという比率で、中国南部で健康に興味を持っている人が多い事がよくわかる。平日の朝の場合(私が走った時は)年齢層は老若男女であり、ランナーはエリートレベルではなく大半がジョガーだった。

平日の朝から活動的な人たち
屋外の筋トレコーナーはなんと電動の器具がいくつも!!

周回コース自体は小さな起伏が連続するコースで、フラットコースではないが、ウォーキングやランニング以外にも電動の筋トレマシンコーナーや他のスポーツを楽しむ人たちで活気に溢れており、トイレも比較的キレイで日本人でも気軽に利用できる印象を持った。

トイレは比較的キレイ

この公園の近くには中山公園という大きめの公園があるが、荔香公園は遊歩道が整備されているため昼夜問わずにウォーキングやランニングを楽しむ人が多いのだそう(深圳市南山区に住む現地人によれば)。

荔香公園の周辺には出張・観光で利用できる大きめの宿泊施設がいくつかあるので、ぜひ深圳市南山区に行く事があれば荔香公園で運動することも良さそうだ。

深圳市には空港があるが、香港と海を挟んで隣接しており香港国際空港からフェリーで入国できるなどアクセスも良い都市である。冬季でも20℃ほどの気温であるため年中温暖な気候であり、例えば日本の冬季に観光を含めて現地で運動を行うのに最適な都市である。


DLが今後10年開催されるリゾート地の厦門市

滞在2日目は台風の影響もおさまり、深圳から厦門に高鉄で移動。台湾もそうであるが、中国の新幹線も日本の新幹線とほぼ同じ造りとなている。

高鉄(中国の新幹線)
日本の新幹線とほぼ同じレイアウトで乗り心地も同クラス
高鉄の降り口は空港に少し似ている

高鉄のエントランスは深圳も厦門も空港かと思うぐらい広い。チケットレスの中国ではオンラインで予約をすると、ID(日本人の場合はパスポート)を入り口 / 出口にかざし入退場を行うのでチケットはもはや意味をなさない。

中国南部・福建省は台湾から海を挟んで西側にあり年中温暖な気候。半島である厦門島はリゾート地として開発が進んでおり中国国内では人気の観光地であるが、日本ではまだまだ知名度が低い。

この厦門の象徴は白鷺(シラサギ)という鳥であり、渡り鳥が多く鳥好きにはたまらないといえるだろう。そして、陸上競技最高峰のシリーズ戦であるDLはこの厦門市で今年新設されたばかりの白鷺競技場(※ Egret Stadium)で今年からの開催。今後10年間厦門での開催が予定されており、日本人選手を応援しに厦門にいく日本人が増えるかもしれない。
※ Egretは英語で白鷺の意味

今回のDL厦門大会では、秦澄美鈴(女子走幅跳)、三浦龍司(男子3000mSC)、村竹ラシッド(男子110mH)、中島佑気ジョセフ(男子400m)が出場。日本と同じ東アジアでの開催ともあり、今後も日本のトップ選手の出場が増えることを願っている。

会場の雰囲気としては中国人の観客がほぼ大半で、欧州の大会のように、欧州の陸上ファンがごった返しているような雰囲気ではなかったが、それでも中国選手の活躍には大きな歓声が上がり、また世界トップクラスの選手の高いパフォーマンスにも拍手が贈られていた。

今回一緒に行ったしんやさんと白鷺をバックに1枚。

このようにスポーツイベントに今後力を入れていくであろう厦門市だが、リゾート地の厦門島には2つの大きな国家海洋公園があり、南部の観音山のビーチエリアと、東部の五縁湾のベイエリアに分かれる。

しんやさんとしんやの2:00まで飲んでいたけど翌朝はしっかりとランニング。

今回は宿泊先の近くに五縁湾があったので、湾岸沿いの遊歩道でDL観戦の翌朝に走った。このエリアは整備されており、ランナーやサイクリスト、ウォーカーにとって憩いの場所となっている。

