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ストーリーも世界観もよくわからないままだが、気がつくと100時間以上『サガ エメラルド ビヨンド』を遊び続けていた

ゴールデンウィークの連休中、俺はずっと『サガ エメラルド ビヨンド(サガエメ)』を遊んでいた。なぜなら、俺はまだ『サガエメ』のことが、よくわからないからだ。たぶん、永遠にわからない気がする。

『サガエメ』は、とにかく変なRPGである。尖っているとも言えるし、サガシリーズの集大成であるとも言えるし、前作『サガ スカーレット グレイス』の延長戦上にあるようで、なんだか全然違うサガとしか言えないサガである。個性という面では、ほかに似たプレイ感のRPGが思い浮かばない。

Steamでは、スクエニの作品とは思えないほどレビュー数が少なく賛否両論である。この評価を見ても、後方彼氏面で腕組みをしながら「ああ、やっぱり賛否両論になるよなあ」とレビューを眺め、「まあ、でも俺(私)は、面白いと思うからいいや」と、納得しながらプレイに戻るタイプのゲームである。まさに今ハマっている人間の大半が、たぶん「自分は楽しいタイプのゲームだな」とニヤニヤしながら、プレイし続けているRPGだと思われる。

おそらく、自分だけは楽しめていると確信している全国〇万人くらいのサガシリーズファンが、「俺だけは楽しめてるのにもったいないな~」と思いながら今日もアメイヤ編のラスボス(発売から10日経って、やっとラスボスを出現させる方法が判明した特殊な主人公のルート)を探していたり、初めて遊んだけど「自分だけが楽しめてるんじゃないかな」と思っている初心者が、最初に選んだディーヴァ ナンバー5のラスボス戦で勝てず、泣きがら鍛えなおしたりしているかもしれない。

最後に1人でも勝ち残っていれば良く、回復アイテムすらないバトルはとても潔い。基本的なシステムは『サガ スカーレット グレイス』のBP制を踏襲しているが、タイムラインを繋げて連携すること、チェイス技やフォロー技などの新しいリザーブ技が増えたことで、戦略の幅が広がっている。

頭を使って考える戦闘は、本作最大の魅力である。理解すればするほど、戦闘のバランスが神がかっていると思えてくるはずだ。1人だけで連携技を繰り出す「独壇場」システムも、ジリ貧からの逆転要素として素晴らしい。

どう分岐しているのかわからない。束縛されているようで自由も感じる独特なフリーシナリオ

線に沿って誘導されていくはずが、遊ぶごとに新しいイベントが出てくる膨大な「フリーシナリオ」は、全主人公を1周した程度では全貌が見えない。(最終的には選べるようにもなるが)自由に行きたい場所を選べるわけではなく、分岐する1本道とでも言うべき変なシステムは、ほかに例を見ない。

「強くてニューゲーム」を基本とした、ローグライクJRPGとでも言うべき変わったスタイルのゲームで、1回クリアして終わりではなく延々と繰り返しプレイして変化を楽しむRPGとなっている。主人公によっては1時間程度で終わるかと思えば、20時間くらいかかる者もいる。条件を満たさないと、ラスボスすら出ないで即終わる主人公もいる。慣れてくると平均5、6時間程度で周回していくのだが、こんなに同じRPGを延々と周回しているのに、なぜか遊び続けてしまう。違う展開を見たくてゲームブックを読み返す感覚だ。

たとえば、「カマラ」という世界では、訪れるたびに巫女(選ばれると花になってしまう生贄みたいなもの)として選ばれるキャラクターが変わってくる。確認した限りだと3パターン用意されているが、この時点でも面白い仕組みだ。CRPGなのに、アドリブで物語が変わるアナログ感すらある。

最初に来たときはレラとの物語だったのに、次は姉妹の話に代わったりもする。同じ巫女の話が展開したりもするが、主人公ごとに反応が違って見え方も変わる。サガエメの魅力はバトルだけではなく、こうした展開の変化にもあると気づかされた。逆に、動物が石化されてるだけでよくわからない世界もあるが……。仲間も増えないし、あそこはいったい何だったんだろう。

良い話なんだけど、前の巫女が「ワッカ」だったのが気になって仕方ない。

どうしてワッカがエプイケなんだよ、教えはどうなってんだ教えは。『FF7リバース』にもワッカに似た鳥が出てきたが、スクエニでワッカが流行ってるのか? 禁止しなきゃキリがないってわけだ。エボンノゴノアコヲ!

