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短編小説 🦋蝶のバンダナ

こんにちは。とらねこです。
最近、魅力的なクリエイターさんが急増してる気がします。
ライティング力もさながら、素晴らしい教養があります。
新時代の若いnoteクリエイターが次々に産声を上げています。

わたしには才能がないので、羨ましい限りですね🤭

さて、今回は短編小説です。
冬の凍える公園に佇む老婆。
年齢にそぐわない蝶のバンダナ。
彼女がこの世に生を受けた理由は何だったのでしょう?


🦋蝶のバンダナ


冬の凍えるような公園で、ひとり佇む老婆。
腕の太さほどしかない太もも、真冬だというのに半袖に半ズボン。
いつも大量のイチジク浣腸を首から下げていることからついた異名。

骸骨浣腸ばばあ。

痩せこけた頬、真っ白な長髪を見ては、小学生が馬鹿にして石を投げる。
このクソガキ共が…。
口を開くと真っ赤に腫れ上がった歯茎が覗く。
弱々しい声は子どもたちに届くことはなく、折れたヒールを引きずるように歩く。
年齢に似合わない蝶のバンダナ、銀のネックレス。

およそ80年前――。

貴族の家系に生を受ける。
第二次世界大戦中だというのに、豪勢な食事、午後のティータイム。
庭のプールでのんびりとそのひと時を過ごす。
まるでわが国で起こっている戦争が他人事のように、優雅に読書をしたり絵画を鑑賞したり、奴隷遊びをしていた。

人をナイフで傷つけたらどんな反応をするんだろう。
奴隷を傷つけては、その様子を目に焼き付けるように眺めていた。

1945年9月2日。日本政府はポツダム宣言の降伏文書に調印した。
日本は戦争に敗戦したのだ。
敗戦国となった日本は、日清戦争以降に得た植民地を失い、占領地から兵士を撤退させられた。

沖縄、奄美諸島、小笠原諸島はアメリカの統治下に、北方領土はソ連が統治することになった。
国内は、空襲により焼け野原となり、物価が急上昇し、多くの失業者が出たのだ。
だが、財閥の御曹司であった彼女は、優雅な生活を営むのが当然の特権として疑わなかった。

彼女が好きなものは、美しいもの、美味しい食べ物、きれいな男性、そして、悲痛に歪む人間の嘆き。
嫌いなものは、醜いもの、まずい食べ物、自分より美しい女性、そして、自分の思い通りにならない人間。

昭和天皇が国民の元へ駆けつけ、励ます様子を見ては嘲笑う。
愚民どもめ。
7000万の国民は、天皇諸共わたしに跪けばいい。

彼女は貴族仲間とつるみ、とある計画を立てることになる。
国民拉致計画だ。

人生の贅沢を知り尽くした彼女は、退屈でならなかった。
もっと多くの、もっと大きな刺激が欲しい。
そう感じるようになったのだ。

中国や朝鮮からの拉致被害が相次いでいた当時だが、それに紛れて若い女性や子どもを連れてくるように配下に命じた。

拷問――。

彼女を満たすものはそれしかなかったのだ。
人間の悲鳴、苦痛に歪む表情、衰弱してゆく人間をじっと観察するのが生き甲斐となっていた。
いつしか人間としての表情はなくなり、悪魔のような形相となっていた。
容姿は醜く太り、からだ中には吹き出物ができ、親族を罵倒し、彼女についていくものは誰もいなくなっていた。

財閥追放――。

五十代になった彼女は、無一文の状態で、ついに財閥を追放されてしまったのだ。
手に職があるわけでもなく、もちろん、労働などしたことなどない。
買い物すらしたことがない。

おい、そこのお前。
わらわに食事を持ってこぬか。
通りすがりの男性に声をかけるが、馬鹿にされたような視線を残して去っていく。

おい、そこの馬鹿面。
そう、お前だ。
何をグズグズしておる、早くわらわに食事を持ってこぬか。
彼女が声をかけたのは、街のチンピラだ。

この糞ばばあが絡んでくるんだ、やっちまおうぜ。

複数のチンピラにボコボコにされた彼女。
何でわらわがこんな目に…。
わらわは貴族なるぞ。
愚民どもとは命の重みが違うのだ。

一人涙していると、目の前に一人の女の子が現れた。

おばちゃん。お腹空いてるの?
チョコレート食べる?

ボロボロの服にボサボサの髪の毛の少女。
自分が食べるために大切に取っておいた、貴重な食料を彼女に与えた。
どう美味しい?

一週間まともに食事をしていなかった彼女は、涙しながらチョコレートを頬張った。
あんなに太っていたのに、衰弱して見る影もなかった。
前を見ると、少女がこちらを笑顔で見ている。

何でわらわの方を見ている?
だって、美味しそうに食べるんだもん。
嬉しくなっちゃうよね。

まだ10歳にも満たないような少女に、何か大切なことを教えてもらった気がした。

お前の両親はどうした?
ふたりとも戦争で死んだんだよ。
兄弟もいたんだけど、みんな死んじゃった。

これからどうするんだ?
ん~。物乞いでもして生きていくよ。
なんでそんなに明るく振舞える?食べるものがなくって、死ぬかもしれないんだぞ。
それは大丈夫。だって、この国の人ってみんな優しいから。困ってる人がいたら助けてくれるんだよ。

そこに天使を見た気がした。

私がしてきたことは許されることではない。
大勢の命を自分の欲望のために奪い、決して許されるものではない。
でも、この少女だけは、何としてでも守り抜かないといけない気がした。

少女と二人暮らしが始まった。
少女は彼女の髪を櫛でとかし、短くカットし、蝶のバンダナできれいにまとめた。
ほら、綺麗になったでしょ。
自分の身支度すら経験がない彼女にとっては、斬新な行為だった。

ありがとう…。

あれ、わたし今、自然と言葉が出た。
こんな感情、はじめて。
貧しくって、明日食べる食料もないのに、何でこんなに幸せなんだ。
嬉しさのあまり、しわくちゃな頬を大粒の涙が零れ落ちる。

あー、神さま、わたしの命はどうなっても構いません。
どうかこの少女だけは幸せな人生を歩ませてあげて下さい。

すると、どこからともなく声が聞こえてくる。

この少女はわたしが引き取る。
お前は、今世の罪を一生かけて償うがいい。
醜い姿、異常な精神、孤独。
これと引き換えに、この少女の安泰は保障しよう。

ふと目を覚ますと、目の前には少女はいない。
鏡に映る自分は醜く痩せこけた姿。

これでよかったんだ。

私が生まれてきたのは、きっとあの少女を救うためだったんだ。
どんなに醜くとも生涯を全うすることを決意する。
右手に蝶のバンダナを握りしめる。

醜くも美しい道を探し求めて。


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今回のお話はここまで。
人の運命って最初から決まってるんでしょうか?
それとも、自らが作り出すもの何でしょうか?
分からないから、人生は楽しめるのかもしれませんね。

ではまた会いましょう🌱

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