また、観光地ということで旅行で訪れる人にとっても、隣接している五縁湾湿地公園とともに人気のスポットのように感じた。ベイサイドコースは端から端まで片道約7.5kmとボリュームがある。

1年中温暖でジョガーにとっては最適

南部のビーチとは違ってこちらは砂浜一帯で潮干狩りを楽しむ家族連れが見られたが、卓球台が橋の下の日陰エリアに設けられているなど中国らしい風情もある。

東岸の先にはショッピングエリアがあり、中国のスポーツブランドの特歩(Xtep)のお店の跑步俱乐部(ランニングクラブ)の文字が目に入る。まるで横浜のような雰囲気でベイサイドでの練習会が盛んなようだ。

XTEPのランニングクラブがある店舗

中国ではほとんど音が鳴らない「電動バイク」が普及しており、遊歩道でも徐行ほどのスピードで走行しているので、ランナーは注意が必要である。それを考えるとエリートランナーよりかはジョガー向けのランニングコースといえる。

日本は島国であるが故に、景観の良いシーサイドコースやベイサイドコースが多くあるが、この五縁湾のベイエリアも負けず劣らず素晴らしいコースであると感じた。

乔丹(Qiaodan)の店舗

厦門のショッピングモールが様々あるが、やはり広々としたスペースが特徴的。中国ブランドのQiaodan(乔丹、チャオダン)は私のお気に入りブランドの1つであり、今回はカーボンシューズ、帽子、Tシャツ、短パンを買って20,000円以内だったのでとても安い。ノベルティで夏用の布団まで貰った。

中国のスポーツブランドは日本のアニメとのコラボ商品、ライセンス商品がちょこちょこ販売されている印象。

ノベルティの夏用掛け布団をGET

ランニングシューズの開発に近年力を入れている(R&Dに投資をしている)中国大手スポーツブランドは10社ほどあるので、巨大な市場である中国でも国内シェアの競争が顕著である。

匹克(PEAK)
鴻星爾克(ERKE)のカーボンシューズ

厦門最大級のショッピングモールでは今回のお目当てであった、特歩の最新カーボンシューズである160x 5.0と160x 5.0 Proを購入(もちろん自腹!)。

新発売の160x 5.0と160x 5.0 Pro

オンラインでも購入できるが、店舗でのメリットは履き比べができること、サイズをキッチリ合わせることができること。どちらも前作よりサイズを1つ下げたが、オンラインでは従来通り同じサイズをオーダーしていたと思う。

特に160x 5.0 Proは今年発売されたトップクラスのカーボンシューズの期待があるので、トレーニングで履いてみたいと思う。

今回の3泊4日の滞在は非常に有意義なものであると同時に、アテンドしていただいたHattiさんのサポートなしでは無理ゲーであったことを痛感。今後は中国語を少しずつ勉強しながら出張での訪中の経験を増やしていくのもアリだと思った。

やはり、現地で感じてみないとわからないことも多く、特に中国の都市部では経済の成長スピードはとてつもなく速い。そのため、数年ごとにアップデートが必要であり、今後もこのようなnoteとしてまとめていきたいと思う。

中国は広大な国土であり、西部は山岳部で高地合宿でも利用される。また、北京などの北部は北海道のように冬季は寒いため、今回訪れた南部とは気候が違う。土地ごとの風土があり、それによって中国の各省で人気のブランドの違いなどもあるだろう。また、南部は泉州市のようなスポーツブランドの本社が密集しているエリアもある。このように福建省はシューズの生産工場が元来から多く、シューズ製造のメッカであったことから、スポーツブランドの文化も根付いている。今度は現地のロードレースやイベントなどに参加して、そのような空気感を体験してみたいと思う。

今年は成都でユニバーシアードが開催され、また2032年までのDL厦門大会など、中国経済やスポーツイベントは無視できない存在である。また、杭州でも今月末からアジア大会が開催され、中国経済やスポーツイベントの動向を追うことは、日本と同じアジアの中でもその成長性を考えると今後重要度が高まるだろう。

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