話がズレてしまったが、このゲームはかなり今時の作風と異なる。同じRPGを延々と周回させて、違いを楽しむ。別に全部の主人公をクリアしたところで何か大きな目的が提示されるわけでもない。全員集合して巨悪に立ち向かうような展開は、10周以上しているがないと思う。たぶん、ないだろう。

もう、これだけで人を選ぶのは間違いない。

だが、何か妙な魅力があるのも事実だ。

ずっと遊び続けてしまう。自分は仕事の記事を書くうえで、PS5版をトータルで10周したあとに「寝ながら遊びたい」という理由でSwitch版を遊び始めているのだが、まだまだ知らないイベントが出てくる。同じ主人公で周回すると、2周目で微妙に話が変わるかと思えば、同じようなイベント……に見せかけてオチが変わったり、そもそも1周目も選んだ場所や選択肢で違いが生じ始める。分岐はすごく多い。フリーシナリオというよりも、フリーダムシナリオだ。カオスな物語である。

なにせ、これだけ遊んでも未だに物語の全貌がよくわかっていない。

攻略本で判明するのかも、よくわからない。ちゃんと明かしてくれるの?

しかし、これが何か妙な魅力があって取りつかれるように遊んでしまう。「そこが面白くない」と言われれば「そうだね」とうなずいてしまうし、「そうだよね、そこがいいよね」と言われたら「そうだね」とうなずく。

俺たちは面白いと思っている。たぶん、それで良いのがサガなのだ。

神要素と闇要素が同居する、オススメしたさとオススメしにくさ。何とも困ったRPGである

ゲームを語るとき、しばしば「加点法でオススメするなら~」と「減点法だと~」という言い方をされるが、このゲームは加点法でも減点法でも簡単に語れるくらい、尖っている。令和のRPGとして唯一無二の「神要素」と、いくらなんでも令和のRPGとは思えない「闇要素」が同居しているからだ。

シナリオとバトルが楽しくて周回し続ける「神要素」なら、困った部分が周回に向いていない「闇要素」である。周回ゲーなのに、周回に向いていないユーザビリティは、どうしてそうなったのかと思うほどだ。

大手メーカーから出たとは思えない雑過ぎるUI。1戦ごとにやらなければならないのに、とても操作しづらい「トレード」のシステム。1個1個いちいち確認しないと、必要な素材を先に見せてくれない「武器強化」も、かなりやりづらい。既読スキップのない会話は、流石に周回すると気になってくる。

前作にあった戦闘倍速がない……あげればキリがないほど、遊びやすさの面では、今時のRPGと思えない。前作よりも退化した節すらある。

ここら辺の遊びにくさは、本当に大手の作品とは思えないくらい雑だ。

Switch版だと、ほかのハードに比べて動作が重く感じる点もある。『百英雄伝』もPC版とSwitch版では別物くらいロード時間が違うのだが、こればかりは性能面で仕方がないのかもしれない。どこでも持ち歩けることと、トレードオフなのだろう。昨今の事情だと、これだけで失格の烙印を押されてしまいそうだが……しかし、それで遊ばなくなるかと思えば、そうではない。

幼稚園児レベルの知育パズルなど、存在意義がよくわからないものもある。
これは欠点というよりも意味がわからないだけだが、三角形という部分に何か物語的なテーマがありそうなので、入れざるを得なかった……のか?

実際にこうした欠点を挙げてはみたものの、遊んでいるとプレイの比重が置かれているのが欠点とは無関係なバトルであったり、トンチキでヘンテコな見たことがない物語の展開だったりするので、意外とプレイ中は気にならない時が多い。トレードするときに我に返ってイライラしたりもするのだが、それでも止められないのだから、ゲーム自体が面白いのだろう。快適であることだけがゲームの面白さではないかもしれない。つくづく、そう思う。

このゲームの体験は、変な仲間と一期一会を楽しむことにある。

むしろ、変なのしかいない。

『サガエメ』は、変なゲームだ。いまだによくわからない。
そもそも、なんで世界をめぐっているのか、何と戦っているのか。
さまざまなことが、よくわからないまま終わり、また始まる。

俺は、まだまだ『サガエメ』を遊び続けてしまうだろう。


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